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忘却少女とおかしな家族  作者: 御伽 白
1/1

*忘却少女と過去回想

*プロローグ*


12月 24日 両親が死んだ。



 別れというのは、案外、一瞬に唐突に訪れるものであるのだなと実感する。

大切だと思っていた物が、あるいは、者が一瞬にして無くなる。もっと、大事にしておけば良かったなとといいう今更ながらの後悔をしてしまう。

勿論、後悔先に立たず。という誰が言ったかも分からない格言通りに後悔した所で取り返しのつかない事は往々にして存在しているらしい。

大切なものは、無くなってから気付くものだと知っていたはずなのに、その大切なものをどうやら私は見落としてしまったようである。

 クリスマスに私の元に届いたプレゼントは、両親の死亡を告げる無慈悲なメールだった。

涙も出なかった。そんな余裕は、私にはなかった。私の脳は、突きつけられる事実を偽物の現実だと思う事もましてや、現実を受け入れる事もどうやら、不可能な欠陥品だったようだった。

 そこに悲しみも後悔もする暇もなく『心』と言う物が壊れてしまったようだった。

私の体は、まるで何事もなかったかのように日常的な動作で生活を再会した。

辺りから見れば、狂気的な状況である。

しかし、そんな事を考える事もなく、すでに作り終えられたカップラーメンをすする。

いつも通りの光景

しかし、いつも通りであってはいけない光景


 私は、現実を認識する事もなく、一度、自分の両親の記憶を排除していたようだった。


 異常を無理矢理に日常に変えて私はその日を平凡に過ごした。


辻褄の合わない歪な記憶を背負って・・・








*忘却少女の過去回想*


 雨の音が何処からともなく聞こえてくる。

雨は、屋根を叩き、まるで、電波の正確に入っていないラジオのように荒れた音を奏でていた。

和風の古い木造建築の家であるこの家は、その雨にゆっくりと潰されていくのではないだろうか、という的外れな恐怖を思いながら、私はコタツに脚を入れ蜜柑を頬張る。

噛むと口の中で果汁が弾け飛び舌に伝わって甘さを教えてくれる。

 そう言えば、昨日は、妙な人達に会ったな、と私は思い出す。


12月 25日のクリスマス


 夕暮れ時の事でした。商店街を学校終わりに適当に散策していると辺りは、煌びやかなイルミネーションが辺りの木々に巻き付けられていました。

 今日は、クリスマスです。勿論、一人暮らしの彼氏の居ない私には、一切予定はありません。

しかし、私には関係ない事ではありましたが、クリスマスケーキでも買って帰ろうか、などと平和的に皆のお祭り騒ぎに便乗しようとして、腕を捕まれ、文字通り、引き留められました。

黒のスーツを着て革靴を履いた、若い男の人でした。その端整な顔立ちをしていると言えなくもない男の顔は、非常に焦っていたようでした。

私は、この人を知っている。

何度か家にいるのを見た事があったような気がします。しかし、どうでしょうか、私は、一人で暮らしているはずなのですから、家に顔を知っている程度の人物を招き入れるだろうか、そんな疑問に襲われながらも、男を見つめていました。

