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お母様

少しだけ長くなりましたーーでも相変わらず内容は無いです(^^ゞ

 一体何の拷問だろう?



 爽やかな風が流れ綺麗に整えられた広大な庭をみつめながら死んだ目で思った。



 目の前のテーブルにはには、色とりどりのお菓子。温かな紅茶は飲んでも飲んでもそこを見えることがない。うん。大きな体に似合わずちょこまかと動いているいつもの執事ーーさんが常に入れてるからだね。



 いや、そんなことはどうでも良くて。



 追い返すいい案も出ないままこの日を迎えました。うん。ママだ。紛れもなく。その首についてる宝石類はどうしたんでしょうね? 眩しいくらい大きな赤い石が威嚇するようにギラギラ輝いてるんですが? おまけに赤いドレスも新調しましたね?



 とてもではないけど買えません。私の給料?で。『やったぜ!』みたいにこっちに向けて親指立ててもダメだから。



 おいこら、いい気になって借金したな? 私はびた一文払わないよ?



 絶対だよ?




 ……。




 まあ、それもおいておいて。一応想像してた通りだし。私が死んだような魚の目をしているのは、そこにアホ王子がいるからなんだ。



 いきなり部屋に押しかけてきて『俺も参加するから!』と嬉しそうに言ったーー丁寧に追い返したけどーーのが三日前。



 何故と問えば『夫婦仲いいところ』を見せつけるためだとか。



 ナニソレ。



 いや、夫婦ってーー。それに舞踏会で問題なかったんだから、ママにバレても大した問題にはならないと思うんだよ。だから別に王子が参加しなくてもいいと思うんだ。


 まぁ、たぶんーー多分だけど、ママを拝みに来ただけの気がする。



「似てないなあ」



 ーーち。オブラートに包もうか? そこは。心底言うな! どうせママは妖艶な美人だよ。胸ドン! 尻ドン! しかも大人の色香が備わってる。何人男を陥落してきたのか知らないけどお義父様が居るときでも平気で愛人と部屋に篭ってたからなぁ。



 パパ似らしいけど私はパパを知らないというか、ママも『多すぎて』知らないみたいーー。このアバズーーううん何でもない。



 ママは私と唯一似たくすんだ色をした金の巻髪を軽く払った。因みにリディや公爵の髪は明るい金髪で羨ましい。



「それはそうでしょう? この子は私の要らない所を寄せ集めましたからーー。でも、まさか王子様がまさか不詳の我が義娘を捨て、我が実娘を選んでくださるとは思いませんでしたわ。ほほほ。派手なお顔に似合わず、地味な娘がお好みだったんですね?」



 ちょーー!!!!



 あんたもそう思ってたのか? だから必要以上に私を飾り立てたのか!



 目立つようにーーって、それでも目立たなかった私って一体。しかも、寄せ集めってなによ? 地味に傷つくよ?



 開始早々もう、帰りたい。



「ブランデー入れます? ご用意出来ますが?」



 耳打ちをするのは執事さん。珍しく助け舟出してくれたよ! いつも『だめです』しか言わないのに! 今日は天使に見える。天使。いい年のおっさんだけど。



 黙って刻々頷くと執事さんは素知らぬ顔でティーカップに液体を注ぎ込んだ。



 いざーー現実逃避! 精神回復!!



 と思ったら突然私の身体が半ば強引に引き寄せられた。その拍子にブランデー入の紅茶が! 紅茶がっ!!!



 手から落ちるそれは敢え無く地面に叩きつけられ、ティーカップは見事粉々に崩れ去った。



 私の精神もガリッと崩れるよぉこれ。私のブランデー……。



「な、何をするのよ!?」



 いや、まじで。泣くぞ?



 いや、むしろ殺ーー。



「……」



 忘れてたけど、身体引き寄せられたんだっけ? そして、私の身体は奴の体に収まる状態に……。



 見上げれば美麗な顔。うわぁ。睫毛長いなあ。


 ……。


 ……。



 ーーはっ!!



