2話
「まだ、右にも左にも民家は所々にまとまってある感じだけど、どうする?」
「うーん。思った以上だ。徒歩で何とか見て回って調べられると思ってた」
「そりゃ無理だ。自転車でもなかなか厳しいんじゃないか?山が多いから坂道も多いしな」
「みたいね、とりあえず資料館に」
そう言うと、むつは窓を半分ほど開けた。ヒンヤリとした風が勢いよく入ってくるが、冬四朗は文句も言わない。
「酔ったか?」
「うん、ごめんね」
「カーブの多い山道だからな。もぅ30分もしたら町中に出るから、資料館行く前にどっかで休むか?」
「大丈夫。あんまり付き合わせて、しろーちゃんが怒られても困るし」
むつは、ぐったりと座席に背中を預けて、目を閉じた 。そして、眼鏡を外すと鼻の頭の所を揉むようにさすった。
「それは、大丈夫。聞き込みとパトロールって事にしてるし、それより湯野さんにまだ資料送ってなかったな」
「あ、それこそ、大丈夫。資料なんてあってないような物だよ、人が関わってるわけじゃないんだから」
「そうか?…あ、弁当ありがとうな。確かに料理は出来るみたいだな」
「ふふん、いいお嫁さんになれると思うんだけどね、貰い手が見付からないぜ」
冬四朗は、だろうなぁと小声で呟いたにもかかわらず、むつに太股をパシンと叩かれてしまった。