「何をしているんだ! 君のご両親がお亡くなりになったんだぞ!」

 男は、口を開いたかと思うと私を大声で叱りつける。私は、正直に言うと何の話だろうか、と言葉の真意を探ろうとするが、しかし、何も予想が付きませんでした。

私にしてみれば、理不尽に怒られているのですから、怒りたいのはこっちです。

しかし、非常に押され弱い事に定評のある私は、なんだか分からないが、ごめんなさい、と謝らなければいけないのかと思ってしまいました。

世の中の理不尽な事だらけなんだな。と社会勉強をしたと思えばこの憤りも静まると言うものです。私は、かなりの平和主義者ですから。

しかし、無言のままそうしている訳にもいかず、取りあえず、誤解だけは説いておこうと思う。そうすれば、私は、クリスマスケーキを一人寂しく食べる日常に戻れるはずです。

「あ、あの、人違いじゃないですか?」

すごい剣幕の男に言葉を返すのは、中々、勇気がいるのです。

大人の男の人にこんな表情を向けられたのは、人生で初めてかもしれません。

だから、私は、言葉に詰まりながら、言葉を返しました。

そうすると、男の顔は、さらに険しくなり私を観察するように全身を見る。

正直、女性にすべき行動ではないと思いますが、誤解を解くためなら、視姦ぐらい耐えるのもやぶさかではありません、とじっとしていると男は、口を開いて「神谷 沙耶だな?」と確認作業を行うように私に尋ねてきました。

どうやら、男の人が探しているお人は、顔だけじゃなく、名前までもそっくりなようです。

名前なんて瓜二つです。

私の名前は、偶然にも同じ『神谷 沙耶』です。絶賛、中学二年生という身分を保持しています。

特に何の権限もないまだまだ、青い果実の女子中学生です。

「とにかく、来い」と男に無理矢理に腕を引っ張られる。

強引な男の人は嫌いです。怖いです、将来、DVとかされるんじゃないでしょうか、そんな不安を知らずに、――知られてても怖いですが――男は、私を商店街の一部に設置されている駐車場まで連れて行き、やけに速そうな黒いスポーツカーに乗せます。

誘拐? 私、誘拐されてます?

そんな不安も晴れるまま、車のアクセルが踏まれ、慌ただしいエンジン音を響かせながら何処かに向かい始めました。

気分的には、ドナドナです。子牛じゃないですけど・・・

 誘拐なら私は、売られてしまうのでしょうか、家族は居ないですし、身代金なんて誰に要求するんでしょう、下手をすれば、私は、何処かの見ず知らずの男性、もしくは、女性に売買され、日常的な人生ともバイバイしなきゃいけなくなっちゃうんじゃないでしょうか、それは、全力でご遠慮願いたいです。

誰か助けを呼ぼうにもこの男の人を知っている人なんていないですよね。うちの家族には、もう、自動清掃ロボットのルンバぐらいしか居ませんし・・・

ああ、ルンバ、私を助けて・・・なんてお祈りをしてみますが、きっと望み薄でしょう。

彼は、家事の出来る雑食系男子ですからね。

そんな、軽い現実逃避をしてみるもどうやら、今現在、男は、私に何もしてこないようなので一時、安心です。それが、商品価値を下げない為と言う可能性もない事はないんでしょうけど・・・

 車の運転から何か焦りのようなものが感じ取れるのも私の不安の一つではあるのですが、男の人の言葉を簡単に解釈すると私は、私のそっくりさんの『神谷 沙耶』さんというお方のご両親と会わせられる訳ですね。

 幽霊になっても親は、親、本当の子供かそうでないかぐらい、きっと、分かってしまうのでしょう。だとすれば、私は、何の罪もないのに祟られるのではないでしょうか、冤罪です。沙耶さんのご両親には、無事に成仏していただきたいです。出来れば、私が連れて行かれる前に・・・

 


 連れて行かれたのは病院でした。町の中では、一番大きな病院で私も何度かお世話になっています。風邪の時とか、頭痛が酷いときなんかにたまに訪れるのです。

まあ、喜ばしい事に重傷を負う事は、人生では、今の所、無かった訳です。

ところで、どうしましょうか、早急に誤解を解いてしまわないといけないですね。

さて、どうしましょうか、どうやら、男の人は、現在も私の腕を引っ張って霊安室に向かっているようですが、正直、見知らぬ人の親の死体なんて見たくないのです。というか、普通は、見る機会もないんですが、まあ、今は、そんな事を考えても仕方ありませんし、「あの、誤解なんですよ?」というと男の人は、無表情に「この病院は、四階建てだ。」と的外れな事を言ってきます。誰がうまいこと言えと・・・。

