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後悔と予感

大幅に改稿しました。基本は同じです(^^ゞ自己満足です。

 どうして?



 自分でもどう帰ってきたのかわからない。ただ離さないようにーーはぐれないようになのか確りと繋がれた手の感覚だけは覚えている。



 思った以上に骨ばった大きな手。まだ温かみが残っている気がした。



 私より困惑の色が隠せないベッキーちゃんを城の客間に連れて行ってから顔見知りのメイドさんに頼むと私はベッドに身体を埋めた。



 フカフカで気持ちよくて温かいーー。



 まだ日は高かったがこのまま眠ってしまおうか。そうすればこの疲れも心のもやもやも取れるかもしれない。



 そう、思ったけれど。



 目を閉じれば浮かんでくる恥ずかしすぎる光景。



 低い声が耳な張り付いて離れないーー。胸が軋む気がして私は弾けるように体を起こした。



 ーーち、ちがう、何かの間違い。間違いなんだよ!! そんなわけ無い!



 絶対に!!!



 だいたいホラ、あれでもイケメンだしーー昔、憧れてた存在だし。だからだよ、だから!!



 ほら、私!! しっかりする!! あれは、敵だーー。敵。



 ーーと何度目かの言い訳を誰かに心の中で繰り返しながら息をついていた。



 そ、そんなことより公爵だ。どう考えても優先すべきは公爵の方だったのに。一体どうして、何を考えてーーって、また思考が戻りそうなのを何度か堪えて『あの時』のことを思い出す。



 去りゆく公爵の背中と久し振りに見る幼馴染。一瞬、兄弟かとも思ったけれど、公爵は知らないがレンズは兄弟なんていなかった。いたとしても、レンズは紛れもない『鍵屋の息子』。貴族なんて関係のない世界に生きていた筈ーー。おまけにおばさんはレンズによく似ていてあれで親子でないほうが驚く。



 残念ながら太ってたけど。



「ーー分からないな」



 ベッドの上で胡座をかくのはいつもの事。だって誰も見てないし。考え事をするのにはちょうどよかった。スケートがめくれて太腿がまる出しだけどまぁ、いいかな?



 リディも今は不在でーーって!!



 ぎゃぁあああ!!!!



 いる。なに? なぜ物陰て隠れて見てるの? 同化しないで!! 目だけが異様に輝いてるよ?



 恨んでるの? 嘘の誘いで、私だけが町に行ったから恨んでるの? で、でも私だって思い出したくもないことがいっぱいでーー。あ、ぼんやりした頭でもシフォンだけは死守したんだ。ベッキーちゃんに借金をして買ったお土産がーー確か向こうの机にーー。



 ヒィィィいい!!!



 ニタリと笑わない!!!! 悪魔か!?



「な? なに? り、リディ?」



「……見てただけです。なかなか、お姉様の百面相面白かったですから。顔を赤くしたり、青くしたり、困ったりーー嬉しそうだったり。泣きそうだったり」


 見てたのか……ぁ。


 意識が遠い次元に行きかけてしまった私を他所目に、満足げに近くのソファに腰を掛けると小さな箱を当然のごとく開けている。



 あ、私のお土産ーー。



「何かありました?」



 手慣れた手付きで箱から取り出すとケーキ皿ーー軽く磨いたあとーーにそれを置いた。因みに言うとティーセット食器類は常備。毎日入れ替えてるらしい。お湯は数時間ごとに一回、顔見知りのメイドさんが届けてくれます。



 凄いよ、王族ーー私には必要ないけどね。その気遣い。



「……と、とくには」



 いちいちこの子に報告することも無いしね。喜びそうだから。



 けれどーー。



「町は楽しかったでしょう? 財布を盗まれたりとか、幼馴染と再開とかーー」



 なぜ知ってる? 



 特に財布を盗まれた件は知られたくなかったんだけど?



 ーーいや。



 私は顔を顰めた。



 一番知られたくないのは『あれ』かもしれない。もう口に出してなんて言いたくないけれど。



 でも。リディの清々しいくらいの笑顔に絶望。知ってる。明らかに。私は思わず崩れ落ちそうになったけど、ぐっと堪える。



「ああ。そう。ウェルが嬉しそうだったですわ。ーーお姉様」



 私は嬉しくない!! 寧ろ馬鹿さ加減に首を絞めたくなる。



 ん? なんか違和感。



 半眼でリディに目を向けた。



「ーーまさか、あのアホ王子なの? 情報源は」



 私の恥を触れ回ってるのか? あのアホ王子! さっきまでグルグルと考えていた事を恥じるわ!!



 うん。絶対に勘違いだ!



