第5話「真実の話」
「み、美菜ちゃん、遅れてごめん。」
僕は急いで美菜ちゃんとの待ち合わせの場所へ辿り着いた。
今朝、神様に会って話までしてしまうなんて、思い出すだけでも不思議な気分になった。
美菜ちゃんは笑顔で「ううん。待ってないよ。」と嬉しそうに返事をしてくれた。
何だか、昨日よりも大人っぽい感じがした。
きっと髪の毛を一つに束ねて横から垂らした髪型のせいだろう。
落ち着いた大人な雰囲気を感じさせる美菜ちゃんを見ていると僕の心はまたフワフワと浮いて、空に消えてしまうかのような感覚だった。
「ねぇ、今日は何して遊ぶ?時間はあるの?」
「う、うん。あるよ。
でもどこ行こうかまだ決めてないし、向こうのベンチに行って話し合ってから行かない?向こうの方が日陰で涼しいし。」
「うん。そうだね。向こうで考えよう。」
美菜ちゃんは今日も楽しそうで、小走りでベンチの方に向かっていった。
その時、僕は彼女の足元をそっと見た。
足はちゃんとあってほっとしそうになった瞬間、息が止まりそうになった。
直射日光の当たる彼女の足元には驚く事に影がなかった。
確かに、彼女と会う時はいつも日の当たる場所にいた。
でも彼女の肌は全く焼けていp」おるどころか、透き通るような雪のように白い肌をしていた。
僕達はベンチに座り、どこに行きたいか、何をしたいかを話したけど僕の頭の中は彼女が幽霊なのかどうかを考えるので一杯になっていた。
「ねぇ、聞いてる?勇人君。」
「う、うん。ごめん。ちょっと考え事してて…。」
「えぇ?どんな事考えてたの?悩み事?」
「う、うん…まぁそんな感じかな。」
「えぇ、教えてよ。気になるなぁ。」
僕はしばらくどうしようか考え
た後、意を決して話してみる事にした。
「昨日、実は聞いちゃったんだ。美菜ちゃんの事…。」
「えっ…どんな事?」
「その…事故の事とか…。」
「えっ…。」
「そっか…、知られちゃったか…。」
彼女の表情はわかりづらかった。
少し苦笑いしながらも残念そうな、悲しそうで申し訳なさそうな感じだった。
僕の心は少しズキズキと痛み出した。
「何か…ごめん。」
「ううん。私の方こそごめんなさい。
隠すつもりじゃなかったんだけど、久しぶりに誰かとお話し出来たのが嬉しくて…。」
「良かったら、教えてくれない?美菜ちゃんの事。」
「うん。覚えてる事話すね。
って言ってもあまり覚えてないんだ。
自分が生きてるのか死んでるのかさえよくわからないし。」
「えっ!?どういう事なの?」
「最初から話すとね、私あの時の事覚えてなくて…。
どこの家に住んでいたのかもわからない。
ただ、覚えているのはどこかでお花を見つけて、堰の方に行ったような気がするの。
その後、気がついたらこの町にいたんだけど、誰にも声をかけられないし、話しかけても皆が無視して通り過ぎちゃうんだ。
それでおかしいな、って思って家に帰ろうとしたんだけど、その家がわからなくなっちゃって…へへへ…ダメだね、私って。」
僕は後悔した。そんな辛い記憶を思い出させてしまうなんて…。
でも、もし美菜ちゃんのために出来る事があるのなら、何か力になりたい。
そう思いながら、続きを聞いた。
「でもそしたらね、神様が助けてくれたの!最初はちょっと怖かったんだけど、凄く優しくしてくれて、こっちの世界の事とか、私の事とかも教えてくれたんだ。
それに影はないんだけど、実体はあるんだよ。ほら、触ってみて!」
僕は急に差し出された手を握った。
なぜか、僕の心臓は一気に高鳴り、顔が真っ赤になった。
体温はなかったが、こんなに女の子の手が柔らかいとは思わなかった。
僕は何も言えなかった。
