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夏の香りと甘党の神様  作者: うさぎ荘
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第16話 「祭りのあとの祭り」

僕は美菜ちゃんに「マジカルジェンキンス」がいかに凄いかを熱く語っていた。


僕の目は血走り、唾がマシンガンのように飛び散り、きっと美菜ちゃんは嫌な思いをしていた事だろう。


でも嫌そうな素振りも見せず、うんうん、と頷いて僕の話を聞いてくれた。


まだ僕が熱く語っている頃、周囲にある異変が起きた。


どこからともなく太鼓のような音が響いてきた。


もうお祭りはとっくに終わっている時間だし、お祭りでは聞いた事のない音頭だったけど、どこか楽し気で心がワクワクしてしまうような音だった。


「何だろう。急に…。楽しそうな音なんだけど、なぜか怖い気もするね…。」


僕がそう言うと美菜ちゃんは僕の腕にぎゅっとしがみついてきて、更に手まで強く握ってきた。


これからまた何が起こるのかわからない。


またあの化け物達がやってくるかもしれないし、次なる手を使って美菜ちゃんを捕まえに

来るかもしれない。


そんな緊張状態なのに…という後ろめたい気持ちもあってか僕は凄く幸せな気持ちになってしまった。




しばらくするとまた異変が起こった。


今度は笛の音が聞こえてきた。


その音色はとても穏やかで静かなのだけど、太鼓の音に合わせて楽しげなリズムが僕にとってはついつい踊ってしまうような笛の音だった。


「ねぇ!見てあれ!何かが光ってる…花火かな?」



「いや、狐火だね…。」


「え…?」


美菜ちゃんは一瞬固まったけど、また狐火が見えた時はそれほど怖そうではなかった。


「でもほら、いっぱい打ち上がってきたよ!ちょっと怖い気もするけど、何か綺麗。」


遠くの方でいくつもの狐火が下から上へと上がっては、また下へと落ちていく。


花火に劣らないくらいの輝きを放ち、僕の心は少しの間、全ての不安を忘れその光の数々二心を奪われていた。



そして、一つの青白く光る狐火がどこまでも天空の彼方へと消えてしまうくらいに高く、より高く打ち上がった時、それは起こった。


その狐火は空中で膨張していき、周りの暗い闇を明るく照らしたかと思うと一気に弾け、まるで本物の花火のように光が散っていく様は今まで見たどんな花火よりも美しかった。


その大きな狐火が弾けた後にポツ、ポツ、と道の両端に眩しいくらいに灯っていった。


そのうちにそれは段々と広がっていき、遠くの方から等間隔で灯っていく。


道が別れればその両方の道へと別れながら灯っていき、更にまた枝分かれを繰り返していきながらこの町全体の道を狐火が明るく照らしていった。


僕達はそのあまりの幻想的な出来事に心を奪われ、お互い無心で何も言わずに、ただぼんやりと見とれていた。


そして、その灯りは速さを増して町中に広がっていく。


間もなく僕達のいるこの道路も明るくなって、僕も美菜ちゃんも、お互いの姿をはっきり見る事が出来た。


僕らはあまりにも近くにいた事に気付き、恥ずかしくなった。


目をそらし、美菜ちゃんの顔を見る事が出来ない。


美菜ちゃんも同じに感じていたみたいなのか、僕の方を見ようとはしていなかった。


でも、僕達は離れようとはしなかった。


こんな幻想的な風景に魅了されているのに、どこか不安な気持ちもあったからだった。


なぜ、何のために、誰がこんな事をしているのだろうか。


もしかしたら美菜ちゃんを連れ戻し、地獄へ連れていくための儀式なのかもしれない。


地面から少し離れ浮いているその狐火は静かに素早く広がり続けていった。


僕達のいる場所を通り過ぎて、もっと奥の町外れまで明るくなっていく。


そして、僕達のいる場所よりも少し高い場所に火が灯った時、僕達が今、どの辺りにいるのかがわかった。


必死で走って手当たり次第に『恋の形』を探していたので、今、自分達がどこにいるのかさえわからずにいた。


そこは堰だった。


知らないうちにこのあたりにまで来ていたようだった。


僕は堰の方へ目を向けた。


堰の周りを囲むように狐火が現れ、水面に反射して僕達のいる場所は更に明るくなっていった。


「これ…花火よりも綺麗かも…。」


僕は美菜ちゃんの言葉に黙って頷いた。


僕達は夜空を見上げた。


夜空にはきらめく星が光っていた。


その中に流れ星を見つけたのだけど、それが僕達の方へと堕ちてきた。


流れ星は二つに別かれ、僕達めがけて降ってきたかと思うとそれぞれの光が僕と美菜ちゃんを取り巻き、僕達の周りは光の曲線で包まれていく。


「わぁ!すっごく綺麗…。」


その流れ星は僕達の周りを回ったり、上から光を振りまいたりしている。


僕達はそこまできてようやくこれが流れ星でない事に気付いた。


