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秘密の会話

 温かいなーー。



 目を開くと私はベッドの上に横たわっていた。記憶がないのはどうやら寝てしまったようだ。ゆらゆらと揺れるロウソクの炎に照らされた部屋は淡く温かな光に照らされている。


 って、ここは?



 よく考えれば見覚えのない部屋で、公爵邸で私にあしらわれた部屋とは大きさそのものが違う。ーー細部は暗くてよく見てないんだけど。近くにある本棚に目を向けるとぎっしりと本が詰まり頭が更にグラグラしそうだった。



 身を起こすと広く取ってある窓に目を移す。



 夜。一体どのぐらい眠っていたのかーー。空を見上げると以前より膨らみを増した月が柔らかな光をたたえて浮き上がっていた。



「起きましたか?」



 軋むような音。方向を見るとそこには一人の美少女だった。青白い光に照らされる陶器のような肌。



 まるで人形の様だと私は改めて思う。彼女ーーベッキーちゃんは持っていたティーセットを近くの台に置くと、ゆったりとした仕草でベッドに腰を掛けた。



 ええと。ーーなんだか、不快そうなんですが。ピリッとした空気に私は思わず苦笑いを浮かべていた。



「ゴメンーー迷惑をかけたみたいで。夕食は?」



 少しお腹空いたかも。考えながら私は少女に目を向けた。



「……食べましたわ。サイ様が作ってくれてーー」



 そこでなんで不機嫌になるかな? 良いじゃない。手料理。美味しそうだよ。お腹空いたよ。



「そ、そう。よかったね」



 うぐ。



 ……多分まだ根に持ってる。絶対ーーお姫様抱っこ。



 何もその手に持っていないのを確認すると私は息を吐きだした。取り敢えず刺さる心配はなくなったーー。首は締められるかもしれないけど。



「あのっ!」



 意を決した様にして響く声に私は思わず肩を揺らしていた。挑むような視線。だけれど何処か不安そうに揺れている。



 何と言うと少しだけ押し黙った後、ようやく口を開いた。



「リア様はーーサイ様をどうお思いですか?」



「……」



 どう? どうって何だろう。よく分からなくて目をぱちぱちさせると苛つきが我慢できなかったらしい。ドンっと軽くベットを拳で殴りつけた。



 ……こ、怖い。



「じゃぁ。ウェル様はどうなんですか?」



 一瞬反応してしまう自分が嫌だ。軽く瞠目してしまう。それを隠すようにして私は少し困った顔を浮かべてみせた。



 実際困ってるし。



 その質問にどう答えればいいんだろう?



「ーーどうって」



 ずいっと身体を近づける。ーーよく見ると胸が大き……じゃなくて。近くで睨むのやめて。



 迫力あるんだよね。綺麗で見とれそうになるけれど。



「好きなんですか? と聞いてます」



 直球。



 私は思わす目を泳がせていた。彼女にしてみれば私が誰かと結ばれれば安心なんだろうな。



 私とサイ様はなにもないんだけど。



「……えっと」



「好きなんですよね? そうでしょう? そうに決まってます!」



「いや、あの」



 ぐっと肩を持たれてます。力いっぱい。それはすでに脅しか何かのように見えるんですが気のせいですか?



 目が怖い。違うといえば食い殺されるような気がして、私は顔を引き攣らせたまま『まぁ』とだけ苦々しく答えてみた。



 彼女は私の返答に満足したのかニコリと笑って身体を離す。でしょうね。公爵との間に何も無ければいいんだから。



「この話題はーー」



「応援します。是非とも!」



 ヤメロ。目をキラキラさせなくていいから。私はため息一つ。



「お断りしますーー心配しなくてもベッキーちゃんの邪魔はしないわよ」



「いるだけで迷惑です」



 ……。



 ……。




 いい笑顔で、直球かぁ。えへっ。泣くぞ?



