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諦めない心

もう少しお付き合いください(^_^;)


 爽やかな朝。空を見上げると雲なんて一つもなく、何処までも蒼穹広がってとても心地よいーーと思うんだ。


 そんな心地よさも届かないほど私の心は曇り模様……。


 ふと昨日のことが蘇るたびに心臓が動悸を起こして頬が高揚するのを感じた。


 締め付けられるような胸に私は顔をしかめると心の中で『どうかしてる』と何度か呟く。


 嘘くさい軽い言葉に、嘘くさい視線。何もかも嘘だと感じていながらその場の雰囲気に飲まれてしまいそうになったよ……。何とか、なんとか頭突きだけ反撃にできたけどーー。良かった。それですぐ帰ってくれて。


 私は心に溜まった何かを吐き出すようにして息をついた。それで気分が晴れることなんてなかったけれど、一瞬。空気が入れ替わる一瞬だけは忘れているような気がして何度も繰り返してしまう。


 ともかくまた来るとか来ないとか。もう来ないで欲しいんだけど……。


 あと2日。早くここから去りたい。そう、願う。


 泣きそうなほどに。


「それ、焦げてーー」


 突然聞こえた声に私は飛び上がって弾けるように振り向いていた。木製の料理べらを武器のように持つと声の主へ突き付けた。


「あ、サイ様」


「玉子ーー焦げて」


 公爵は軽く笑うと私の隣に立つと手慣れた手つきでフライパンをコンロから離して、火元を専用の蓋で覆った。


 ーー貴族にしては自分でできるなんて珍しいーーじゃ、なくて。


 朝ゴハン!! 私のスクランブルエッグ!!! 真っ黒じゃないか! 


「……うぅ。スイマセン。作り直しますーーって、なんでお皿に?」


 焦げきった炭を皿に乗せながら不思議そうに公爵は私を見た。


「どうして? ってせっかくリアが作ってくれたし。食べないと」


「え? でもーー」


 さも当然に言ってますが、黒いよ? まずいよ? 焦げ目が好きってレベルじゃないし。人様が食べるにはーー。


 ……。


 ーーもしかして食べ物は無駄にしないタイプなのかなぁ? 飽食がデフォルトの貴族様にしてはめずらしいよね。


 私はキッチンで何かしら確認している公爵を軽く目で追ったあと、ようやく手元から料理べらが消え、公爵の元に移動していることに気づいた。


 あれ?


「リアのぶんは俺が作るから、まってて。すぐ作るからさ。そう言っても美味けないけど」


 深皿を用意してコツリ軽い音。卵を割りながらーー片手でーー手際よくかき回している。


 ーー!?


「いや、これは私の仕事ですから!!」


 やると言った以上やらせて頂きます。プロへの道。目指せ使用人マスター! 幸せな未来のために!!!


 慌てて料理道具を奪おうとしたが何分身長差が悔しい。ピコピコ飛び跳ねる形になってしまう。


 それを止めたのは額に当てられた公爵の大きな手。彼は少し困った顔で『心配しなくても』と呟く。


 心配なんてして無いんですが? むしろイメージ的にすごい料理が出ると思ってますが……。そんなことではなく問題は私の仕事をーー。


「それに、疲れているよね? ウェル夜に来たんでしょ?」


 言葉にドクンと心臓が跳ねた。言葉に反応するように固まる身体。心の隅に追いやっていた記憶と心。囁かれた言葉は嘘でも甘く蜜を持ち今でも私の心をグラグラと揺らした。


「……見て?」


「まさかの頭突き、ってーー小気味いいね。あのまま流されるかと思ってたんだけど」


 ……いや、覗いて? あのシーンを? 


 どんな、趣味だ!?


 顔を赤く染めたまま固まる私に目も配ることなどなかった。公爵は笑いながら卵をフライパンへ投入。ジュッと小さな音がして軽く白い煙が上がる。


「いや、あのーー」


「普通は流されるんだよなぁ。どんな女でもね。あの顔だしーー地位もあるし。それにーー」


 公爵は言葉を切って私を見た。真っ直ぐな視線。緑の目にゆらりと何か浮かんでいるような気がした。


 それが、どういう感情なのかは分からないけれど。


「リアは昔からーーあいつが好きだし」


 ……。


 ……。


 何故知っている?