緊張が高まりすぎて感想を言う事すら出来なかった。
だから、とりあえず首を縦に振った。
「そ…それはぁ、よ、よ、よ、よ、よ、よ、よ、良かったねぇ。」
僕は全部声が裏返っていたけど、気にしてない事を祈りつつ、その後も質問を続けた。
「それじゃ、何で僕だけ美菜ちゃんの事が見えるんだろう?」
「わからないけど、私の探し物を見つけてくれる人を探してたから神様が見えるようにしてくれたんだと思うよ。」
美菜ちゃんに言われて僕はふと今朝の事を思い出した。
祠の中からこっそり手を伸ばすような野良猫みたいな人も神様なのkなのかな…と考えつつ、美菜ちゃんに探し物について聞いてみた。
「探し物ってどんな物?」
「二つあるんだ。一つはね、私がどうして死んじゃったのか知りたいの。いくら思い出そうとしても全思い出せないんだよね。」
「死んじゃったのに死んだ理由が知りたいっって、何か不思議な感じだね。」
「だって気になるんだもん。どんな状況でどういう風に私は最期を迎えたのか…って。」
「何かよくわからないけど格好いいね!」
「でしょ!何てたって私、ロジカルシンキングだから!」
腰に手を当てて背をそらし、誇らしげに語る美菜ちゃんに僕は思わず身を乗り出して聞いた。
「マジ…カル…ジェンキンス?あっ!もしかして君も昨日のマジックショー見たの!?凄かったよね!あの『炎の大脱出』なんて
ハラハラしっぱなしだったし、人が浮いちゃうやつとかもう…。」
「ちょ、ちょっといきなりどうしたの?全然よくわかんないよ。」
気付けば僕はかなり美菜ちゃんの近くに接近していた。
「ご、ごめん!ごめんなさい。僕、つい嬉しくなっちゃうとしつこくなるからやめなさいってお母さんに言われてたんだけど、ついまた出ちゃった…。
うちのおじいちゃんの癖みたいで遺伝みたいなんだって。
怖がらせちゃって本当ごめん。」
「そんなに謝らなくて大丈夫だよ。
少しびっくりしちゃっただけだから。
私が言ったのはそ…マジカル何とかじゃなくてロジカルシンキング。理論的って事なの。」
「理論的ってどういう意味なの?」
「り…理論は理論よ。勇人君にはまだ難しいかもね。」
「そうなんだぁ、僕、まだ難しい言葉知らないから勉強しないと。それじゃあ、あともう一つの探し物って?」
「もう一つはね…『恋の形』を捜してるんだ。」
「えっ?恋って形があるの?」
「うん。ぼんやりとなんだけど、それをもらった事があって。
でも気がついたらなくなってたから。
それを見つけ出したいの。」
「僕…恋をした事ないから…それがどんなやつか知らないや…。」。」
「私もないんだ。だからね、それがないと恋が出来ないみたいだから…、それを見つけて…その…恋が…してみたくて…。」
最後の方は何を言っているのか聞こえなかった。
でも何だか面白そうだったので僕は一緒に探す事を快く了承した。
「じゃ、どこから探そうか?手がかりとかないの?」
「当時の事あんまり覚えてないから…、堰とかかな?」
「そうだね、じゃ、行ってみようか。」
その後、僕達は堰に行き、何か手がかりがないかを調べた。
僕達はとりあえず堰の周りを歩いてみたけど、十五年経っているこの場所から手がかりらしい物は何一つ見当たらなかった。
今日は特に収穫がなかったので、また明日会う約束をしてお別れをした。
僕は美菜ちゃんに何の役にも立てなかった事を謝った。
「ううん。私の方こそごめんね。
でも勇人君と一緒に堰の周りを歩けて楽しかったなぁ。」
笑顔で答えてくれる彼女を見ていて、僕の心はどんよりと重くなっていった。
誰かのために頑張って何も出来なかったのがこんなにも悔しく情けないものだとは思わなかった。




