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希望

 焼きたて卵に温かなコーヒー。それを目の前にいる美男美女に出しながら私は今日も幸せを思う。



 なんて今日も朝からいいものを見ることができるんだろう。ニヤニヤしているとゴミを見るような目でーーそれさえも麗しいーー美女が私を睨みつけた。



「ーー相変わらず気持ち悪い笑いやめて下さるかしら。リア。毎日毎日。旦那様もそう思うでしょう?」



 アレから五年が経ってます。時が経過するのって物凄く速いよねえ。そうそう。目の前の二人は同然公爵ーーもう違うけどーーとベッキーちゃんで、二人はこの間結婚しました。そう、漸く。大変だったからなぁ。隣の国とはいえ、言葉は違うし。でも、公爵ーー旦那様はすごいよ。国軍に入ったんだけど、あれよあれよと言う間に今では副師団長ーー細かく別れてて私にもよくわからないけど凄いらしい。私も鼻が高いわ。この間街で出来た友達に自慢しちゃったよ!



 結婚おめでとう! これで私はまた一つ命の危機を逃れたわ! だってココにきて何回かは殺されーー私がリディにしていたようないじめをされてたんだよね。



 ……。



 ……リディごめん。ほんとうにゴメンナサイ。



 ともかく、因果応報? ーーま、まぁ、終わりよければ全てよし、だよね。結婚してからはほとんど無くなったし。心なしか旦那様がやつれてイケメン度がましたきがするけどまぁ、いいか。



 旦那様は相変わらず優しい笑顔を向けてくれる。そのたびに向けられる殺意はもう慣れましたよ。ええ。



 余裕です。



「リアが笑ってくれると俺も嬉しいし。それより、リア。これを見て? ウェルの親父が退位して息子に譲るって書いてあるけどーー」



 ーー王。って事は、王になるってことなんだよね? 差し出された新聞記事。私はそれを覗き込む。確かにそう書いてあるけれど、似合わないその響に私は軽く頬をほころばせる。



 脳裏に懐かしい顔が浮かんだ。



「へぇーーすごいです。知り合いが立派になるって嬉しいものてすね。ふふ。ーーなんだか、私まで誇らしい」



 ますます会えなくなるな。ーーまぁ、夢は夢のままだから。もう奇跡なんて落ちないでしょう。



「リア。こっちにコーヒーのお代りをくれる?」



 ……。



 ふふ。



 ああ。あんなに強くフォークを握りしめて。よし、手の甲を皿でカードしながら出さないと。


 この五年の成果を見せるわ!!



 攻防をしながら何とかコーヒーを淹れきると旦那様が苦笑を浮かべてみせた。



「そう言えばーー今日も行くの? リア」



「そうですね。ーー何時までもこのままという訳にはいかないですし。お金持ちというわけでもないし」



 それを言うと微妙な顔つきになるんですが、置いておいて。この五年。私はこの家でーー昔のお屋敷ほど度大きくは無いけど一般的なものより少しだけ大きいくらいーーで住み込みとして働いてきたんだけど、やっぱり金銭的に申し訳ないし、チョクチョク違うところに出ては働いているんだ。しかも、新婚だし居るのは少し憚るよね。ーー違う所に住まいを借りればいいんだけど、この国……身元がはっきりしてるーーつまりはこの国の人間じゃ無いと貸し出してくれないのよ。



 当然だけど公爵は王家の親類であるのですぐに家も与えられたわけだけど。



 ……ち。



 クソぉ。



 そんな訳で私、最近家探しーーもとい、この国の夫探しに懸命です。仕事に生きようと思ってたんだけど。家がないと仕事も見つからないし、いつまで経っても旦那様に甘えているわけにも行かないから。あ、ちなみに『私』の離婚は成立してます。猛抗議で奪い取ったけどーーバツイチって。いいけどね。べつに。気にしないだろうし。


 ーー悲しいことに、相手なんて見つからないし。途中まではいいのよ。途中までは。



 ブツブツと心の中で念仏のように文句を唱えていると耳に入ってきた声に私は顔を上げていた。



「今日はーー行かないほうがいいと思うんだけど?」



 珍しく反対する意見が不思議で、わたしは軽く小首をかしげてみせる。



「そうてすか? でも、今日は行かないとーーそれに午後からはアルペースさんの家でお手伝いになってますし。ついでなので」



 この間知り合ったおじさまとデートが……。悪くはないけど良くもない。普通のおじさま。



 この間奥さんと死に別れたらしい。



「ついでというあたり結果は知れてますわよね。オバサン」



 ……。



 ……。



 おばさん言うな。今年で二十六だけどさ! どう見ても、行き遅れだけどーーさ。



「……殺しますよ? レベッカ様」



「ほほ。本当のことでしょう? 図星だから怒るんですわね?」



 殺す。絶対。殺す! なら、あと五年も経てばあんたも十分おばさんだからね!



