2話
むつの周りを取り囲むように、影だけが伸びていた。それは、人の形をしてはいたが、やけに細く長かった。
「何の用かな?」
真後ろから声がした。と、同時に獣臭く生暖かい息がむつの首にかかった。
ちりちりと首の後ろの産毛が逆立つような、何とも気味の悪い気配だった。
むつは、ゆっくりと振り向いた。
だが、そこには誰も居らず足元にクリーム色の大きな狐が居るだけだった。
「あなたが、ここに住んでるのかな?」
しゃがみこみ、膝に手を置いたむつは、狐にそっと話しかけた。動物好きの女の子が、猫にでも話しかけるようの雰囲気だった。
「人が沢山、居なくなっている。何か知っていたら教えて欲しい。あなたは喋れるよね?それとも…」
鞄の中に手を突っ込み、細長い形の箱を取り出した。
「野良猫みたく餌付けして仲良くならないとダメかしら?」
箱から取り出したのは、冬四朗にも出したカステラの残りだった。
甘い香りが気になるのか、狐はちらちらとカステラとむつを見比べた。すると突然、狐はすっくと二本足で立ち上がった。
「社務所にどうぞ」
それだけ言うと、すたすたと歩いていく狐を追って、むつも社務所に向かった。