 あの舞踏会で出会った時から、そんなにバレバレな態度を? いやいやいや。隠してたというより私が認めてなかったし、いや、今でも認めたくないし!


 認めないし!!


 嫌だぁ!!


 心の中で混乱中。泣きたいような怒りたいような、そんな気分にかられて私は目を逸らしていた。


 ため息は何方が付いたものなのか。それすらわからない中でコトンと目の前。テーブルに美味しそうなスクランブルエッグが置かれていた。


 座って。そう言うので促されるまま椅子に座るとハーブティを煎れてくれる。本当に貴族らしくない人だと思う。



 ーーいい人だし。この人を好きになればよかったなぁ。



 切り分けておいたパン。スクランブルエッグ。ステックサラダがあってーーこれは私がしたものーー立派な朝食だ。もちろん王宮にいた時よりもすごく質素だったけれど。



「……このまま俺と来てもいいの? ここには二度と戻れないよ?」



「? サイ様が一緒にと望んだんでは? それに本当に嫌でしたらとっくに逃げてますよ?」



 何が何でもね。別に強固な警備も怖い妹もいないし、公爵に借金もないしね。ただ問題は無一文で仕事も住むところもないって事かな?



 ママのところに帰ってもいいけどーーあの人殺さない自信がないわ……。



 言うと彼はふわりと笑って炭を口に含む。とてもキラキラしてて眩しいんですが。



 私は慌てて目をパンを取ろうとしたんだけどーー無いよ?



 あったよね? 私のパン。いや、公爵が取ったわけでは無いしーーって『うわぁ』って顔で私の後ろに視線が行っているんですが。



 何事? 嫌な予感しかしないんですが。



 そろりと目を向けるとそこには見覚えのある可憐な少女がたっていた。



 ……うわぁ。



 怖いんですが。放つ雰囲気が。睨まなくても何も無かったからね?



 ともかく、その荷物は何でしょうか。トランク一つ。従者もつけないでーー家出かなぁ。



「おはようございますーーベル鳴らしても誰も出ませんでしたので入ってしまいましたわ」



「おはよう。レベッカ。そんなことをする娘に育てた覚えは有りませんが?」



 にこり。微笑みの応酬。絵には綺麗に見えても挟まれると逃げたい気分に駆られる。



 今すぐに!



「育てられた覚えはありませんわ。ともかく、私も付いてまいりますので」



「婚約破棄は成された筈ですのでそんな必要はないですよ? レベッカ。それにリアだけで十分ですから」



 いや、そんな言い方しなくてもいいのにーー。



 グシャリ。ベッキーちゃんが手に持っていたパンが握りつぶされた、力の限り私は睨まれているんですが……。えっと、あのね? 私は恐る恐る少女を見上げた。



「さ、サイ様は私に負い目を感じているのよ。ほら、レンズの事でーー。ほら、私は一応被害者だし。被害者代表で保証をしたいんだよ?」



「ーー何ですか? それ。 問題はそこじゃないんです! サイ様! この人やっぱり馬鹿なんですか!?」



 ……。どういうことよ? 何でそんな結論に至ったんだよ? そして今迄は疑念を浮かべていたってことなんですね? 公爵も『かも』とかいうな!



 反論すらできない自分が悔しくて、思わずスクランブルエッグにフォークを立ててかき回してしまう。



「ともかく! リア様は王子に回収していただきますから! 私が行くんです!」



 子どもと大人。地団駄を踏みそうなほど興奮しているベッキーちゃんに大して平然と公爵は見つめていた。



「何です? その決定事項。それにお父上は許さないでしょう? 犯罪者と共に行くことなど」



「だから、家を切ってきましたわ」



 ……。



 ……。



 恋する乙女ってすごいね。



 勝ち誇った顔を浮かべるベッキーちゃん。そこには後悔もなく反省もない。ただ未来を夢見る少女の顔が広がっていた。



 それを愚行だと思う前に、羨ましい。そう思ってしまったのはーーどうしてだろうか。




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