重者の理想郷の崩壊
展望台から見える景色。
それは、ほのぼのとしたコンクリートの城壁内部以外も見えていた。
こちらと反対方向からくる者共を。
それは異形の軍団。
山を粛々と進む異形の軍団。
エネミータイプ人型【ゾンビ】を主力とするであろう軍団が粛々とじわじわと山を進む光景。
盆地にあるあの城壁の内側から察する事のできないぐらいゆっくりと、確実に迫ってきていた。
私は能力を使った。
なぜなら後ろ側から迫るものに気付いから。
こちら側にはエネミータイプ人型【豚頭】を筆頭に獣型が迫っていた。
それから2時間が経ち、さすがに気付いたのか城壁の上に何人かの人の姿が散見できるようになった。
そして……能力が使われた。
響き渡るかつて聞いた戦車のそれをはるかに越える砲撃音。
あそこにいる誰かの能力であろう其れは四方八方にばらまかれた弾幕。
私は夢でも見ているのだろうか?
黒光りする砲門が城壁の上に展開されている。
その砲撃が戦闘の始まりを知らせる音であったかのように、その戦争は始まった。
途切れる事のないゾンビの群れ。それに散々に砲撃を加える能力者。
其れは正しく戦争。
それでも戦線は城壁の間近まで迫っていた。
そして次に放たれたのは雷の矢。
ごうごろと放たれるその巨大な矢は、空中で別れ雨のように降りしきる。
それでも城壁にとりついたゾンビを今度は重力が襲う。
まるでトマトが潰れるように、ゾンビを圧殺していく。
圧倒的な戦闘。
ただただ殲滅していく虐殺にもにた其れは、空中からの攻撃をもって途切れる事となった。
かつて人間が発明した空飛ぶ兵器。
空を舞う50を越す戦闘機の群れ。
其れが城壁の上から爆撃を加えたのだ。
想定していなかったであろうその攻撃にただただ爆撃を受ける。
されど能力者。
光の盾が空に展開されて爆撃を受け止めている。
だがコンクリートの城壁はもたなかったのか、一部が崩れ落ちている。
そこからゾンビの群れが侵入した。
それでも抵抗しているのか断続的に砲撃が放たれ、雷の矢が飛び、重力により大地を穿つ音が響く。
戦争が始まって2時間、未だに途切れぬ重力の音。
しかし砲撃の音は消え、雷の矢も既に見えない。
空飛ぶ戦闘機もずいぶん撃ち落とされもののまだ数機残っている。
そしてあがる雄叫び。
まるで勝利の雄叫びであるかのように。
勝鬨にも聞こえる其れは、あまりに無惨な結果を知らせるように響いた。
それでもなお止まらぬ大地を割る音。
その城壁からするすると退いて行くゾンビや豚頭の人型は戦争の終結を知らしめるかのように。
なにかを掲げながら進軍する。
其れはたぶん人であったであろう物。
私は無力だ。
それは知っていた。
でもこのやるせなさは胸に刺さる。
私は奴等が退いてから、城壁の内部にやって来た。
無惨に広がる血が広場をぬらす。
死体は回収されたのかほぼない状態のそこに、彼はたっていた。
能力の暴走。
それをおこした彼にはもはや自我は残っていないのだろう。
彼はひたすら同じ言葉を呟く。
「ミンナハオレガマモル!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!オレガ!!マモッテミセル!!」
自我を失い尚も守ろうと彼は能力を使い続ける。
それしかできぬ人形のように。
守れなかった仲間を未だに守っているかのように。
能力を使い続ける。
だから私は彼を殺してあげなきゃならない。
そんな事しかできないけど。
私の能力なら重力何か関係ないから。
一思いに殺してあげる。
「さようなら。おやすみなさい。」
そう呟いて私は包丁を彼の首に突き刺した。
とたんに能力がきれ膝をつきそして倒れた。