2話
電話を切ったむつは、温かい紅茶をちびりと飲んだ。冬四朗の提案で、結局むつと冬四朗は、資料館に行く前に喫茶店で休む事にした。
「どうしたのさ?」
「社長のあほが机に灰を落とした」
乗り物酔いも引いて身体も暖まったのか、むつの顔色もよくなっている。携帯で時間を確かめると、残りの紅茶を飲み干し、そろそろ出ようと、冬四朗を促した。
「あ、わたしが出すって」
「いや、仕事中だからな。奢って貰うわけにいかないよ」
それならと、500円玉を冬四朗に渡した。
「わたしの分ね、一緒にお願い」
「律儀だな」
「仕事中ですから」
支払いを終え、店を出るとさっきよりも冷たい風が吹いていた。空もどんよりと暗く重たそうだ。
「俺はそろそろ戻らないとだけど、1人で大丈夫か?」
「うん、だってすぐそこでしょ?駅はどっちにあるの?」
「何だ、今日は誰とも合流しないのか?」
「うーん、悩んでる」
とりあえず資料館行ってからかな、とむつが言うと、冬四朗は、頷いて駅までの道を教えてくれた。
あの山の中から30分ほど車で走って、ようやく町らしくなった場所に出たとは言えど、人通りも交通量も少なく、市の中心部というのに駅も遠かった。