魔王転生―親父の跡をついでみた―
「お、親父が舞おう?」
「いや国王なんだがな」
良くあるよね転生したら親父が魔王とか!
ねえよ!
今となっては懐かしいがこんな馬鹿馬鹿しい内容の会話もしたことがあった。
この魔王という称号だが、人間からそう呼ばれているだけであってわが国アガルタでは英雄王と呼ばれている、序でに言えばアガルタも人間の国から魔王国と呼ばれている。だからって反対に人間の国家群を魔王国なんてこちらからは言っていない、一部の貴族が人間風情がとか下等生物共が調子にのりおって等々危険な発言もしているが、5000歳のオジサン達からすればなんというかそういう風に見えるのも致し方ないのかもしれない。だって言ってるのって竜とか鬼とかだからなあ。
これは重要だから云っておくけどアガルタが人間の住む国家に対して戦争を吹っかけた事は一度もない。全て反撃だけだ。一方的に戦争を吹っかけて大敗して領民を苦しめているのは人間の国の方、まあ世論操作だなんだとする為なのか神託が下ったとか神は人間しか認めないとか云ってるから優秀な闇エルフの鍛冶師やエルフの治癒師、獣人の戦士とか全ての亜人と認定された人々はこのアガルタへやってくる。
最初は一応前世の人間(俺)がみたらデーモンだ! と騒ぎそうな単なる有翼有角人種の王国だったんだがな。
まあぶっちゃけ領地という国土は物凄く豊かな土地だったんだけど基本的に有翼有角人って燃費が凄くいいから必要な土地だけを耕す以外はほったらかしだった。
そんな国に俺は生まれた訳だ。
最初の100年位で国を豊かにしている時に困った周辺の部族国やなんだを救っている内にドンドン国の範囲が広くなった。戦争は因みに行っていない。だって必要ないから。なんていうか擦り寄ってくる所もあったんだが大体が支配者がどうしようも無い奴だからタスケテってな具合。
「親父ちょっと行って来るわ」
「まあ程ほどにな」
こんな会話で全てが済む。擦り寄ってきた所だって簡単に貴族としてやっていける訳じゃない。そうだな吸血鬼の王とか名乗ってた奴らもいたんだが奴等は親玉がニートだったりしたから強制労働で夜間警備員に出したりしたし。金銀財宝を手土産にしてやってきた竜族なんかの時は俺巣穴でノンビリしたいしっていうからちょっとお仕置きして土木作業を手伝わせたりしている。
そうそう、そんなこんなをやってる時期は人間はまだ原始時代っていうレベルだった。
人間が文明と呼べる時代に入ってまだ2000年ちょい。戦争をふっかけだしたのが500年程前から。
勝てないからな?
いや、滅ぼすのは簡単なんだが親父の方針も俺の方針も基本的に滅するなんてのはないから。
100年程は大人しくしてくれてたんだけどなあ。
この国が豊かであればあるほど侵略したくなるらしい。これでも外交の努力もしたし貿易も積極的に行ったりした事もあるし現在でも一部の国を通じてだったら貿易を行っている。
それでも戦争をふっかけるのが人間なんだろうなぁ。というか教会だけは潰しにいこうかな勇者召還とかされても鬱陶しいし。
歴代の勇者はどうしてるんだって?
お話し合いの後で送還魔法で生まれ故郷にお帰り頂くとか、領地で畑耕した奴もいれば商売した奴もいる。
魔獣を退治してたる奴もいる。
俺の嫁になったのも実は居たりする。うん夫婦中は良好だぞ。
そんな感じで魔王の息子やってます。(完)
まだまだ王様(親父)は死なないから、というか不死だからと油断していた。
継ぐ予定無いと思ったら親父め楽隠居しやがった。
何が母さんとキャッキャウフフしたいから後は任せただよ。
ほとんどの仕事は俺がしてたじゃねえか。
おかげでこちとら休む暇がなくなったじゃねえかよ!
