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第三話 覚えてないなんて言えない!!

 朝からこってりしぼられた・・・。

 元凶はこいつだと声を大にして言いたい。

 桜葉拓真(おうばたくま)

 私とは幼少期に仲良くしてたらしいけど私はさっぱり覚えていない。


 ・・・やっぱ地味。


「聞こえてるよ、麗愛」


 登校初日から厳しく注意されてお互い席に戻る時にこちらを見向きもせずに告げる。

 全く、なんて面倒な特殊能力なの。

 私は無言で自分の席に戻る。

 言っておくけど、私は俗に言う『主人公席』なんて窓側一番後ろの席ではないわ。 

 それどころか廊下側の一番後ろだなんて・・・。

 隙間風が冷たいじゃない。

 まあ、隣の席が空いてるから一人でゆっくりできそうだけど。

 席が空いて・・・て・・・?

 

「ちょっと、なんであんたが私の隣にいるの?ふざけてないで自分の席に行きなさいよ」

「悪いんだけどよく見てよ。この教室のどこに他の座席があるんだと言うんだい?」


 確かに私の隣以外に拓真が座る席がない。

 なんてことだ・・・!!

 よりによってこの地味男が隣だなんて。

 もうニートに逆戻りしたいっ!


「ニートだなんて不健全だよ?ちゃんと学校来ないと。あと僕は地味・・・」


 隣でお決まりの台詞をほざく地味男がいるけど私はそれを全力で無視して頭を抱えて唸る。

 私の高校生活、スタート直後にバッドエンドなんですけどッッッ!

 

「どうした奥井?体調でも悪いのか」

「先生、私明日から学校来なくなってもいいですか?」




 こってりしぼら(以下略)

 危うく学校初日から問題になるところだった。

 私の一言で場が騒然となったのは言うまでもない。

 おかげで担任から「紛らわしい発言をするな」と怒られた。

 確かにさっきのは私が悪かったけども。

 とは言え私は納得いかない。

 なんで隣の席がこんなやつなのか。

 別にdisってるわけじゃないけど、最初の印象というか掴みが悪かった。

 だからこいつのせいだと断言しよう。

 異論は一切認めないわ。

 恋愛ゲームだと最初の出会いが恋に発展していくんだけどなあ・・・。

 式が始まるまで好きにしてろって言われたので私はうつ伏せになって、たまに拓真をチラ見する。

 でもあまりにも暇だし、コミュ障で他の人にも話かけられないから仕方なく大人しそうに読書をしてる拓真に話しかけた。


「ねえ拓真、何読んでるの?」

「?え、ああ、今話題になってる作家の推理小説だよ」


 拓真はなぜか一瞬たじろいだ。

 

「何?どうかした?」

「あ、いや、なんかいつの間にか呼び捨てになってたなーって」


 私はハッと自分の口を塞ぐように手を当てる。

 そういえば私いつの間に・・・!?

 別にときめいてもいないし言うほど仲良くなったわけでもないのに!

 これってまさか私がうっすらとこいつとの昔の思い出を覚えてるってこと?


「え!昔のこと思い出してくれたの!?」

 

