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夏の香りと甘党の神様  作者: うさぎ荘
20/22

第19話「帰る準備」

翌朝、僕は家の中にある布団の中でぐっすり眠っていた。


ぐっすり眠り過ぎて数日間眠っていたような気がしたけど、カレンダーには真帆ちゃんさんが毎朝前日の日にちに変な印を付けていたので、お祭りが昨日であったという事を確認出来た。


僕は起きながらこの家の不思議な様子がすっかりと日常になってしまっている事に気付き、少し身震いした。


カレンダーに刻まれる印は一体何なのだろうか。バツでもマルでもチェックでもなく、記号のようにも文字のようにも見える。


きっと古代文字なのだろうと結論付ける事にした。


寝床は北枕だし、棚の上に隠す気もない『へそくり』と書かれた封筒が置いてあった。


こっそり覗いてみると中はお金ではなく、一枚の写真が入っていた。


そこには学生時代であろう制服を着た真帆ちゃんさんと黄色地にクマのキャラクターが描かれたタンクトップを着た知らないおじさんのツーショット写真が入っていた。


僕はこのおじさんをどこかで見た事があるような気がしたけど、見覚えはなかったので放っておく事にした。


それにしても学生の頃から大して変わっていない真帆ちゃんさんが雪女のようで少し恐ろしかった。


でも本当に恐ろしいのは別にある。


それは、今、僕の目の前にいる大きなタライとホウキを持って、仁王立ちで僕を睨みつけている真帆ちゃんさんだ。


「おい!新入り。今何時だと思ってるの!?朝ごはん冷めちゃうからとっとと祠に餌…お供えしてきなさい!!」


時計を見るとまだ八時にもなっていない。


いつも六時には起きていたのでそりゃあ大遅刻だ、と大急ぎで飛び起き布団を片付けてパジャマを脱ぎ始めた。


駆け足で祠の前まで行き、水をかけて急いで洗いながら、お供えの支度をした。


今日も冷凍のみかんを渡した。


最近ならお供えを置くとすぐに神様は現れたけど、今回は全然手を伸ばす様子はなかった。

僕はこんな所でゆっくりはしていられない、と急ぎ足で家の中に入りご飯をいただいた。


相変わらずご飯は美味しい。


特に今日は美味しく感じたのはなぜだろうか。


ご飯を食べながら、僕は昨日の事を思い出していた。


僕は、確かにあの時道端に倒れて気を失っていた。


でも気が付けば僕は布団の中にいてぐっすり眠り、更にはあんなに辛い思いをしたのに今日は凄く気分が良かった。


「でも、昨日は本当に驚いたわぁ。お祭りに一人で行って買い物してくるなんて言うから、じゃあ、ついてにりんご飴買ってきて。って頼んだら何も買ってこないでそのまま寝ちゃうんだもん。本当、これだから新入りは…。」


