10/157
2話
冬四朗は、祐斗の出した緑茶を一口飲むと鞄の中からおもむろにファイルを取り出した。
テーブルに置かれたファイルを颯介と祐斗は、何も言わずに、じっと見つめていた。だが、それは冬四朗の後ろから伸びた手が持っていった。むつだった。
もう片方の手のに持っていた皿を、ゆっくりとテーブルに置こうとして、そっと冬四朗が受け取った。すでに、むつの視線はファイルに注がれており、皿の上のカステラが斜めに落ちそうになっていたからだ。
足音もなく近づいてきたむつに、驚くでもなく冬四朗は、カステラをフォークで半分にすると口にほおりこんだ。
「忙しそうね」
むつは、ファイルから取り出した紙を一枚一枚めくりつつも、冬四朗の方に視線を向けていた。
その顔は、あまり見る事がないような穏やかで優しい表情をしていた。だが、すぐに眉間に皺を寄せて、昨日も帰ってないでしょ、と冬四朗にだけ聞こえるような小声で呟いた。