3話
その時、さわさわとほんの小さな音が聞こえてきた。むつは、さっと颯介の後ろに回り、背中合わせになった。
「何か聞こえる」
些か緊張気味のむつの声。
「なんもきこえっ‼」
腰の辺りにむつの肘が、入り祐斗は慌てて口を閉じた。耳に神経を集中させてみるが、何も聞こえない。
風が出てきたのか、枯れ葉の舞う音、枝の擦れる音しか聞こえてこなかった。
「降りよう、足場が悪い」
颯介の提案に従い、屋根の縁まで行くと颯介とむつは飛び降りた。
祐斗は、おっかなびっくりに、おずおずと縁まで下りていたが、枯れ葉で足を滑らせたのか「ぬをうっ」と妙な声をあげて落ちてきた。
手摺に足が引っ掛かったのか、尻と背中をもろに打ったようで、痛みに呻きつつも立ち上がり、尻をさすりながら、むつたちの所に向かう。
参道の真ん中辺りまで来ると、むつがぴたりと止まった。
唇に指を添えて、目を閉じている。
「足元…?」
むつの微かな声に、颯介と祐斗の懐中電灯が下に向けられた。だが、見えるのは石畳と枯れ葉だけだった。
どのくらい、そうして立っていたのか。長く思えたが実際の所は、5分も経ってないだろう。
「そろそろ、戻ろっか」
寒いね、と言うむつの、声にはすでに緊張感はなくなっていた。