真帆ちゃんさんは昨日のお祭りの事でずっと何かをブツブツ言っていたけど、僕には何の事だか全くよくわからなかった。


まず、真帆ちゃんさんには買い物なんて頼まれていない。


それに僕は美菜ちゃんと行ったし、その美菜ちゃんの浴衣の着付けも真帆ちゃんさんがした。


「え?ちょっと待ってください。僕、真帆ちゃんさんから買い物なんて頼まれてないし、それに、昨日は…美菜ちゃんと一緒に行ったじゃないですか?」


「えぇ?どこの美菜ちゃん?」


「香園美菜ちゃんです。」


真帆ちゃんさんはそれを聞いて目を丸くしたけど、次の瞬間には笑い出していた。


「えぇ?あなたがぁ??夢でも見たんじゃないのぉ?」


「本当ですよ!だって、昨日、美菜ちゃんに浴衣着せてくれたじゃないですか?」


「え…、どうして私が着せる必要があるの?」

「だって、ここに連れてきたんですから、お願いしたじゃないですか?」


「あら、何か話がおかしいわね…。」


「そうですね。でも僕は昨日の事をありのままに話したつもりなんですけど…。」


「私だって、そうよ?」


僕と真帆ちゃんさんはしばらく考えこんでしまったけど、このままお互いに一歩も引かなかったので、ひとまずこの話はまた後に持ち越す事にした。


僕は、首をかしげながら昨日のお昼の事を鮮明に思い出していた。


それでも昨日の事ははっきりと覚えていたので、真帆ちゃんさんの勘違いだろうという事で済ませる事にした。


夏休みの宿題も終わっているし、外に行っても特に何もする事がないので裏の山に行ってみる事にした。


その麓にある祠のお供えを見ると、綺麗に剥かれたみかんの皮だけが残されていた。


「よぉ。」


僕は、一瞬、どこから声が聞こえてきたのかわからず戸惑ったけど、少し上を見ると、木の上の太い枝に座っている神様の姿を見かけたので僕も挨拶をした。


「あっ、おはようございます。みかんをすぐに取らなかったからいないか寝ているのかと思いましたよ。」


「あぁ、寝坊しちまったみてぇだなぁ。あぁ、それとお前もまぁ…昨日は…ご苦労だったなぁ。」


「えっ?昨日何があったか知ってるんですか?」


「あ…あぁ、まぁなぁ。結構走っただろおぉ?大変だったよなぁ。」


「えっ…えぇまぁそうですねぇ…あ!そういえば、昨日僕は、確かに美菜ちゃんと一緒にいましたよねぇ?」


「あぁ、いたけどよぉ。それがどうしたぁ?」


「あぁ、良かったぁ。それじゃあ僕の記憶の方がやっぱり正しかったんですね。今朝から何か、真帆ちゃんさんが変な事言うんですよねぇ。昨日、浴衣の着付けまでしておきながら全く覚えてないし、僕に買い物頼んだ事になってるし…。」


「あぁ…それなんだがよぉ。俺も不思議に思ってんだよぉ。まさかあんな事になるなんてよぉ。今までなかった事だたからよぉ。」


「えっ?どういう事ですか?」


「昨日、最後に美菜が消えただろぉ?その後…。」


「新入りー!お父さんから電話よー!そこにいるんでしょー?こっちいらっしゃいなー。」


神様が話し出そうとした瞬間にタイミング悪く真帆ちゃんさんの呼ぶ声がしたので、また後で話の続きを聞く事にした。


父さんからは明後日迎えに来るという事で僕は大慌てでフィルムを現像に出しに行った。


カメラ屋さんに行くと、僕は現像を急いでしてもらいたいとお願いをした。


バイトのお兄さんは、今の時期がとてつもなく忙しいようで、早くても四日はかかると言っていたけど、事情を話したら何とか明後日の午前中には仕上げてくれると、何とか引き受けてくれた。


僕は帰ってきて、神様にさっきの話の続きを聞きたかったのだけど、そんな暇はほんの一瞬もなかった。


まずは、真帆ちゃんさんの家の掃除、庭の掃除を念入りにやらされた。


それがかなりの重労働で、日が落ちる頃にはヘトヘトになっていた。


翌日は翌日で、僕のお爺ちゃんの家の掃除だ。

もうすぐ母さんが帰国して、お爺ちゃんの世話をするので、その前に綺麗にしておきなさい。と指令を受ける。


確かに、家の中はホコリっぽくなっていたし、庭も草が荒地のように伸びていた。


僕はホコリと草にまみれて爪の中まで真っ黒になっていた。


おまけに変な虫や蚊に刺されて腕や首がかゆくなっていた。


そんなだったから父さんが迎えに来るまでの間に神様とはろくに話もしていないし、会ってすらいない。


だから、最終日は何とか時間を作ろうと写真を取りに行く事を口実に時間を作った。


翌日、祠に行き、最後のお供えをしたけど、どんなに待っても神様が現れる気配はなく、呼びかけても何の返事もなかった。


しばらく待ってから、僕は諦めて写真屋さんへ向かった。


写真屋さんへ行くとバイトのお兄さんは写真を用意して待ってくれていた。


「坊ちゃん、何とか間に合いましたよ。ですけど、一枚だけ不思議なのがありましてね…これなんですけど…失敗にしてはちょっと…白すぎるような…。」


それは、全面が真っ白に光っている写真だと言って、僕に見せてきた。


僕は一瞬、驚いた。


「…これって…。」


「こちらで処分しときま…。」


「いいえ、それです!それが欲しかったんです!」


「えっ…これでいいんですかね…。」


「はい!これじゃないと!」


バイト兄さんはいぶかし気な顔をしたけど、全部を紙袋に包んで渡してくれた。


僕は心臓が高鳴った。


こんなに嬉しい事はどれくらいぶりだろうか。

いや、つい数日前までもこんな気持ちだったな、と大して時間も経っていないのに何だか懐かしい気分になりながら自転車を漕いでいった。


僕はこの写真を早くあの人に見せたくて、お礼を言いたくて、ウキウキしながら家路へと急いだ。

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