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第一話 不安しかないなんて言えない!

「はあ・・・」


 私の高校生活はため息からスタートした。いや、するのかな。

 目の前ではお母さんがホクホクしながら私を見る。


「いよいよ(れい)ちゃんも高校生ね!」


 やめてお母さん、それ以上私を苦しめないで。

 ただでさえ・・・


(学校行きたくない・・・・)



――――


 私、奥井麗愛(おくいれいな)は小学校五年の頃に絶望を知った。

 同級生の連中とは馬が合わなかった。

 高尚なアニメの良さが何一つ理解されなかった。

 だから私は絶望していよいよ考えるのをやめた。

 中学からは学校に行くのをやめた。

 私はネトゲやアニメにのめり込んだ。

 あんな時代遅れの子供とは話が合わないんだから。

 ちなみに私は中二病を小六のころに発病した。それくらい時代の波にすぐ乗れるスキルを持っていた。

 家に引き篭り「ラストブレイバーオメガ」という有名なネトゲで英雄となった。

 私がサーバーにインすると


「レイ様!レイ様がお越しになったぞ!!」


 など歓迎されるのが日常茶飯事となっている。

 それもそうだ。私はこのゲームの上位ランカーであり、大会やイベントでは大抵トップ10には入っている。

 ただ、歓迎される理由はこれだけではない。

 私はゲームのプレイ動画を実況して大手動画サイトで生放送している。

 年齢は非公開だがコメントではよく「JCみたい!」だとか「ロリktkr」とか言われている。

 ・・・まあ、あながち間違ってはいないんだけどさ。

 どうやら実況動画が人気に拍車をかけて遂には歓迎されるようになった。


 そんなニート生活を続けていたら、いよいよ両親も痺れを切らしたようで・・・。

 パソコンを始めとして、あらゆる娯楽となる機器は没収された。

 ラノベを読むことだけは許してもらえたけど。

 お母さんたちは優秀で出来のいいお兄ちゃんが家庭教師にした。

 そして私を高校に入れるなど血迷ったことを言い出した。

 

 勉強は困難を極めた。

 いくら優秀なお兄ちゃんの力でも、受験するのは私。

 私の頭のキャパシティではとても受験日当日に間に合うとも思えなかった。

 中三の春から中一の内容を一から勉強し始めた。

 難航となる決め手は当然私の要領の無さ。

 全範囲の勉強が終わったのが十二月。

 一通り復習を終えたのは受験の一週間前だったかな。


 試験当日。

 試験は驚く程簡単に思えた。

 何これ、全部わかる、何これ!

 お兄ちゃんスゴい!

 なんだかんだで私ちゃんと覚えてる!


 そして私は奇跡的に合格した。

 面接もお兄ちゃんの特訓のおかげで何とか乗り越えた。

 と言うか出席日数皆無なのに受かるってどうなのこれ。

 まあ、受かったから文句なんてないんだけどね。


「麗愛、合格おめでとう」


 私が試験の結果を見て喜んでいるところにお兄ちゃんがやって来た。


「まあ、お兄ちゃんがこんなに優秀じゃなかったら合格なんてできなかったけどね」

「なんだ、珍しく素直じゃないか。いつもはイライラしてんだかしてないんだかよく分かんない態度のくせに」

「はあ?いっつも突っかかってくるのはお兄ちゃんのほうじゃない!人のことをコミュ障だとかクソニートだとか」

「だってホントのことじゃん」

「ちょっとそこに正座なさい?お兄ちゃんのその偏見と根性叩き直してあげるから」

 

 私が優しくそう言うとお兄ちゃんは無言でその場を立ち去ろうとした。

 私は逃すまいとお兄ちゃんの後を追いかけようとした。

 するとお兄ちゃんはその場で立ち止まり、くるりと振り返ってこう吐き捨てた。


「兄より強い妹はいない。ましてニートなら尚更な」

「殺す」


 この人を小馬鹿にするのが兄、奥井紫電(おくいしでん)

痛い名前だけどちゃんとした由来があるそうな。

 何故か誰も私には教えてくれないけど。

 そんなお兄ちゃんとの逃走劇も日常茶飯事である。

 

「そんな性格だから彼女なんて出来ないのよ!!」

「HAHAHA、ニートのお前が何を言うか!このスペックの違いがお前に分からないわけではないだろう?」

「ちょ、お前ホントマジで圧倒的力量差を持って絶対的永遠的に抹殺してやるから来い!」


 私は文字通り抹殺するかの勢いでお兄ちゃんに食って掛かる。

 しかしいくら狭い家の中を走り回っても自称高スペックのお兄ちゃんを捕まえられない。

 

「圧倒的力量差って本気で言ってるの?冗談はよしてくれ」


(こいつマジでムカつく!!!!)


