お誘い
シリアス入れたかったけどもう少しこのダラダラ感を続けます。(^_^;)
結論から言うと。私は処刑されなかった。と言うよりなんの音沙汰もなかった。
一週間怯えきっていたけれど最近気づいた。
もしかして処刑なんて、ない?
ということで、いつもの日常を過ごしていた。
そう。いつもの。
あはははは。
今日も元気に壁のホコリを落として床を磨く。飾ってある銀杯や小物をキュキュキユと気持ちのいい音を立てて丹念に磨きます。
うん。気持ちいいね。今日もピカピカ。
ベッドのシーツを取り外して新しい物と交換。流石にシーツ持ったまま廊下をウロウロすると他の使用人さん達にリディが怒られるのでお願いしてリネン室まで運んでもらう。とても嫌そうだけどそこはぐっと我慢してもらって……。
そのリディはーー。今日も窓際で紅茶を飲みながら本を読んでいらつしゃいます。
優雅だね。お姫様って感じ。地味なメイド服なのに。
当然私はティーカップが空になったのを見計らって紅茶を注ぐんだけど……うん。もう考えない。
細かいことなんて考えない。ドレスが汚れてしまうのでメイドの服を借りてるけど細かいことなんて考えない。
うーーそれが一番だ。無心でお掃除してればきっと良いことがあるハズーー。
アホ王子からさよならできるとか、ここから出ていけるとかーー。リディが昔の性格に戻ってくれるとか。
だよね?
悲しくなってきた。
……。
無心だ。無心になろう。
重苦しい沈黙を遮るようにして私は箒を動かす。
あら、こんなところにもホコリがーー。フフフ。
現実逃避気味の脳に突然刺さるような音が響いた。広い部屋に響き渡る反響音。あまりにも突然過ぎて身体がビクリと跳ね、体中が心臓になったようだった。
な……な?
敵襲か? て、敵襲ーーつ!
意味ない気がするけど箒を武器のように掲げ私は慌てて音の方に振り返った。
ってーーアホ王子!!!
ある意味。敵ーー排除!! じゃ無くて。心臓発作で私を殺す気なのか?扉は静かに開けよぉ! 両手でバーン。じゃなくてさ。キラキラした笑顔でドヤ顔やめろよ。カッコよくもないからね?
子供か!?
そして何しに来たんだよ?
私が固まっていると隣にリディが余裕の表情で立って軽く礼を取る。さずが我が妹。驚いた様子など微塵も見せないね。
「ウェルーーお久しぶりです」
「リディ、相変わらずのようだな。元気そうで良かったよ」
ニコリと微笑むリディ。営業用スマイルだな。これ。いつも私に向ける笑顔はーー黒いし。
かなしい。
「ーー貴方も、相変わらず忙しそうですね。こないだ街で見かけましたわ。また、新しい方が増えましたのね。で? なんの御用かしら?」
ニコリと微笑んで、抉るようなことを言うな。リディ。さすが。王子様の顔が少し歪んだ。なんだか、そんな顔をするたびにスカッとするわ。
日頃のストレスが凄いのがよくわかるよ。
しかしながら『また』って言うのが気になるね。私はどうとも思わないけど非モテの中に投げてやりたいわ。
ぐふ。面白そうーーって妄想に浸っている場合じやなかったな。うん。
とにかく、冷たい視線を向けておこう。どうでもいいけど、一応ね。
「ぐ。ーー俺だけじゃねぇぞ? サイだっていたんだからな」
なぜサイ様を巻き込むんだよ? こいつは。私は半眼で奴に目を向けてみる。
「嘘つかないでください。あの方がそんなことなさるわけないじゃないですか。見苦しい。そんな事よりなんの御用ですか?」
そんな事するわけ無いだろ?紳士だし、婚約者もいるのに。遊ぶわけ無い。お前とは違うのだヨ。
美形は苦虫を潰すような顔をしても美形なんだね。ああ。なんかムカつく。
「なんで、アイツだけーーち。まぁいい。それにしても少しは喜んでくれても良くないか? 俺は愛しの旦那様だろ?」
「キモチワルイ」
素直な感想。なにか? なにか言いたそうにこちらを見てるアホ王子だが、死んだ魚のような目をして返すと不満そうに目をそらした。
だって、私愛しくともなんともないもん。むしろ、憎いーーいや、なんでもないです。ともかく、期待するだけ無駄っていうかんじだよね。
「で? なんの御用でしょうか?」
リディは華麗にスルーして話を続ける。
「……俺の誘いに応じないから俺が来ただけだ」
ん?
