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夏の香りと甘党の神様  作者: うさぎ荘
8/22

第7話「徹夜で頑張る」

翌日、今日はみかんと一緒にみかんジュースをお供えしてみる事にした。


しばらく近くの陰から覗いていると、やはりあの細い腕が祠の中から静かに飛び出してきた。


すかさず捕まえると、


「ぎぇゃあぁぁ!」


と、また驚きながらもみかんジュースの缶を握りしめていた。


「何だよぉ、またお前かぁ?

びっくりするから腕掴むのやめろ。

昨日の掴まれた跡がまだ残ってんだからよぉ。」


「す、すみません。

でもちょっと聞きたい事があって…。」


すると、神様はジュースの缶を握りしめたまま、少し考え込んでいるようだったけど、数秒の後、缶のフタを開けながらゆっくりと話し出した。


「まさか、こんなみかんを絞っただけのお供えで俺に願い事でもする気じゃねぇだろうなぁ?」


一瞬、缶が祠の中へと消えていったかと思うとすぐに空になったみかんジュースの缶が目の前の置かれた。


「まぁ、話くらいなら聞いてやってもいいけどなぁ。あっ、これお代わりあるか?」


僕は自分のを差し出しているので、それしかないと伝えると、上に向けてお代わりを要求していた元気な手の平をたちまち下に向けて、しょぼくれ様を見事に表現していた。


神様が仕方なくみかんに手を伸ばしている間に僕は話を切り出した。


「あの…、恋に形ってあるんですか?」


神様は丁度みかんを口に運んていた時だった。

祠の奥からむせる音が聞こえてきた。


あのむせり方だと、きっと吐き出しているな…と思っていると、やっぱり案の定だった。


「おぉい!何だよ急にぃ。みかん吐き出しちまったじゃねぇかよぉ!あぁ、勿体無ぇ。」


「ご、ごめんなさい。別にふざけてる訳じゃなくて…ちょっと聞きたかったんです。」


「何だ?恋の形だとぉ?

そんなもんあるわきゃねぇだろぉ!

そんなもんあったとしても何に使うんだ?あっ、あれか!好きな女と両想いになれますようにぃ。みてぇなやつだろぉ?

くだらねぇぇ!で、誰が好きなんだぁ?」


「くだらないって言ってて、何でそんなにわくわくしてんですか!いないですよ。

ちょっと、昨日そういうのがあるっていうのを聞いたんで、神様なら知ってるかなぁ…と思って聞いてみたんですけど、知らないみたいですね。どうせ神様じゃわかりっこないですよね。じゃ、

