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第二話 覚えてないなんて言えない!

PCとの戦いでした

 私の名前を呼んだその男子を睨むこと数秒。

 彼はハッと我に返ると途端に目を逸らして顔を赤らめた。

 

(こいつは私を知っている・・・)


 つまり私もこいつを知っているはず。

 だけどさっぱり顔も名前も思い出せない。

 ここははっきりお前は誰だ?と聞くべきなのかな。

 それとも思い出した風を装って適当にやり過ごすべきか。

 

「麗愛、僕の事忘れてる?」


 ・・・後者でいこう。

 前者でいけば面倒なやりとりが起こる気がする。

 私はゲームで培った知識をフル動員して思考を巡らせた。

 

「え、いや、久しぶりに学校に行くからちょっと忘れてただけだよ・・・!あ、あはは」


 愛想笑いでやり過ごす!

 早くどっか行ってちょうだい・・・・・!

 私、コミュ障なんだからぁ!

 ましてや、お兄ちゃんとお父さん以外の男の人と話すのなんて久しぶりで緊張してるのに!!


「なあ、麗愛」

「は、はい!?」


 突然名前を呼ばれたから素っ頓狂な声をあげてしまった。


「麗愛、完全に僕のこと忘れてるよね?」

「え?そ、そんなわけ・・・・ない、じゃない・・」


 ゴニョゴニョと言い淀んでしまう。

 自信が無いのが見え見えだ。

 でもいくら私が数年学校行ってなかったとはいえ、少しくらい引っ掛かることがあってもいいんだけど・・。


 私は改めて彼をじっと見る。

 と、恥ずかしいから値踏みするようになるべく目は合わせないように。

 この人の第一印象は・・・・。


 地味。


 この一言に尽きる。

 顔もそんな世間一般で言うイケメンとも違うし印象が薄そう。

 今は制服を着てるっていうのもあると思う。

 けどきっと私服も地味なんだろうな、って勝手に印象付けが出来るほどその存在感は地味。

 ここまで地味だとさすがに私も覚えれないわ。

 うん、そうよ。こいつが地味なのが悪い!

 あんな少女漫画的な展開作っといて、こんなに地味ってどういうこと?

 すると、地味なその男子は苦笑いを浮かべてくる。

 な、何よ・・・。


「麗愛、僕のこと地味だって思ってるよね?」

「う・・・・」


 思っていたことを突かれ言葉が出てこない。

 お世辞でも「そんなことないわ!」って言おうとすると・・・。


「確かに僕は世間一般で言うイケメンでもないし、私服もきっと地味なんだろうなってよく言われるよ」


 ははは、と乾いた笑いをしながら完全に考えていたことを口に出された。

 何こいつ、キモイ!


「あ、実は僕、どういうわけか相手の考えることが声になって聞こえちゃうんだ。まあ、『地味』ってワードが入る時だけに限定されるんだけどね・・・」


 思い出したようにそう告げ、また「ははは」と乾いた笑いをする。

 って、何でこの状況で突然特殊能力を披露された上、嫌味ったらしく能力教えちゃうの!?

 それにこいつほんっとに誰?

 この地味男(じみお)!!!


「やだなあ、僕は地味男なんて名前じゃないよ」


 気さくに笑うのがなんかムカつく!

 こいつひっぱたいてやりたい!

 

「どうやら忘れちゃってるみたいだから改めて自己紹介しなきゃね。僕は桜葉拓真(おうばたくま)。麗愛とは昔はよく遊んでたから、覚えてもらってるって思ったんだけどね」


 こいつ無駄に名前だけはカッコいい!

 ・・・ん?

 昔はよく遊んでた?

 朝ご飯の時、確かに私は昔は仲良かった人のことをぼんやり思い出してたけど・・・。

 あれは、女の子だったのよね。

 やっぱこの地味男、記憶にないわ。

 すると地味男はしょんぼりと肩を落とす。


「僕は地味男じゃないってば。いや、それよりも昔のことも忘れられちゃってるんだね」


 こいつ本当に『地味』系のことの考えは読めるのか。

 でも確かに私も悪いことしたな・・・。

 なんとか思い出そうとしても、やっぱり少しも引っ掛からない。

 仕方ない、謝罪だけでも。


「その、桜葉、君?忘れちゃっててごめんね?」

「いや、いいよ!僕の存在感が悪いから!だから麗愛はそんなに落ち込まないで!!」


 急に桜葉君はあたふたする。

 この様子だと、女性には慣れてなさそうだ。


「それと、僕のことは昔みたいに拓真って呼んでいいよ」


 こちとらコミュ障の上にあんたのことなんて覚えてないのよ!

 いきなりそんな馴れ馴れしく呼べって言われても・・・。

 はあ、と溜め息をついて覚悟を決める。

 まあ、私も忘れてるんだからお詫びも兼ねてってことで本人の言う通りにするか。


「じゃあ、その、拓真君。そろそろ学校に行かない?いつまでもこんな道のど真ん中に座ってても危ないし、それに・・・」


 今まで気にしていなかったが、見ると周辺住民の皆様が私たちを見てはヒソヒソと話をする。

 段々自分の顔が赤くなってくのが、分かる。


「は、早く行きましょ!!」


 私は立ち上がるとそそくさと逃げるようにその場を後にする。

 桜・・・拓真君も後を追うように立ち上がって私についてくる。

 高校生活、最初がこんな調子がこの後が不安でしょうがない。

 そんなことを考えながら、誰もいない通学路に舞う桜を眺めながら学校までの道をゆっくりとした足取りで歩く。

 拓真が登校完了時刻まであと3分だと告げるまでは。



 

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