体調の悪そうな患者さんたちがお医者さんの診察を待つ少し陰鬱なロビーを抜け、薬品の臭いが漂う病院内を看護婦さんに怒られない程度に早足で歩きながら霊安室まで連れて行かれました。男の人に手を握られた挙げ句にデート先は霊安室なんて質が悪いです。

しかし、どうやら、私の予想は外れて個室に連れて行かれました。

そこだけ、空気が冷たく冷えているような気がしますが、ご遺体があるからでしょうかね。

さて、このままの流れでいくと、私はどうやら、ご遺体とご対面する事になるのでしょう。

気が重くなります。壊れ物なんですよ。私、心も体も

まあ、そんな事を言ったら、男の人は、さらに怒ると思うので言いはしませんが・・・

しかし、「なんだ? その不満そうな目は・・・」と男の人は結局、怒ったような顔をしました。目は口ほどにものを言うそうでした。変な所で素直な私です。

いやらしく言えば、体は正直だぜ、ゲヘゲヘみたいな感じです。

とまあ、冗談は程々にして、私は、ゆっくりと足を進めます。なんとなく、背後から、早く行け的な視線を感じるので行かざるをえません。あの視線は、ある種の脅迫です。

向かった先には、やはり、見知らぬお方達が眠っておられました。

もう、一生、たまたま、通りかかったネクロマンサーが復活作業を行わない限り自力で起きあがる事はない仏様が二つのベッドに二人眠っておられました。

顔には、傷が目立たないようにお化粧が施されていてまるで眠るように死んでいました。

どうやら、事故でお亡くなりになったようですが、残念ながら見覚えがありません。

まだ、十分にお若い夫婦でした。

「昨日の夜、メールした通り、お前のご両親は事故にあって亡くなった。」

 男の人がやはり、私の預かり知らぬ解説を行っていましたが、私には、この気まずい雰囲気をどうにかする方法を考え出すしかありませんでした。

泣いた振りをするのも本物さんが来た時に申し訳ありませんし、ここで、すぐさま立ち去るというのも、些か気が重いのです。正直に申し上げると扉の前で立っている男の人が怖いんですけどね。

さて、どうしましょう、そもそも、打開策なんて存在するんでしょうか、下手を打てば、ショックで頭がおかしくなったのだと誤解されるかもしれませんから、誤解を解く事も難しくなるんでしょうし、どうしましょうかね。