 拓真が嬉しそうに立ち上がる。


「え、ちょ、なんで地味って言ってないのに聞こえてるのよ!」

「それがね、僕のこの能力、判定が甘いからよく分かんないんだ。基本は『地味』に反応するけどね」

「なんていい加減な能力なのかしら・・・」


 途中で話は脱線したけど、程良く話が終わったところでまたうつ伏せになろうとした。

 その時だった。


「あ、あのっ!」


 頭の上で私を呼んでいるだろう声が聞こえる。

 頭を上げそちらを向く。

 そこには、小柄で制服のサイズが合っていないんじゃないかと言わんばかりにブカブカで。

 高校生とはあまり思えないロリ声で。

 青空のような澄んだ水色の綺麗な髪を腰辺りまでおろした。

 そして、口元までしか見えないくらいに黒い被り物を深く被った少女がいた。

 私は思わずポツリとこう呟いた。


「・・・・・・・ロリっ娘」

「ロリっ娘言わないでください!これでも高校生です!!さっきもどこかのクラスの先生に『小学生は来ちゃダメですよ』って言われたばかりなんですっ!!」


 ぜーはーと息を吐くその少女に気圧され、ぽかんとしてその少女を見る。

 ・・・被り物で目が見えないからおそらく目があるであろう位置を見る。


「それで、私に何か用?」

「え、私を覚えてないんですか!?私は・・・・」


 不思議な子だ。

 何と言うか、ミステリアスな雰囲気がその被り物から醸し出されている。

 その被り物は、パーカーのフードと袖の部分だけを残したような作りだ。

 袖のような部分はフードの首の辺りから垂れ下がっていて、見方によってはツインテールに見える。

 そしてそのフードも随分深い。

 その子の顔なんて簡単に隠れる位に深い。

 うん、こんな不思議な雰囲気のロリっ娘もアリね。


「・・・ですか?!・・・・・って聞いてましたか!?」

「へ?」 


 あ、さっぱり聞いてなかった。

 何かを熱弁してたみたいだけど。

 その子は口元を歪ませながら大きく息を吸った。


「だから!え、私を覚えてないんですか!?私は黒影夜月(くろかげよつき)!麗愛ちゃんとは昔から仲良しでよく一緒に遊んでて、小学校入学と同時に麗愛ちゃんの家の近くに引っ越してきた時、麗愛ちゃんすっごく喜んでたし毎日一緒に遊んでたじゃないですか!なのに五年生の頃、急に人生に絶望が訪れたかのようにキャラ変して暗くなっちゃって!遊ぶこともなくなって!挙句の果てに中学校に入学すると、ぴたりと学校来なくなっちゃった上に音信不通。正確には、たまに電話したりお家に行くとお兄さんはいるんですけど・・・。と、とにかく感動の再会なのにどうして『あんた誰?』みたいな顔して私を見るんですか?!って言ったんです!!!!」

「は、はあ、ご丁寧にどうも・・・・」


 要するにアレね。

 幼馴染ってことね。そんな長ったらしく説明しなくてもよかったのに。

 それよりも一番ツッコミたいのが・・・。

 名前が全体的に暗い!!

 なにそのアニメの主人公みたいな名前!

 って言うか私さっぱり覚えてないんだけど。

 それにさっきからこの子泣きそうなんですけど。

 気付けば周りのクラスメイト達が私たちを見ている。

 ただ一人黙々と読書をする地味男を除いて。

 あれ?これ、私が虐めたように見える?

 

「えっと・・・夜月ちゃん?お、お願いだから泣かないで?ごめんね、私が悪かったから、ってうわあぁ!顔が見えないから余計に頬を伝う涙が心を抉る!泣き止んで夜月ちゃん!!」

「まあまあ二人共落ち着いて?それと麗愛、僕は地味男じゃないよ」


 私たちを拓真が(なだ)める。

 もちろんツッコミはスルー。


「それにしても久しぶりだね夜月?中学は違ったから三年ぶりだね?昔は麗愛のお兄さんも含めて四人でよく遊んだよねー」

「う・・・ぐす・・・あなた誰ですか・・・・・・・?」


 拓真が大人しくなった。

 て言うか、拓真って中学違ったのね。

 私は夜月ちゃんに式が終わるまでに昔のことを思い出しておくと約束してその場を収束させた。

 そして丁度良く、式が始まるから入場するよう号令が出た。

 担任の先生が夜月ちゃんにフードを脱ぐよう促すと


「あなたは幼気な女生徒にみだらな行為を強要しているのと同じことなのですよ!?」


 などと一悶着あって騒いでいた。

 結果、夜月ちゃんが負けてフードを脱ぐ羽目になった。

 ・・・・やっぱり可愛かった。

 でもその顔を見て、私はモヤモヤした。

 どこかで見たような・・・。

 



――――――式が始まって小一時間経過

 そろそろ式が終わる頃だけどどうしたものかしら。

 全然思い出せない。

 あの地味男ならともかく幼馴染のことまで思い出せないとは・・・。

 背後から地味な視線を感じるけど知ったこっちゃない。

 あ、そうか分かった。

 地味男のせいで勝手にそう考えていただけだ。

 私が拓真を忘れていたのはこいつのせいじゃない。

 きっと拓真って呼び捨てしてるのは昔の名残だ。

 そして朝ぼんやりと思い出していたのは夜月ちゃんのことだ。

 

「ああ、私がただ単純に昔のことを綺麗さっぱり忘れてただけなんだ」

 

 誰に聞こえるわけでもなく。

 か細い声で呟いた。

 私の高校生活は、ゲームやアニメのようにはうまくいかないお先真っ暗。

 もうニートになりたいです。 


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