プロローグ
人の感情は数えられない。
人の感情は見ることができないはずだ。
その男だけは、感情が見えた。
その女だけは、感情が見えなくても人の感情にめを逸らし続けてきた。
会うことのない、会っても意味がない二人がもしも会い、愛し合ったら、どうなるのかは誰にもわからない。
人は悲しむ。
人は怒る。
人は敬う。
人は憎しむ。
人は妬む。
人は喜ぶ。
そして、人は、人を愛する。
どれも感じることができても、見ることはできないはずだ
そう、はずなのだ。
もし、人の感情を見ることができたら、その者は愛すことなどできず、感情の波に潰される。
もしも、感情の波に潰されず、愛すことができるのなら、それは本当の愛なのだろう。
そんなことができる者などいなかった。
その男は、人の感情が全て見えた。見たくなくても、どんなに逃げても、見えた。
その男は逃げている途中に、ある女に出会った。
その男は、その女に尽くし、その女だけを愛した。
その女は、どのような人間にも興味を示さなかった。
その女は、人に絶望し、己にも絶望し、あるとき、ある男に出会った。
その女は、その男に尽くし、その男だけを愛した。
この物語は、永遠に語り継がれる愛の話。