……。
なんの話?
誘われても行く気ないけど、それ以前に誘われてませんが?
取り敢えずそんな御用ならーー帰れ。話すこともないんで。なぜ、私が誘われないといけないのよ。
口説くなら他でしてね。結構です。私嫉妬に苛まれて生きたくないので。
「当たり前ですよ。手紙一枚で誰がお姉様を差し出しますか? 誘うなら来なさいという話です。でないとーーでないと、私がお姉様の慌てっぷりを見られないじゃないですか」
うん。あは。リディ。一瞬でも『きゃあ!ステキ』そう思ったのが間違えだったよ。握りこぶしを作って力説するなし。ねぇ?と、清々しくいわれても。
そんなこと、誰が同意するか! うわぁん。私、アホ王子にかわいそうな子を見る目で見られてる。
アホ王子なのにぃ!!
同情なんていらない。要らないんだから。
「俺が言うのも何だけどお前ホントに性格が捻たな?」
「大体は貴方のせいですね?」
そうだね。その通りです。昔は純朴で純真だったのに。返せ。私の可愛い妹を。
思い当たるフシがあるのだろう。ニコリと黒く微笑んだリディを見ないようにして王子は軽く頬を掻いた。
「ともかく。カル達のお茶会に是非ともって言われてんだ」
……。
おい。
カルちゃんって……私を睨んでた愛人じゃねえか! しかも『達』ってなんだよ。達って。
嫌な予感しかしないよ。
私は慌てて抗議してみる。
「ちょ!ーーなんで私が行かなきゃならないんですか?」
嫌だ。針のむしろに座らされるのは。私、アホ王子に何一つ感情を持ってませんが……ないのになぜ嫁(偽)と言うだけで嫉妬の渦にーー。考えるだけでも恐ろしいわ!
というか、なんなんだよ。本物のアホなの? 私に対する何かの嫌がらせなの? 女は優しくて皆愛人?同士仲良くする生き物とか考えてるのか?
……。
頭に詰まってるのは、お花畑なんですね。美麗な顔もアホの子にしかもう見えなくなった。
顔だけが取り柄なのに。
他に何かいいところあるの?
「決定事項だから。早く用意してくれる? ーーええと?」
また、名前忘れやがったな。一体いつ覚えるんだよマジで。コノヤロウ。
「だからっ」
行かなーーそう口を開こうとしだがその言葉はリディの妨害によって紡がれない。
なにも……ぶつからなくても。
大体、細い体にどんな力があるんだよ。私はフラフラとバランスを崩すが誰も気にしないようだった。
ですよね。
「マテリアお姉様です。ウェルーーでも、なんのつもりですか? カル様に紹介するなんて」
「……楽しいからよくね?」
うわーい。楽しみだなぁ。……って、そんなわけ無いだろっ!!!
内心突っ込むが、嫌な予感しかしない。恐る恐るリディを見上げるとニタリと黒い笑顔浮かべていた。
なにを、想像してるんだ?
何を。
「それなら、私も一緒に参りましょう。楽しみですね。お姉様?」
え? 楽しくな……。さらにあなたが行くとややこしくなる予感しかしないんですが。
「いや、あのね。私ここにーー」
笑顔で私を脱がし始めるのやめなさい。そして、そこ! ナチュラルにガン見すんな。出ていけ!
いやーー!!
もうやダァこの元夫婦は!!
しかし次の言葉に妹は凍りついた。アホ王子の気持ちのいい笑顔がなんとなくムカつく。
「あ、それとリディは行けないぞ? 女官長が呼んでたしな?」
ビリッ。
嫌な音が響いて私のエプロンが破られた。
その横でカラカラ笑うアホ王子はリディに聞こえないように私に囁く。
嘘だよーー。と。
ちょっ!! 何処からどこまでが嘘なんですか?
ーーその答えはこの部屋から連れ出されるまでわからなかった。