そんな事を考えながら私は、安らかに眠るご遺体に両手を合わせて合掌します。

 私の最終的に行き着いた答えは、無反応という事にしました。

戸惑いとか、その他諸々の事情を省いて、無反応を貫きました。

そして、私は、走り去りました。まるで、泣くのを堪える少女のように・・・



 息を切らせながらがむしゃらに走り、人通りの少ない林に囲まれた公園を見つけて中に入りました。

沙耶さんのお父さん、お母さん、どうか、恨まないでくださいね。私は、無実です。冤罪です。悪いのはあの男の人なんですよ。と居ない人に念を送りました。

もし、天国にいたのなら、意味不明すぎて逆に帰ってきてしまうかもです。

その時は、お祓いを依頼しましょう。祓ちゃいましょう。

荒れた息を整えながら私は、追っ手が来ていないかを確認し、誰もいない道を確認すると近くにあったベンチに座り込みます。

完全に脱力モードです。

「き、緊張しました。」

頑張った私を誉めてあげたいです。よく頑張りました。私

 私は、家に帰るべく、重たい足を動かします。はぁ、運動はあまり得意ではないんですが・・・

流石にご遺体を見た後では、ケーキなど食べる気にはなりませんでした。

罪悪感でいっぱいです。ああ、壊れ物の心が、ぐうぐう、いっています。

・・・どうやら、お腹はすいているようです・・・お恥ずかしいです。

私は、自分のお腹の音が聞かれていないか気になって辺りを見渡すと人が居ない事に安堵しつつ、真っ暗になってしまった道を一人歩くのでした。

 うら若き乙女である私がこんな暗闇を歩くなんて、痴漢してくださいと言っているようで嫌なんですが、痴漢にも痴女だと思われるなんて不名誉すぎます。

私は、純粋を体現したようなちょっと耳年増な女子中学生なんです。

純粋な人間が耳年増なのかどうかは、さておき、若干、足はふらふらです。


 頑張って家に辿り着いた頃には、結構な時間になっていました。

職務絶賛遂行中のルンバに「ただいま」と言うと変わらぬ機械音を響かせながら部屋の奥に去っていきました。つれない子ですね~

私のお腹が、ぐうぐう、と唸りをあげるので、まあ、仕方ありません。沸いてしまった食欲を払拭すべく買い置きされたカップラーメンを食べる事にします。腹が減っては、戦は出来ぬですね。

戦いませんけど・・・

 二日目のカップラーメン(シーフード味)を食べながら私は、今、自分が置かれている状況に疑問を持ちました。

しかし、私って毎日、カップラーメンなんて不健康なメニューを食べていなかったはずなんですけど、今までどうしてきたんでしたっけ、そんな疑問が浮かび上がります。

今までの食事を思い出すと脳裏に浮かぶのは、三人分分けられた家庭的な料理の数々、しかし、記憶の中では、一緒に食べている相手の姿はない。

なんだろう。この違和感の固まりは、私は、ラーメンを食べ終えると首を傾げ疑問を追求しようとしましたが、結局の所、めぼしい情報など微塵もありませんでした。

記憶喪失の少女みたいな展開です。

 そこで、私は、また、一つ小さな不安に襲われます。

実は、私の両親が今日出会ったご遺体で私が何らかの事情で忘れているのではないか、という仮説です。

そう考えてみるとすべての辻褄が合うような気もします。しかし、正直、そんな事は、あまり認めたくはありませんでした。よく考えてみると、その仮説通りにいくとするなら、私は、両親のご遺体を適当にあしらって逃げたのです。

もし、私が親だったなら、怒ります。ポルターなんちゃらだって起こしちゃいます。

私としては、そんな現実は嫌なので忘れましょう。

 そんな負け犬思考、というよりも最低思考で物事をあっさり解決して気付いた疑問に即刻、封印作業を行いました。

その辺りの割り切りの早さが自分の中では気に入っています。

ナルシストではないですが、嫌いにならない程度に自分の事が大好きなんですけどね。


 そうして、翌日の、今に至る訳です。

 雨が相変わらず鳴り響く中、どうやら、時刻は、六時半をちょうど過ぎた辺りです。

寝起きは良い方なので、朝六時に起きていますが、別に健康趣向という訳でもありません。

朝起きても、身だしなみを整えて、後は、コタツと連結します。

言い方が少し、淫靡な響きです。私は、別に欲求不満な訳でもないんですけどね。

それからは、登校時間までずっとコタツから出ません。まるで、見えざる力に引っ張られるようにコタツから脱出する気を奪われるのです。あぁ、至福の時・・・

 そんな、庶民的な幸せに浸っていると玄関からチャイムの音が聞こえてきました。こんな時間に人の家のチャイムをならすなんて非常識極まりないですね。こういうのは、常識のない人のする事なので無視しましょう。

いえ、コタツから出るのが嫌とか、そんな子供みたいな理由ではないですよ。

ピンポーンという音が家中に響きわたります。私は、とある遊びに興じる事にしました。

「コタツから出ない方が良いですよね。」


ピンポーン


ほら、やっぱり、出ないのが正解なんです。引きこもりが最強な訳ですね。

こんな無礼なお方には早急にお帰り願いたいものです。因みに来客者が友達という線は薄いです。私の知る限りでは、今日の朝方に来る客人というのは、いませんし、友人もいません。何故なら、友人なんて居ないからです。いえ、寂しい子なんて認識しないでください。友人と呼べる程に親しい人は居ないというだけです。お互いに家庭については不干渉の暗黙のルールが存在している訳です。