 霧が晴れていくのを感じて何だかスッキリしていた。



「嫌ですね。それだけじゃ無いですよ。これでも私は正妃を三年ほどしていたんです。色んな情報網みたいに持ってますよ?」



 ーーこわ。でも、私には一つもないですが、その情報網。どうやったら作れるのか教えて欲しいけど無理だろうな。



「それにしても、嬉しそうってーーまさか私を落としたとか思ってるの?」



 いつの間にか紅茶を淹れて優雅にケーキを口に運んでいた。えっと、私のは? 私のは無いのかな?



 自分で淹れろ、ですね。分かります。私はのろのろとソファに行くと余っていた紅茶をティーカップに注ぐ。



 いい匂い。



 ついでにシフォンも取って、と。私はフカフカのソファに腰を掛ける。もちろん対面するのは怖いので隣に。もちろん間はかなり取ってあります。



「でしょうね? でも、お姉様も浮かれてたじゃないですか? 見る限り幸せそうでしたよ? ……頭が」



「ぐーー気のせいです。気のせい。私は公爵の事を考えてただけだしーー」



 嘘じゃないし。



「なら、公爵様がお好きなので?」



 はつ!? ちょーー。一瞬、何を言われたのか分からなかった。けれど、刹那ーー顔に熱がこもるのを感じる。



 いや、これは違ってーーなに? これ。



 確かに良いなって感じたことはあるけどもーーベッキーちゃんいるし。私は関係ないし。



 ーーああ、もう! 私が気の多い女みたいじゃないか!



 ち、違うから!! ママじゃあるまいし!



「違うから!!」



「そんな事より」



 ……おのれ。私の慌てっぷりをスルーか。私は半ば強引にシフォンを口いっぱいに含んだ。



 味なんてもう分かんない。



 私のシフォンーー。味より悲しみが広がっていく。微かに涙の味がしたのはきっと気のせいだ。



「そんな事より?」



「お義母様がいらっしゃる様ですよ? それで私も女官長様に呼ばれましたので」



 ……。



 一瞬、『お母様』って誰だっけ。と現実逃避してしまった。お母様だね。お母様。



 ーーママだ!!! 私は一気に頭から血が引いていくのを感じていく。サアっと音がするのを初めて聞いたような気がした。



「なんで!? 私言ったよね!? ママにだけは知らせるなと!」



 そう。それだけは折に折り込んでお願いしていたのに。



 ママは強欲だ。子爵(うち)の財産を食い荒らし、挙句足りなくなると借金まで作った㊛。どうして、お義父様がそれを許していたのかは知らないけれど、ともかくそのせいでお義父様は馬車馬のように毎日働いた。働いても働いても膨らんでいく借金。それがお義父様の寿命が縮んたのは間違いないと思う。



 金遣いにはきっと私も加担していてーーゴメンナサイ。お義父様。



 ともかく、私は改心したんだけど、ママは無理だろうな。生活費だけは送ってるけどーー。なんに使ってるんだろ?



 大体、ここに来られても私には何もできないのに!! 所詮私は偽物で、ここにあるすべてのものは私のモノでもないし。



 財産何て一つだって持ってないんだから。



 かろうじて財産って言えるものはあのカバンと、財布ーー。



 さいふ。



 大きなため息しか出ない。



「知らせたわけではないです。嗅ぎつけただけでしょう? 多分ですが、この間の舞踏会で知ったんでは?」



 あれか。私は頭を抱えるしかなかった。言い掛かりだけど、王子のせいだーー。



 そう思わないとこのショックをどうにもできない。



「どうしよう?」



「……私はあの人苦手ですので違う者がお手伝いさせて頂きますね? 大丈夫ですよ。草場の陰で見守ってますから」



 逃げるな。散々いじめられたんで苦手なのは本気だろうけど。



 それに、見守るって言うより楽しむつもりだよこの子。満面の笑みになってるよ? とても分かりやすいんですが?



「ーーまぁ、悩んでも仕方ないですよね。一週間後には許可も降りるし、こちらにつくでしょう」



 おそらくなんの疑問もなく許可は降りるだろう。私の実母でリディの継母。借金まみれだけど犯罪者でもないし、特に断る理由もない。



 でも、そこは断ろうよ!?



「……どうしよう?」



 今度は誰に向けてではなく小さく呟いていた。カタンと陶器の小さな音。リディがテーブルにカップをおいたのだ。



「まぁ、疲れているといい案は出ないというしーー取り敢えず少しだけ眠った方がいいと思います」



 いや、起きても出ないと思う。そう言いたかったが、食べたことで機能し始めた胃に少しだけ眠気を覚え始めていた。多分疲れているのも重なっているのだろう。



 私は力なく『そうだね』と呟くと気替えもせずベッドに体を埋めていた。



 夢ならいいのにーー。



 かすかに漏れた言葉は誰にも届くことなく、その語尾と時を同じくして、私は意識を手放していた。


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