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4話
しばらく燃え続けた炎は、やうやく小さくなってきた。その炎の向こう側からむつが、歩いてくるのが見えた。
「ほら、ね。わたしはまだ、だ」
むつが、ぼそりと呟いた声は誰にも聞こえていない。
颯介は祐斗を寝かせ、むつのもとに駆け寄った。そして、上から下まで何度も見て安心したように笑った。
「大丈夫、なのか?」
「くらくらする。もぅ寝たい」
普段のむつに戻ったのか、つられてむつもへらりと笑った。そして、確認するように後ろちらっと視線を向けた。
そこには、何もなかった。
最初から何も無かったかのように、巨大な蜘蛛の姿も、火が燃えていた形跡も何も残ってはいなかった。
「仕事、終わったよ。帰ろ」
むつは、左腰に差している日本刀にそっと触れて、すいっと祐斗の方を見た。
「もぅあのバカも大丈夫でしょ」
寝転がっている祐斗のもとに行くと、乱暴にも振り上げた手でパチンと祐斗の頬を叩いた。呻くような反応があるのを見ると、もう1度パチンと叩いた。
「うっ、つ…」
痛そうに顔をしかめる祐斗の頬をむつは、遠慮なしに思い切り叩いた。
「いったいっすよ‼」
「あ、起きた」