2話
「だが、そのうちに年寄りや子供たちも姿を消していった。けどそれは、今に始まった事じゃなくて、前からあった。ただ、今は急に人数が多くなっただけの事なんだよ」
「学校に行って帰ってこないままだとか、畑に出掛けて帰ってこない、だとかね」
「この辺は山に囲まれた土地だ。川や崖もある、そこに落ちて見付からないのではないか、ってのが言われてた」
けどね、と言いかけた狐が、もぅカステラはないのか?とむつに聞いてきた。むつは、苦笑いを浮かべて、もう無い。けど、協力してくれたらまた持ってくると請け負った。
そうすると機嫌の良くなった狐の口はさらに、柔らかくなった。
「最近だ、2ヶ月ほど前、12月頃からか、おかしな雰囲気なんだ。我らの様な者とは違う気配がするようになった」
「それが関係してる、と?」
「そこまでは分からない、けど可能性としてはあるんじゃないかと」
ごそごそとポケットからタバコを取り出すと、むつは1本を口の端にくわえた。
「あ、吸ってもいいですか?」
「われにもおくれな」
箱ごと差し出すと3匹ともが、タバコに手をだしてうまそうに吸い始めた。
「何なんだかなぁ」
火をつけようとすると、目の前でポッと小さな火が灯った。狐火だ。面白そうにそれで火をつけ、むつもゆっくりと煙を吸い込んだ。
「この辺の資料館なんかは、どこにあるんですか?」
「確か、下の方の町にあるけど、ここからだと、かなり遠いぞ」
「そうさなぁ、2時間も歩けば着くかな」
差し出された灰皿に、ぎゅっとタバコをおしつけ、むつは唸りながらごろんと寝転んだ。