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4話
大人しく女の言葉を聞いていたむつは、ポケットをあさり潰れかれた箱を取り出した。タバコだ。
口にくわえ狐火で火をつけると、深く吸い込み、白い煙を吐き出した。
「良いわよぉ最後だもの。タバコくらいはゆっくり吸ってちょうだいな」
女は笑顔を絶やさない。普通の女であれば、恐らく良い女なのだろう。だが、むつたちの前に居るのは普通ではない。
むつは、気だるそうに腕をあげて口元にタバコを持っていく。大粒の汗が流れて、顎から落ちる。
今は、颯介の腕に支えられているから、立って居られるものの、支えがなければすぐにでも崩れ落ちてしまいそうな程だった。足に力が入らず震える。
戦闘能力の高いむつが、そんな状態なのが分かっていて、これからすぐに餌にありつけるのが分かっていて、嬉しくて堪らないって様子が、ひしひしと伝わってくる。
むつの指の隙間から、タバコが落ちた。