「えっと、ね?」



 ベッキーちゃんは笑顔のまま立ち上がると、ティーセットの前に立つ。意外にも手慣れた手付きで紅茶を淹れると私に差し出した。



 毒はーー入ってないよね? 水面をマジマジ見つめてしまう。見てもよくわからない。当然だけど。



「リア様はーー」



「?」



 ふと掛けられた静かな声。私は隣に立つ美少女を見上げた。



「変です」



 ……。



 ……馬鹿に続けてよく言われます。なにか? わざわざ真面目に聞いた私が馬鹿みたいで、口元に思わず紅茶を流し込んでいた。



 あら、美味しい。お菓子があったら最高だわコレ。



「何故です? 好きな人が想いを返してくれるのに。それってとっても羨ましい事なのに」



 ーー。羨ましい? 大体幸せカップルに言われたくなーーと言いかけて私は口をつぐんだ。



 だって今にも泣きそうな顔をしていたから。苦しい。そう言っていたから。上手く行ってないのかもしれない。



 ーー大丈夫。そう私が言っても通じ無いだろうな。これは公爵が言わないと。そんなことを考えながら話を続ける事にした。というよりこの話題から離れてくれない気がしたんだ。



「……ベッキーちゃん。あの人はーー本気じゃなくて私で遊んでいるだけなんだよ? だから」



 う、睨まれてる。憎しみ混じりの目で。そこまで憎むことなくても。怖い。と言うよりは悲しいが先行した。



「だから、何だって言うんですか? ーー本気にさせれば良いだけじゃないですか」


 むっとしなくても。



 大体そんな技術なんてないよね? そんな綺麗事実践なんて出来ないし。世の中そんなに上手く行かないし。



 私は軽く笑ってみせた。それは少し自嘲気味だったかもしれない。



「無理。私はベッキーちゃん見たく綺麗ではないもん」



「……そんな事、関係ない、です。やっても無いのにどうして無理とか言うんですか?」



 だって負けは見えてるしーー幸せにはなれないから。行動してみた結果、愛人の一人として囲われるのは目に見えていて、それが幸せだと思えるほど私は良くてきていないから。



 やっぱりーー見てほしいと、おもう、から……って!?



「あの、何を?」



 突然ベッキーちゃんは私の枕を取り上げて、窓から投げ捨てた。



 はい。次。布団が宙を舞う。うわぁ、ムササビみたいーー。素敵。



 ーーってどういう事!? あ。れぇ? 可笑しいなぁ。ないと思っていたはずの、銀色に光る物体が懐から出てきたんですけど。



 あ、少し小ぶり。果物ナイフ程度? じゃあ、私は殺せないね。安心。



 じゃなくてね。それを首筋に当てるのやめよう? 流石に血管はダメ。誰だよ? 令嬢にこんなこと教えたの。



 切っ先から微かな震えに隙を感じた。それが恐怖からなのか、興奮からなのか分からないけれど、恐怖で有ってほしいと願いつつ私は口を開く。



「それ、こっちに渡して? 危ないし、似合わないから?」



「ここから出てください」



 ちらりと視線をずらして窓に向けられるそれ。私はゆっくりと彼女の視線を追ったあと考える。



 ……まさか、この窓からですか?



「はっ? 夜だし薄着だし。二階だし。殺す気?」



 多分客間。知ってる限りだと二階にある。景色もいいし。



「死にはしませんーーリア様は行くところが有るでしょう? 座っているだけで欲しいものが手に入ると?」



「ええと? 何度も言うけど夜だしーー病み上がりよ? 私は」



 いや、聞いてないね。自分の世界に入ってる。



 小さく刃がめり込んで鎖骨まで生温かいものが流れるのが分かった。このまま行くと本気で殺それるかもしれない。そう考えながら私はため息一つ。立ち上がると窓の前に立つ。



「ほんと。サイ様には心配しないように言っておいてね?」



 生きてたら。



 私は少しだけ泣きたい気分で地面を見下ろした。案外高くて嫌だ。怖いし。私は息を飲み込んでいた。恐怖を飲むこむように。



 でも、布団の上に着地すればーーな、訳ないか。



「間違いなく」



 その笑顔を確認すると思い切って飛び降りていた。私を追い出した後、二人が上手く行くようにーー切に願いながら。

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