「綺麗だけど…これ、流れ星じゃないよね…。」


僕はこの光の正体をよぉく目をこらして見てみる事にした。


動きが速くて中々正体をつかむ事が出来なかったけど、ようやく動きが鈍くなり、姿が何となく見えてきた。


それは妖精のようなひらひらした光る蝶々のようだった。


小さく、シュンシュン、と飛んでいるそれは、飛び疲れたのか、僕の肩へと止まった。


「えっ?女の人!?』


僕は、今その光の正体をはっきり見る事が出来た。


確かにそれは蝶ではなく、妖精だった。


妖精と言っても和の香りのする妖精で、僕の掌に収まるくらい小さく、背中には鷲のように白くて立派な羽が生えていた。


天狗のお面を頭に飾っており、白い振袖に水色の腰帯を巻いていて、足には黒い鉄下駄を履いている。


帯が長くたれ下がり、それらが蝶と見間違える物となっていた。


ただ、それだけなら可愛らしい妖精だったのだけど、着物の丈が短くて太ももが露わになっていたからか、僕の胸はなぜかドキドキしっぱなしだった。


美菜ちゃんの方を見ると、赤い腰帯以外は全く同じ容姿の女の人が美菜ちゃんの手の上に座っていた。


「ふ、双子?」


この二人の妖精はくすくす笑うだけで、特に何かを話す事はなかった。


この妖精達は二人で顔を見合わせると空の方へと顔を向け、手を大きく掲げた。


その瞬間、空から沢山の光の粒が降ってきた。

それは、僕が今までに見た物の中で一番眩しく、どんな物よりも輝いていた。


その光は液体でも個体でもなく、また気体でもないようで、僕達の周りに降り注いでは消えていく。


下に落ちれば光は消え、僕の体に触れれば溶けて体の中へと入っていくような感覚だった。


僕はその次から次へと降り注ぐ光の雨に見取れていた。


美菜ちゃんも同じようで、ずっと上を向いて腕を広げ、全身でこの光を受け止めていた。


気が付けば、さっきまで肩に止まっていた妖精達はいなくなっていた。


でもこの光を前にしてたら、そんな事は大して気にはならなかった。


「あぁ…、凄いねぇ。」


漏れるような声で独り言なのか、美菜ちゃんに語りかけているのか、そんな思考も止まるくらいに綺麗なこの光を見ていると、上から大きい一つの光が僕達を照らし始めた。


「な、何かな、あれ?」


「えっ?どこ?私にはよく見えないけど…。」


目を細めながら美菜ちゃんが上を見ていると、その大きい光が段々と僕達に向けて近付いてきた。


その光はさっきの和風の妖精達だった。


妖精が一緒になって何かを運んでいるのが見えた。


「ネ、ネックレス?」


それは見ているだけで心を奪われるくらいに美しく光り輝くネックレスだった。


石の事はよくわからないけど、そのネックレスには大きな石が付いていて、あまりの輝きにダイヤモンドと見間違える程だった。


そのネックレスを食い入るように見つめる美菜ちゃん。


さすが女の子は綺麗な石とかに興味があるんだな、と思ったけど、次の瞬間、唐突に美菜ちゃんは目を大きく開き、驚いた反応をしながら言った。


「あれ!?何か、このネックレス見た事ある!!」


「えっ?何か思い出したの!?」


僕はこのタイミングでこんな事があるなんて、と凄く不思議だった。


僕達が今まで探してきても、何の手がかりも見つからなかったのに、あの小さい妖精達がすんなり持ってくるなんて…。


僕は何かを誰かに仕掛けられているのではないか…とこの後の展開を予測しては体をぶるっと震わせて戦々恐々としていた。


「やっぱり、詳しくは思い出せないんだけど、どこかで見たような気がするの。」


妖精達から渡されたをれを美菜ちゃんが手で受け止めながらそう言った。


まじまじとネックレスを見つめる美菜ちゃん…。


その時、妖精達は違いの袖中へ手を伸ばし

、くすぐったそうに身をよじらせながら何かを探り合っていた。


これが何なのかはわからないけど、枡が取り出された頃には、僕の心臓はもう破裂してしまうのではないかというくらいにバクバク飛び跳ねていた。


「せーのぉ!」

「せーのぉ!」


二人の妖精は声を合わせて桝の中に手を突っ込み、おもむろにその中にある物を勢いよく振りまいた。


それは、淡い黄色に染まった小さい「花びら」だった。


妖精達が何度か上空へと振りまき、しばらくすると僕達の周りには光の雨と共に花吹雪が舞い始めた。


それは以前にどこかで見た事のある花びらで以前、美菜ちゃんと登った小さい山の奥に咲いていた花だと気付いた。


光と花びらの舞う幻想空間の中で美菜ちゃんの目が大きく見開いていくのがわかった。


「あっ!思い出した!勇人君!私、今までの事全部思い出したよ!」


僕はあまりに突然の事が続いていたので、展開に付いていけず、少しの間、硬直したままだった。

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