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4話
祐斗がちゃんと呼吸をしている事を確認した颯介は、むつに声を掛けるべきか悩んだあげくに辞めた。
声を掛けた所で、むつが止まるとも思えなかった。
自分が悪戯に倒した木にぶつかり、蜘蛛は逃げるのをやめた。
相手が逃げなくなったからとむつは、急いだりもしない。ただ、ゆっくりとした足取りで近付いていく。
途中、颯介が投げ置いた日本刀の鞘を拾い上げ、腰に差した。
「ちっ…ちくしぉぉぉ‼」
蜘蛛が大きく上体を持ち上げ、むつを頭から丸飲みにするかのように襲ってきた。むつは、逃げる素振りさえ見せずにそれを見つめていた。
ずんっと足を地面につけると、砂ぼこりが舞い地面が揺れた。
むつは、そこには居なかった。
「返して貰うよ」
刺さったままになっていた日本刀の柄に手を添えて、引き抜いていた。刀身にねっとりとした体液が付着していたのを、一振りで落とす。
そして、大きかな鎌のような顎をすっぱりと切り落とした。