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第四話 ピンチだなんて言えない!

タイトル回収。若干グダってしまいました。

 入学式が終わり教室に戻ってきた。

 教室に戻るなり、夜月ちゃんがまたフードを深く被る。

 フードを取った時、手で顔を隠す素振りをする。

 どうやら顔をあまり見られたくないらしい。

 先生が教室に入ってくると「フードを取りなさい」と注意する。

 するとまたさっきのくだりになる。

 かくいう私はそんな光景を見届ける余地はない。

 ・・・・・思い出せない。

 拓真や夜月ちゃんとの幼少期の思い出がさっぱり思い出せない。

 溜め息。

 朝から何回しているだろう、溜め息を深く。

 こんな調子でやっていけるのだろうか。


「はあぁぁぁぁ・・・・」

「麗愛、仕方ないよ。君にも色々事情があったから学校来れなかったんでしょ?覚えてないのも無理ないよ」


 珍しく拓真がナイスフォローをする。


「・・・・ただ学校行きたくなかっただけだっつの」

「え?何か言った?」

「何でもないですー。それに昔のことは忘れちゃってるとしても、一応三年前までは学校行ってたのに・・・」

「行ってたのに?」

「普通、普通たった三年でそれまで付き合いあった人のこと忘れるものかな?」


 私は小学校五年の頃からアニメとかにのめり込んだ。

 一応学校には行っていた。

 まあ、誰も寄せ付けないような暗いオーラを出してたからその日を境に人付き合いはなくなった。

 とは言え、それまで仲良かった夜月ちゃんを忘れるだろうか。

 たった三年で。

 考え込んで悶々としていると、同じく考え込んで「うーん」と唸っていた拓真が何かを思いついたように目を見開いて私を見る。

 

「実は麗愛は悪の軍団に改造人間にされて」

「アホか」


 考えれば考えるほど頭の中がゴチャゴチャしてくる。

 とにかく簡単に言ってしまえば小五になるまでの思い出をさっぱり思い出せない、ということね。

 

「麗愛ちゃん!!!」

「は、はいっ!!」


 不意に呼ばれてビクリとして見ると、目の前には夜月ちゃんがいる。

 全然気付かなかった。


「十一回も呼んでやっと気付いてくれましたか」

「ご、ごめんね」


 夜月ちゃんが呆れたように渋い顔をする。

 口元しか見えないが、なんとなくそんな感じがする。

 

「その感じだと、思い出せてないようですね」

「・・・重ね重ねごめなさい」

「まあ小学校の頃は学年が上がるにつれて部活とか習い事で遊ぶことも少なくなりましたし、そもそも一度も同じクラスになったことなかったですしね」


 確かに言われてみれば同じクラスに夜月ちゃんがいたような気はしないような・・・。

 うん、まだモヤモヤするけどひとまず納得。

 

「ところで明日どの授業見学する?」

「見学?」

「ちょ、麗愛ちゃん、先生の話聞いてなかったんですか?芸術の授業見学をしてどの授業受けるか決めてくださいってやつですよ!」

「いやーさっぱり聞いてなかったよ、あはは・・・」

「もう、しっかりしてください!」

 

 そういえばいつの間にかホームルームが終わっている。

 だから夜月ちゃんがここにいるのね。

 

「ちなみに音楽、書道、美術あるよ。僕は書道かな」


 拓真が横槍を入れてくる。

 どうやら私と夜月ちゃんのやり取りを聞いていたようだ。

 暇そうに欠伸もしてる。


「ねえ、今って何の時間?」

「休み時間。もうすぐ帰りの号令かかるよ。麗愛って本当に意識吹っ飛んでんだね」

「余計なお世話よ!あんたのこと思い出そうと奮闘してるのにその言い草!もう思い出すのやめるわよ!」

「ははは、それは困るなあ」


 穏やかに笑ってはいるけどどうやら思い出してほしいらしい。

 あっ・・・。

 話は逸れたけど私も芸術の授業何にしようかな。

 音楽は、人前で歌うことになんかなったら出来っ子ないし。

 美術・・・アニメっぽい絵なら描けるけど芸術的なのはさっぱりだし。

 ここは書道かな。


「夜月ちゃん、私書道を見学しようかと・・・・・・夜月ちゃん?」


 夜月ちゃんの視線(というより顔の向き)は拓真の方を向いていた。

 じっと黙って拓真を凝視する。

 その拓真は夜月ちゃんの視線に気付かず、読書をしている。


「夜月ちゃん?この地味男がどうかしたの?」

「・・・・・・・・・・・」


 返事がない。私の声が聞こえていないのだろうか。

 余程集中して拓真を見てる。

 見てるこっちが恥ずかしくなってくるんですけど・・・。


「あ!!」


 夜月ちゃんが突如声を上げる。

 今度は私と拓真がビクリとする。

 夜月ちゃんはビシッと拓真を指差す。


「な、なんでしょうか・・・?」

「あなた!!」

「は、はい!?」

「思い出しました!あなた、幼馴染の桜葉拓真君ですねっ!!」


「「えぇっ!?このタイミングで!?」」



――――――波乱の学校生活初日が終わった。

 

