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4話
「帰るぞ、バカたれ」
笑いながらむつは、もう1度叩こうとして、その手をそっと頬に添えた撫でた。温かく柔らかな肌だった。
「帰るよ」
颯介が笑みを浮かべながら、祐斗の手を取り起きるのを手伝った。
祐斗は、何故何度も叩かれたのか分からないといった顔で少しだけ不機嫌そうにしている。おそらく、蜘蛛と一緒に居た時の記憶はないのだろう。
その方が良いと、むつも颯介も思った。
とりあえず、社務所に戻ろうと車に向かう途中で、むつはもう1度振り返った。
あるかないかの風が吹き、さらさらと僅かばかりの灰をどこかへ運んでいく。
「むつさーんっ‼」
颯介と祐斗が、立ち止まっているむつを待っていた。むつは、少しだけ急いで二人のもとに向かった。
もう後ろを振り向く事はなかった。