 思考停止してしまった。突然、何するんだよ? 本当にこいつは。ママの意味有りげな視線を感じながら身じろぎしたが開放される気配はない。



 それどころか不覚にも目があってーー頬が高潮するのを感じた。



 まずい、やばい。調子に乗らせては行けない! 足だ。足を踏みつけるしかーー踏もうとしたが、なんの学習か何度試みても逃げられるばかりだった。



 やるな。こいつ。ーーてか、放せ!!



「……ちょ!!!」



「地味というよりは面白い女だと俺は思うけど? こいつはーー見てて飽きないし」



 うがあ! 私の頭が丁度いい位置にあるからって顎をのせるな!! 喋るたびに脳天が痛いんですけど!!!



「ふふふ。愛されてますわねマテリア。お母様は嬉しいわ」



 いやいやいや。どう考えても遊ばれてるだけでょ? 面白いから。



 くそぉ、こうなれば。私は少し離れた垣根に目を向けた。艶やかに輝く緑の向こう。誰もいないのを確認してから私は少しだけ驚いたように顔を作った。



「ーーあ、カル様」



「え?」



 何処ーー?



 言いつつ庭を凝視。その隙にとと思ったけどーーくっ!! なぜ放さない?



 普通放すよね? 愛人が出てきたら慌てて。なんで放さないのよ?



 まさかーー



 アホ王子は困惑する私に視線を返した。半ば呆れたようにして薄笑いを浮かべていた。



「普通バレるだろ? お前の魂胆なんてーー大体カルがこんな所」



 ですよ、ね。子供じゃないんだから。思わず乾いた笑いが漏れる。



「……なら、放して下さい」


 嫌だ。ニコリ微笑む顔は悪魔にしか見えない。なんで、私の周りには悪魔しかいないんだ!! リディといい、こいつといい。



 ママといいーー。げんなりする。



「あらあら。そのままで結構ですよーーこんなに幸せそうなら、嫁に出したかいがありますわ」



 ちょ……普通母親なら分かるよね? 私が今どんな表情をしてるかなんて! 明らかに歪んじゃってるよ?



 これ幸せに見えるの? 



 私が睨むとママは素知らぬ顔で紅茶を口に含んだ。



「まーー」



「不幸そうなら連れて帰ろうかと思いましたけれどーーそれであれば私言う事はありませんわね。本来であれば我が娘にいろいろ持たせて送り出したく思いましたが突然の事。無作法で申し訳ありません」



「ーーいや、本来なら俺も結納金を持って行くべきだったんだが」



 なんか、嫌な予感がする。『結納金』と言う言葉が出た瞬間、軽く口元が緩んだ気がしたのは気のせいではないだろうーーけど。



 そんなものを払われるのは困る!!



 一つはママに餌を上げてはいけない!



 一つはそんなものを貰ったらここを出る時の借金がかさむーー王家の結納金なんてそもそも一般人の給料で払える額なの?



 あーーリディの時、貰ったら気がするけど覚えてない!



 ともかく、怖いーー怖すぎるよ!? 私は引き攣らせた笑顔のままアホ王子を見た。



「そ、そんなものはい、要らないんでーーき、気にしなくてもいいです」



 心底要らないんで!!



「あら? 当然のことですよ? マテリア」



 黙れ! 目を輝かせて笑うな!! あっ! アホ王子も何を考えてるんだよ? 偽物だからね? 私は。リディの結婚の時すでに貰ってるはずなんで要らないからね?



「……分かった。あとで侍従に届けさせよう」



 ーー。



 高給って何かあったっけ? 歓楽街以外でーー。あ、涙が。これからの人生貧乏でもいいからひっそりと堅実に生きるつもりだったのに……馬車馬の未来しか見えないんですが。おかしい。



 これはお義父様の些細な復讐かな?



 えっと、ママには無いんですかね?



「ふふ。有り難く頂きます」



 ああ。ママの目がどこかに行ってる。アレは頭の中で買い物をしている目だーー。



 私はよく見慣れたママの表情を見、溜息を深く落とした。疲れが逃げていけばいいな。そう思ったけどそうも行かないみたいだ。



「要らないのに」



 声に出して言ったつもりは無かったんだけど、どうやら声に出していたらしい。隣でアホ王子は苦笑を浮かべた。



「まぁ、そう言うな。気にする必要なんてねえょ。俺にとってははした金だしな」



 あはは。じゃ、ない。



 いや、私にとってーー否。国民にとってははした金など無いのですが!? 一銭も無駄にはできんわ!! お金に謝れ! お前に税金納めてる国民に謝れ!!!