キャッキャウフフと楽しんでたのにさ。
そんな愚痴をかましてたら攻め時と勘違いした教会の奴らが動いた。
あーうぜー、内通者からの情報だと勇者召還しやがった。
自国民を1000人殺す召還とか馬鹿でしょ。
やっぱ教会潰そう、どうせ新しい宗教とかできるのもわかってるし今度はこっちで宗教つくってやるぜ。
たまーに居るんだよな熱血系のバカ勇者って。
生贄も仕方なくやったとか魔王の仕業とか疑いも無く信じる奴……
せっかく召還後にこちらから不正とか虐殺行為の証拠とか資料を渡してやったってのに。
「魔王! 覚悟しろ」
ほら、なんていうの……せめてこれが美人とかだったらね、わかるでしょ。
でもイケメン勇者とか来ても誰得ですか状態だよ。
需要ないんだよ。
「はあ、資料も送ったし、こっちの世界の文化に関しても知ってるよね」
確認済みなんだぞゴラァ。
「だが貴様は魔王だ」
「確かにこの国を統べてる王ではあるが魔王と呼ばれる筋合いはないな」
「悪逆非道を働き神のお告げがあった」
それは新しい今回の勇者には直接お告げがあったのか。
「へー神様のお告げとかあったんだ、それは勇者君、君にかな」
「そうだ」
「じゃあ神がいるとしてなんで直接戦わない」
「へ?」
「いや、だって態々神という存在が居たとしてなんで勇者に戦わせる。それに悪を作り出したのも神なのではないのか?」
「な、何が言いたい」
「その神様ってこんなことしなかったか」
(私が神だ、勇者よ魔王を滅ぼさないで教会を滅ぼせ)
ってな具合だろうさ、何も知らない異世界からの勇者召還。召還の儀式の生贄の力を勇者に与えて強くしようとする。そして何も知らない勇者に教会では秘術とされている光の属性(笑)の精神干渉でお告げを与えるんだよな。
「こ、これは!? 俺を惑わせるのか魔王」
「実際こんな風に言われたんだろうが、それでホイホイ討伐に来ようとしたんだろ? 自国民に手をかけられたら確実にお前を殺すしかないから態々此処まで来てやってるのにも関わらずその態度は頂けないな」
唖然とする勇者。さて今回の勇者君はどうするのかな。美少女じゃないから基本的に提示は二つだな。
「さて、勇者よ、お前は此処で選ぶ事が出来る」
「何をだ」
「一つは自分の世界へ帰る。一つはこの国で働く。選べ」
「……戦うという選択肢が抜けているぞ」
馬鹿なの死ぬの、ああ死にたいのかな。
「敢えてその選択肢を選ばないようにしてやってるという温情が分からぬほど愚鈍な奴はこの国に要らんな」
「なっ!」
「森をうろついてるような魔獣とかと戦って強くなったと思ってるみたいだが、人の強さも計れん上に頭の悪い奴は要らないといった、これで分かるだろ」
魔力をちょろっとだけ洩らしながら勇者の行動を阻害する魔法で動きを完全に止める。
なめんなこちとら千年単位で修行してるんだ。
「う、ぐぁ」
さて記憶を読み込んでっと。ふむこの世界ね。
んじゃ魔法陣を編みこんでっと、ちょちょいのちょいでほいっとな。
俺様優しい! まあ国民の一人でも殺してたら極刑だけどな。
「んじゃ元の世界へ戻って大人しく過ごせよ、ああ、力はもうこの世界に来たときの状態だから」
強制的に排除した自称勇者君をゲートに放り込んで送還完了である。
さて、次は教会か……随分舐めたまねしてくれたからな。
教皇以下この件に関わった奴は全員処刑したいところだが……。
いやスワンプマン使って全員入れ替わりで強制労働でもさせっか。
よし決定!
働きすぎると嫁さんが心配するしさぁ。こりゃあれか世論操作もしなきゃ長期間の平和って難しいか。
何人かホムンクスルを作って商会でもって経済的に支配してやっか。
まさに魔王な存在(自称)な処置でもしておかんとな。
さーてっと、頑張って魔王のお仕事するとしますか!(今度こそ完)