他を当たってみます。」


「お、おい、何だよ急に野暮ってぇなぁ。

こっちも急な質問で内容が理解出来てねぇんだからもうちょっと詳しく教えてみろやぁ

。」


「わかりました。じゃあ、長くなりますけど…。」


僕は昨日の事を順を追いながら話していった。

話の最後の方になると神様は黙り込んでしまった。


「まぁ、恋の形をしたもんなんか持ってなくてもよぉ、恋愛なんていくらでも出来んだからなあ、その美菜女があるって言うんだからきっと何か訳があんだろぉ。

探すの手伝ってやったらいいんじゃねぇかぁ?」


「でも、手がかりがまったくないですし…。」


「あのなぁ、見つける事だけが正解じゃねぇんだよ。

一緒にこの辺り回ってみろ。

記臆のある場所を周ってるうちに思い出す事だってあんだぞぉ。」



「えっ?そうなんですか?知らなかったなぁ。わかりました!出来るだけこの辺り周ってみます。」


僕は急に暗かった目の前が明るくなっていくように感じて、これならきっと見つかるかもしれない、と気持ちも盛り上がっていた。


「ていうかよぉ、お前それもう恋してんじゃん。」


「えっ…?」


「えっ?じゃなくてもうそれ恋だから。

好きな奴の事そんなに考えてんだからよぉ。」


僕は神様にそう言われて、昨日の真帆ちゃんさんが言っていた事を思い出した。


恋をするのには知恵と勇気が必要だと。


大切だと思う人のために何が出来るかを考え、実際にそれを出来るっていう事が恋なのだと

理解をした。


抜けてるようでしっかりと自分の意思を持っている真帆ちゃんさんは凄いと思えた。


むしろあんんなに年上なのに、今まで友達感覚でしかなかったというのも凄いと思う。


色々と感じる事はあるけど、でも僕にはまだ恋愛なんて到底出来ない。


それは僕には圧倒的に勇気がないのが問題だった。


難しい事があればすぐに諦めてしまう。


父にさえ、自分の気持ちが言えない。


そんな弱虫な自分だからまだ恋なんて出来ない。


だけど、僕だっていつかはそんな自分から変わりたいと思ってはいた。


だから、今年のこの夏は何だか変われるような気がしていた。



もしかしたら今年は一生無理やれているのかもしれない。


だけど自信のない僕は神様にこう返事をした。


「いいえ、僕のはまだ恋じゃないです。

こんなの…恋なんて呼べませんよ。」


神様はそれ以上は何も言わなかった。


その後、少し言葉を交わした後、僕は昨日と同じように美菜ちゃんの所へと向かった。


美菜ちゃんは今日も新しい髪型で、毎回僕をドキドキさせる。


後ろ髪を真ん中から二つに分けて縛り、前に垂らしているのを見ているうちに僕の心は今にも飛び出して飛び跳ね、雄叫びを上げたくなるような気持ちになった。



「勇人君、こんにちは!」


「こ…こんにちは。」


「ねぇ、今日はどこへ探しに行く?」


「今日は美菜ちゃんの記臆に残っている所を探そうよ。」


「えっ?でも私、記臆に残ってる所なんてこの堰の周りくらししか…。」


「だからこの近くを色々歩いて記臆に残ってるかどうかを探すんだよ。

もしかしたら思い出せそうな所もあるかもしれないよ。」


「そうだね、何か思い出せるかもしれないし、色々行ってみよ!」


今回の僕達は堰を通り過ぎて、近くにある小さい牧場に行ってみた。


牧場という名は付いているが、単なる牛舎だ。


外の柵から仔牛を覗いてみた。


皆、興味津々で柵の中を覗く僕達に近付いてきた。


「これじゃあ、僕達が見てるのか見られてるのかわからないね。」


と言うと、美菜ちゃんも「確かに」と言いながら小さく笑っていて、そんな楽しそうな美菜ちゃんを見ていると僕は何だかフワフワとした幸せな気持ちになってきた。


僕はぼんやりとだけど、これが恋の始まりなのかもしれないという事を意識した。


十分に仔牛を堪能した僕達は次に公民館を行ってみた。


公民館の外にはいくつかの小さい遊具がある。


「ここなら美菜ちゃんも遊んだ事があるかもしれないよ!」


「おぉ!そうだね!きっと私、ここに来てるかもしれないよね。」


そして僕らは時が経つのも忘れ、ブランコやすべり台で遊んでいた。



気が付いた時には、ひぐらしが鳴き始め、空も段々と真っ赤に染まりつつあった。


「結局遊んじゃったね。探し物全然見つけられなかったね…。」


「ううん。いいの。今日は勇人君と色んなとこに行けて楽しかったから。」


「そ、そう?楽しんでくれたのなら良かった。」


「それじゃあ…。」


「あっ、そうだ!美菜ちゃん。明日向こうにある川へ行ってみない?