 なんて、切れるわけにも行かず、じわじわ湧いてくる言葉を圧し殺して出た言葉がーー。



「口を縫うぞ?」



 だった。





 夕方ーー。何とか満足した強欲にお帰りいただいて、アホ王子をカルちゃんに引き渡すーー丁度訪ねてきてた。グッジョブ!ーーと私はテーブルの上でカリカリと筆を走らせていた。



 借用書。書き方なんて知らないけどとにかく簡易的に作って置いて明日、執事さんに相談してみよう。



 にしても。このゼロの額ーー死ぬまでに払い終わるんだろうか? 増えないことをーーママには今後会わないことを願いつつ、ため息を落とす。何度目だろう。ため息を落とすと幸せが逃げるって言うけど、まず私の幸せどこ行った?



 泣きそうな思いを抱えながら封筒に蜜蝋を押してーーと。



「……お姉様」



「ああ。リディ? ど、どうしたの?」



 なに? なに? その手に持っているものはーー毒?



 あ、いや。紅茶だね。無表情が怖いわ。ま、ま。珍しくお茶を入れてくれたらしい。



 なぜ? もう裏があるとしか思えないんですが。それは。



「はい。ーーレベッカ=カイベル男爵令嬢がお姉様に会いたいと」



 ーーだれ? それ。私友達少ないしーーていうかボッチだし。そもそもここまで来ているという事はこの状況を知っているってことで。うーん。



 レベッカーーあ、ベッキーちゃんじゃない?



 ようやく思い出して、仕事らしい仕事をするリディについて行くとソファには可憐な少女。彼女は私に気づくと弾けたように立ち上がった。



 その強張ばった顔からは何があったのか余裕が感じられない。



 何だろう。考えて、私は少しだけ息を呑んでいた。もしかしたら、公爵の事かもしれない。



 ずっと気になってはいたんだけど。



「リディ。悪いけれど、この封書を執事さんに渡してもらえる?」



 一瞬、冷たい視線が走ったけどめげない。この後が怖いけど気にしない!!



「はいーーお茶をお持ちしてから参ります」



 怖ーー。



「……う、うん。頼むね」



 言うと私はベッキーちゃんに軽く挨拶をした。って、なんで泣いてるの? きゃあ! 赤い頬が可愛いーーじゃなくてね。私。



「ど、どうしたの?」



 とにかく、座ろうと促して私は彼女の顔をのぞき込んだ。刹那。大きな瞳からさらにポロポロと光の粒が溢れていくーー。上目遣いの美少女は破壊力抜群だ!



 しっかりしろ! 私!!! 心の中で頭を叩きながら何とか笑顔を浮かべてみせた。落ち着かせるように。



「ーーえと、あの? 落ち着いてね?」



「……はい。突然うががった上、取り乱して申し訳ありませんーー」



 ハンカチを取り出すと軽く目を拭うけど、こらえきれなかったのか、またボロボロと零れ落ちた。



「だ、大丈夫だから。どうしたの?」



「は、はい。すいません。リア様しか頼れなくてーー誰も信じてくれないし」



 なぜ私が信じると思ったかどうか置いておいて。うんーーと頷くと彼女は続ける。その柔らかそうな唇は微かに震えているように見えた。



「公爵さまがーーサイ様がサイ様では無いんですーー」



 言い切って顔を手に埋めるとワッと泣き出す少女をなだめながら私は考えていた。


「は?」


 一瞬、戸惑ったけれど頭に過ったのはレンズの事ーーあの時に見た侯爵の顔。なんとなく今話していることと無縁では無いようなそんな気がした。



 ーーどっちにしろ関係も知りたいし行こうと思っていたんだ。



 刹那ーー脳裏に浮かぶのはアホ王子の顔。なんでよ。いやいやいや。関係ないから。本当に。



 今頃愛人と仲良くーー。



 関係ないから。



 私はひとつ息をつきながらいつの間にか置いてあった紅茶を手にとっていた。

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