 ・・・・ムカつくはずなのになんだろう。

 最近このやり取りを楽しいと思える自分がいる。


「そういうテンションだと、学校生活やっていけんじゃねーの?」


 不意にお兄ちゃんがそんなことを言ってきた。

 学校生活・・・。

 これくらいだとやっていけるのかな?

 私は走るのを諦めた。

 お兄ちゃんは私を気にすることもなく走り去っていった。

 大きな独り言で「もう少しおしとやかだったらなー」とか言うのが聞こえたけど華麗にスルー。


 学校なんて久しぶりだ。

 高校ってどんなかんじなのかな。

 久しぶりに会う子もいるだろうし。

 皆私のこと覚えてるかな?

 なんだかちょっぴり高校生活が楽しみになってきた。

 




 私、小学校の頃友達いたっけ?

 

 

 


―――



 そして今に至る。


「麗ちゃんなら大丈夫よ。友達だって沢山できるわよ!」

 

 私が暗い顔をしていたのか、お母さんが私を元気づけるようなことを言ってきた。

 

(そんなこと言ったって皆初対面みたいなもんだし。私転校生と似たようなもんじゃない・・・)


 どう考えても幸先の悪い高校生活に期待なんて微塵もなかった。

 知り合いなんて、知り合いになんていな・・・・。

 あれ?昔から仲良かったあの子、何て名前だったっけ?

 友達(?)がいたことを忘れてたうえに名前も忘れるなんて。

 友達を作るのも絶望的だわー。

 

「麗ちゃん!何ボーッとしてるの!遅刻するわよ!!」


 え?・・・あ!

 時刻は七時半を回っていた。登校完了時刻は八時ちょうど。

 ロクに準備も出来てないからこのままでは遅刻安定だ!

 学校生活初日から遅刻なんて!

 それだけは避けなきゃ。

 学校まではおよそ二十分。

 まともな準備はしてられない。

 せいぜい髪だけでもちゃんとしていこう。

 あ、でもご飯もちゃんと食べないと式中にお腹が鳴って恥ずかしい思いを・・・。

 ど、どうすれば・・・・・。

 目の前にはトーストが一枚。

 これは・・・。


 

 入学式初日から遅刻しそう。

 そして肩からはスクールバッグを提げている。

 髪は整えたとはいえぐしゃぐしゃ。

 そして口に加えられてるのはトースト。

 何これ、フラグ?

 いやいやいやいや。

 私ただでさえ男運ないのに。

 そりゃそうか。

 いや、落ち着いてる場合じゃない!

 遅刻するんだって!

 てか若干ドキドキしてるんだけど私!!

 そんな展開ないって!

 フラグなんて余裕で折ってみせるわ!

 これはあれよ。走ってるから疲れてきただけよ。

 止まろう。一旦止まりましょ。

 

 ・・・・何バカやってるの?

 友達もいないのに何でドキドキしなきゃなんないのよ。

 何が悲しくてこんなことしてるの?

 出会いなんてないない。

 なんだか自分に呆れてくるわー・・・。

 私は時計を見て間に合いそうだと悟る。

 ゆっくり行こ。


 朝から疲れた私はモタモタと歩き始めた。

 少女漫画でよくある十字路を通りかかっても何を気にするわけでもなく。

すると突然慌てたような声が聞こえてきた。

 

「うわああああ!!!遅刻するー!!」


 大声が聞こえた方を向く。

 十字路のど真ん中で。これは完全に射程距離じゃないか。


 (あ、これぶつか・・・)


 ドンッ!

 という音はしなかったけどそんな感じで私は男子とぶつかった。

 しっかりフラグは回収したわけね。


「いったぁ・・・・そんな慌てて走らなくたっていいじゃない!」


 私はぶつかってきた男子を怒鳴りつける。

 だけどそいつからは何も反応がない。

 頭を(さす)りながら名前も知らない初対面の男子を睨みつける。

 

「ちょっと、何か謝罪・・・とか・・・」


 彼はただじっと私を見つめる。


(な、何この人・・・)


 その男子がやっと口を開く。


「・・・麗愛?」

「・・・誰?」

「!?」

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