 夜月ちゃんも書道の見学に行くことを確認して帰ることにした。

 学校生活ってこんな初日から疲れるものかしら。

 私はトボトボと(やつ)れた顔をしながら帰路につく。

 

「なんであんたが私と一緒に帰ってるの?私一人で帰るつもりだったんだけど」

「そんなこと言われても、僕も帰り道こっちなんだけどなあ」


 相変わらず乾いた笑いをしながら小言を言ってくるけど私も相変わらず無視する。

 こいつも私もよく懲りないものね。

 それにしてもこの地味男、嬉しそうね。


「ねえ、あんまりニヤニヤしないでよ、気持ち悪いわ」

「ごめんごめん、まさか僕のことを思い出してくれる人がいるなんて思ってもいなくてつい。あと何回も言うんだけど僕は地味男じゃないよ」

「あんた、どんだけ存在感ないのよ」

「そう言う麗愛は僕のこと、はいいとして夜月のことは思い出せないの?」

「うん、小学校低学年の頃は遊んでたんだろうけどその後は全然、だと思う」

「ま、気長に思い出すのを待つしかないかもね。それにそこまでして意識的に思い出すものでもないと思うしさ」


 確かに拓真の言う通り、何もそこまで真剣に考えることでもないと思う。

 ふとした時に思い出すかもしれないし。

 昔話をした時にそれがきっかけで思い出すかもしれないし。

 でもなんだろう。

 こんなふうに大雑把に考えると罪悪感と言うか、胸が痛む。

 モヤモヤする。


「あ、僕こっちの方だから」

「そういえば拓真とぶつかったのってここだったっけ」


 またぼーっとしてた。

 もういいや。何かきっかけがあるまで待とう。



 拓真と別れ、やっと一人になれた。

 考えるのをやめたはずだけど、やっぱり頭の中には残っている。

 私、どうしちゃったんだろ。

 人と関わるのがあまりにも久しぶりだからかな。

 人付き合いってめんどいな。

 自分の都合のいいようにいかないんだね。


 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・。

 ヤバいヤバいヤバい!

 どっと吹き出した嫌な汗が止まらない。

 私は道のど真ん中で(うずくま)る。

 今はそんなにお構いなし。

 それどころじゃないもん!

 私はなんてことをしてしまったんだ!!

 無意識で私は酷いことをしてしまってるんじゃ・・・?

 

 『都合のいいように』


 私が頭の中で考えていた言葉を反芻する。

 なぜ忘れていたのか。

 私は小五の頃、自分勝手に周りを拒絶した。

 夜月ちゃんは私を心配してコンタクトを取ろうとした。

 でも私は会話することも顔を会わせることもなかった。

 思い返せば、引き篭って最初の頃はお兄ちゃんが「友達が来た」とか言ってたような気がする。

 それすら私は自分の勝手な理由で拒否した。

 つまり、私は都合のいいように好きなことにばかりのめり込んでいって、それ以外には何一つ興味を示さなくなった。

 

「やっちゃったなあ・・・」


 無意識に拓真や夜月ちゃんに酷いことしてたんだな。

 「忘れてた」なんて言うんじゃなかった。

 こうして後悔するのが目に見えてたのに。

 モヤモヤしてた正体が分かった気がする。

 こうして後悔することだったんだ。


 暫くしてからやっと立ち上がる重い足取りで家に向かった。

 もう疲れちゃったよ。

 今日はもう寝よう。

 せめて、お兄ちゃんに八つ当たりしてソシャゲのログインボーナスだけを回収してから寝よう。

 

 でもなんだかスッキリしたかも。

 言わなきゃならないことは言おう。

 そうすれば、ちょっとはいい学生生活をおくれるかも。

 嫌われちゃったらそれまでだけど、ちゃんと謝ろう。


「さてと、決意も新たにしたことだし、公園で休憩がてらゲームでも・・・」


 初日から色々あって疲れた。

 私は近くの公園のベンチに腰掛けた。 


「・・・携帯学校に忘れてきた」


 中学の頃から皆勤してきたゲームを一日逃してしまうことになった。

 今となってはそっちのショックの方が大きくなっていた。

 結局私は、公園にいてもしょうがないので帰ることにした。


 体に溜まりに溜まった疲労感を抱え、やっと家に着いた。

 今日は入学式だけだったので、家には両親と部活が休みで暇そうにしているお兄ちゃんがいることだろう。

 

「やっと着いた・・・ただい・・・あれ?あれあれ?」


 ドアが開かない。鍵が掛かっている。

 なんで?

 慌てて車庫に行く。

 そこにはあるはずの車がない。

 ちょっと待って!私お家の鍵持ち歩いてないんだけど!!!!


 家の前で待つこと二時間、家族は顔をほくほくさせて帰ってきた。

 私は鼻をグスグスさせて待っていた。


 次の日から早速高熱で欠席することになるのだった。

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