 と言うか、私より年上の旦那様はおっさんだからな!!!



 ピリピリとした緊張感の中で頬を引きつらせている旦那様。彼は逃げるようにして腰を浮かべた。



「ま、まぁ。うんーー落ち着こうか? 二人共。俺そろそろ出ないといけないし」



 時計を見るとそうでもないような? けれどそう言うからにはそうなのだろうなと思う。私は軽く返事をすると部屋を出る旦那様を見送った。もう少ししたら上着を玄関まで持って送り出さなければならないだろう。



 沈黙が落ちる部屋の中。ただコツコツと規則的に時計の針だけが動く音が響く。



「ーーねぇ、リア」



「なんですか? レベッカ様」



「ーーもういいの?」



 何がとは言わなかった。ただそれだけ。こちらを見ようともしない双眸はどこか心配するように揺れている。ただ顔はむっとした顔をずっと浮かべていたけれど。



 それが可愛くっておもしろい。私はクスクスと笑ってしまった。



「良くないといった所で何も変わりませんから。ーーそれに、私から手放したの知ってるでしょう? いいんですよ。これで」



「……ばかみたい」



「いいの」



 呟く声に、私はまるで呪文言い聞かせるようにして声を落としていた。小さく。そして、静かに。



「それでいいの」



 ニコリと微笑む私をレベッカが見ることはなかった。





****


 ……。



 さて。問題です。


 どうして私にはろくな男が寄ってこないんでしょうか? ーー答えは誰も知らないよね。



 てな事で。ピンチ。今までーーこっちに来てからこんなことなかったからかなり忘れていたんだけど、私ってば何かに巻き込まれやすい体質? だったわ。そういえば、リディに手紙で何度も念を押されてたことを今更思い出しちゃった。



 だいたいーー思わないよね。あまり知らない人と初デートーーしかも朝ーーで変なことになるなんて。



 思わないよね!?


 相手は大人だし、普通の良識をもった人だと思ってたんだけど!! 人は見かけによらないよねぇ。


 ……。



 不覚!!!



 そして、ピンチ!!!!!



 馬鹿さ加減に涙がでる。



 なんだか知らないけど、見せたいものがあるとかで連れてこられた先。



 そこはーー薄暗い使われて無さそうな酒場跡。机も椅子もそのままだけど、動くたびに足元が軋んだ。



 ーーで、その机に押し倒されてる私がいます。当然手を絡め取られて。



 ……えっと。


 ……。



 にぎゃあ!!!! おっさん! ヤメロよ!! 目を細めて嬉しそうに笑うな!



「くだらない事はやめて下さいますか? 訴えますよ?」



 のしかかる巨体。ほんと、マジやめて? 重いし。大体、いい大人のすることじゃないからな?



「いいじゃん。どうせ結婚するんだろ? なら、ここでも。今からでも。君も素直に付いてきたじゃないか?」



 うぐ。それは、あんたが騙したからでしょうが!! そう言いたかったけれど、するりと解かれた胸元のリボンに私は心の中で軽い悲鳴をあげていた。



 さっ、と頭から血が引いていくのを感じている。



 ーー!!!!



 いや、あの、落ち着こうか? 落ち着いて話し合えばわかる。わかるよね?




 いや、いやいやいやーー落ち着くのは私だよ!!!!




 本能的な恐怖に体の震えは止まらない。瞬き一つできなくなった視界いっぱいには、たるんだ皮膚の中に埋没した黒い両眼だった。それは、異様な輝きを放っている。



 ーーつ!!



「可愛いねーーさすが」



 舌なめずりにぞわりと悪寒が走り、喉を私は軽く鳴らした。どうすればいいのかもはや何も浮かばない。カタカタと歯が鳴るのを感じた。



 だけれどーー。



「だろう? 可愛いんだよ? こいつはーーだからさ」


 え?



「なっ!?」



 ふと、低い男の声に緩やかで透き通った声が重なった。刹那ーーひゅっと言う音とともに男の身体が宙に浮かんで私の視界から消え去った。同時ーー鈍い音が響いて、一気に光がその酒場に溢れた。



 まるで、希望のように。



「だからさ、おっさんには渡すかよ」



 埃立つ世界。だけれど、その中で鮮やかに朝日に浴びて輝くのは銀の髪。見紛う事ない、ダークグレーの双眸が私に笑いかけていた。

リアが誰とも付き合えてないのはことごとく公爵が邪魔していたからです。当然王子も共謀。

ついでに結婚はーーベッキーが押しまくった結果の根負け。

というより既成じ……怖い娘。

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