相変わらず、チャイムは、強制労働させられて部屋に来客を知らせてくれます。可哀想です。うぅ、まだ仕事の時間じゃねぇぞ、というチャイムの悲痛な叫びが聞こえないんでしょうか、・・・まあ、私には、聞こえませんが、きっと言っているに違いありません。

じゃあ、さっさと出てやれよ、と思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、私は、コタツに入っているのです。こここから、移動するには、教会に行ってゴールドを払って呪いを解除して貰うしかありません。言うならば、呪いの装備なのです。

ですが、装備した瞬間、暑くなるまで装備を解除したくなくなるアイテムなのでジレンマ的です。

 そうして、しばらくするとチャイムの音が聞こえなくなりました。チャイムが過労死してない限り、帰ったようです。撃退しました。努力賞をあげたいです。チャイムに

まあ、私がそんな手作り感溢れる賞をプレゼントをしたところで、帰ってくる答えは、ピンポーンという冷めた返事な訳です。それは、少し寂しいので、内心の感謝で済ませておくことにしました。

 朝ご飯、いいえ、朝、デザートの蜜柑を食べながら私は時間が過ぎるのを待っていました。

こういった朝の時間というのは、案外、暇なもので、取り留めて何かをするという事もないわけです。蜜柑も三つ目に差し掛かった辺りで私は、暇を持て余した子供のように横になってゴロゴロし始めました。

眠気を誘う優しげな温もりに私は、この身を委ねてしまいそうになります。こやつ、中々、タラシです。しかし、こんな微妙な時間に睡眠をとるのは、得策とは言い難いのです。もうすぐ、登校時間です。タイミングの悪い話です。

なので、私は魅力的な誘惑を断って気を紛らわす為に本を読む事にします。私は、気高き女子中学生なので、そんな、甘い誘惑に屈する程、弱い心じゃないのです。そう意気込んで私は、本を読み進めました。


「くぅ~、くぅ~ ・・・は!?」

私は、飛び起きました。あれ、眠りの誘いを断ったはずでは、そんな疑問が浮かび上がるも、どうやら、本はコタツの味方だったようです。まさかの伏兵でした。まるで、暖かさと本の退屈さが二人一斉に誘惑してくるのに打ち勝てる訳ありませんでした。なんというコンボ、ハメ技過ぎます。

私は、慌ててコタツから脱走し、荷物を持って学校に向かおうと玄関を開けた瞬間、見慣れた顔の男性がこめかみに皺を寄せながら、私を睨んでいました。

 私は、まるで石になったかのようにその場に硬直し硬い笑顔を向けました。

寒さで顔を真っ赤にしている男の人は、私を睨みつけながら口を開いた。案外、顔が赤いのは、寒さじゃなくてお怒りの為なのかもしれません。

「どこに行く?」

実は、私は新手のストーカーに追われているのではないのでしょうか、商店街で拉致し、私の居場所まで突き止めるとは、かなりの手練れですね。と経験者ぶっても私は、ストーカーされた事などないので、わかりませんが・・・

しかし、現実逃避もそろそろ、限界のようです。どうやら、あのご遺体方は、私のご両親だったようです。微塵も記憶に残ってはいませんが、なんて、愚かな娘でしょうかね。親の顔も存在すらも忘れてしまうなんて天国にいるご両親は、酷くご立腹でしょう。

「今日は、葬儀がある。お前が主席しなければ、意味がない」

葬儀ですか・・・今この状態の私が行ったところで焼け石に水な気もしますが、しかし、両親の死後の始末ぐらいは、娘であるらしい、私が見届けなくてはいけないのかもしれません。

これは、親不孝な子供なりの義務なのかもしれません。

「わかりました。一緒に行きます。」

私は、出来るだけ、覚悟を決めて男の人の車に乗り込みました。

「あ、そう言えば、一つ、訊いておきたいんですが」

私は、ずっと知りたかった事を男の人に尋ねました。

「あなたは、誰ですか?」

「はぁ?」という顔をしていましたが、それも当然でしょう。しかし、その表情は、中々、面白かったので印象深くなっているかもしれません。

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