そこを渡って小高い山があるから、そこを登ってお弁当食べようよ。」


「えっ?お弁当?」


「うん、僕が持ってくから。」


「やったぁ!!美味しそう。楽しみにしてるね!」


こんなに喜んでくれる美菜ちゃんを見て、僕の気持ちも最高に上昇を続けた。


家への帰り道、こんなに人の喜ぶのを見るのが気持ち良いなんて…と上機嫌で歩いていた。

しかし、この後有頂天になっていた僕は谷底へ一気に落とされたかのようなどん底気分を味わう事となるのであった。


翌日、僕はヘトヘトになりながら美菜ちゃんの元へお弁当を二つ持って向かった。


美菜ちゃんは僕の姿に気が付くと笑顔で手を振った次の瞬間、心配そうな顔つきでこちらを見てきた。


「勇人君、大丈夫?」


「え、え、え?何がぁ?ぜ、全然平気だけどぉ?」


「…だって、目の下に隈出来てるし、それに手も随分傷だらけだし…。」


「そ、そんな事ないよぉ。

昨日ちょっとやんちゃしちゃってさぁ、あっ、今日は髪の毛下ろしてるんだね。可愛いじゃん!」


僕は何だかいつもと様子が違っていた。

きっと、昨日ほとんど寝ていないからだろう。

いつもより舌の回転が良い僕はついそんな積極的すぎる言葉を言ってしまった。


美菜ちゃんの顔は一瞬のうちに真っ赤になっていき、僕は怒っているのだと、一瞬でおかしくなっていたテンションを元に戻した。


「ご、ごめん!べ、べ、べ、べ、別にからかった訳でも、い、イヤミでもなくて…、ただ、本心でそう思ったから…。」


更に美菜ちゃんの顔は赤みを増していき、僕は相当に焦り、参ってしまった。


「えー…えぇと、その…何というかそのぉ…だから…、美菜ちゃんを怒らせるような事を言った訳じゃないんだよ!あぁ、何て説明すればいいんだ…。」


すると、美菜ちゃんは大きな声で笑い出した。


「怒ってなんかないよぉ。嬉しかったの。いきなりだったから照れちゃって…。

勇人君て面白いんだね…それに、『今日も』って言ってくれて、勇人君がいつも見てくれてたんだ、ってわかって…嬉しいな。」


僕は照れくさそうに下に俯く美菜ちゃんを見ながら頭がクラクラしてきた。


こんな、何とも表現の仕様のない感情に振り回されながら、昨日徹夜してお弁当を作ってきて良かったと心から真帆ちゃんさんに感謝をした。


なぜ、僕の目の下に隈が出来たり、手が傷だらけなのかというと、昨日は家に帰った後、真帆ちゃんさんにお弁当を持っていきたいという話をした。


真帆ちゃんさんは快くお弁当を二つ作ってくれて、今日のお昼に美菜ちゃんと一緒に食べる手はずだった。


その一択しか考えていなかったし、普通はそうなるのが当たり前だと思っていた。


しかし、現実はそんなに甘くはなかったのである。


真帆ちゃんさんは満面の笑みで、


「じゃ、作ってみて。」


という無茶な命令を繰り出してきた。


「えっ…、僕、作った事ないんですけど…。」


「大丈夫よ。若いんだから…ね?」


「『ね?』じゃないですよ!

えっ、何言ってるんですか?」


「懐かしいなぁ。

おばあちゃんに色々教えてもらったっけ…。」


「い、いやいや…だから…。」


「だから、新入りが作るんだよぉ、全部。」


「む、無理です。今から作っても間に合わないですよ…。」


「大丈夫よ。夜はこれからなんだから…ね?。」


僕はもう泣きそうな顔で真帆ちゃんさんに訴えた。


いや、既に泣いていた。


でも真帆ちゃんさんにはそんなの関係ないかのように自然と話が進んでいってしまうのであった。


それからの僕は必死だった。


手指はみるみる切れていくし、火傷はするし、夜も深夜を過ぎる頃になると頭がぼんやりとしてきた。


真帆ちゃんさんも眠そうだったけど、ずっと手伝ってくれた。


全部出来たのは深夜二時だったような気がする。


いつも夜の十時には寝ている僕がこんな真夜中までお弁当作りに奔走するとは思いもしなかった。


何とか終わった事に喜びながら、僕はそのまま倒れこむようにその場で眠ってしまった。


朝、なぜか僕が布団の中から起きると、そこには包みに入ったお弁当が三つテーブルに置いてあった。


僕は、まさか真帆ちゃんさんも同行するのでは…と少しばかり焦った。


でも、三袋目に入っていたのはカメラだった。

そういえば昨日の夜、真帆ちゃんさんがカメラ使うか聞いてきた気がする。


僕は野菜を切るのに必死で適当に返事をしてしまった。


たぶん、カメラはあったけど、カメラケースは失くしてしまって、お弁当の袋が三つ出てきたので丁度良いと入れたのだろう。


僕はようやく真帆ちゃんさんの性格が掴めるようになってきた気がした。


知れば知る程がっかりするこの気持ちは何だろうか…と疑問に思ってしまう。


そんな事を考えながら、はっと我に返り鼻歌を歌っている美菜ちゃんの方を見た。


太陽が空の真上に近付き、徐々に額からあsが流れようとしてきている中、お弁当とカメラを持って、僕達は川の方へ向かった。

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