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隠しきれないもの

マテリア一人相撲中(^_^;)


 シャンデリアがきらきら揺れる。金と銀。そして白い大理石で埋め尽くされた大きな部屋。一体何人いるのかは知らないが、紳士淑女の皆様で埋め尽くされている。



 一体何年ぶりだろう? 相変わらず目眩がしそう。昔はよくママと行ったな〜。




 ……リディを閉じ込めて……。




 ……う。わぁああああ!




 過去の私に現状を見せてやりたいわ!!




 とにかく目立たないように、壁を確保。顔も見えないように深くヴェールを被ってるし紹介されてもこれで問題ないだろう。うん。何があってもヴェールは確保だ。




 あ。むこうから女連れでにこやかに歩いて来たのはアホ王子。こっち来んな。相変わらずキラキラの笑顔しやがって。派手だな。相変わらず。ダークグレーの双眸が私を捉えて微笑む。




 げっ!




 そんなことより、こっち来んなって! 注目されてしまうじゃないか!



 って、無理か。私は正妃(偽)だったーー!! 




 私はげんなりしてアホ王子を見上げる。相変わらず手、足長い。スラリと引き締まった肢体と整った顔。どんな女でも魅了されるよなぁこれ。




 中身を知ってる私には効かないけどね!




 もはや中身=敵。だから。




「久しぶりだな。別荘以来か? 相変わらずお前はーー」




 考えて首を傾げている。言うことないなら口閉じとけよ? 殺すぞこら?




 ヴェールのレース越しに睨み合っていると、ふと隣にいた女が口を開いた。赤く艶やかな唇。胸の開いたドレスからは大きな胸が零れ落ちそうだ。思わず私の胸に目が行く。



 結論。む、胸なんてなくたって生きていけます。



 勝ち誇った笑顔を浮かべる女。なんかムカつく。言っちゃ悪いけどーー美人なだけが取り柄で、バカそう。うん、まぁ人の事なんて言えないけどね。




 うーん。愛人何号だろ?




「あら? 正妃様。御機嫌よう。こんなめでたい席なのに何処かでお葬式でもあったんですの? 前は社交界の華とまで謳われてましたのに。お顔を拝見できないとか、勿体無いわ」




 何故に何気に喧嘩売られてる? 王子なんてくれてあげるのに。正妃の座も何なら熨斗をつけて上げますよ。切実に。




 だから私にその自由頂戴ね?



 なーんて言えるはずもなく。いら立ちを言葉に込める。笑顔で。見えていないだろうけどね。




「ほほほ。皆様が陰りを帯びてしまうでしょ? 私は目立たないようにしてるだけですわ」




「ほほほ。すごい自信ですわね!」




 ビリビリと空気が走る。呆れたように王子口を開いた。



「ーーカル。俺、リディに話があるし少し回らないといけないから、少し待っていてくれるか?」




 え。



 嫌。



 引き取ってくれよ。えっと本名知らないけど、カルちゃん? 不服そうに睨むなって。私が悪いわけではないんだからね? 呪いかけるのやめーー行くなってーー引き取って、この人!




 願いも虚しく私とアホ王子は取り残される。




「ヴェールなんてしなくていいと思うけど?」




 ナゼ残念そうなんだよ。命づーーヴェールに触んな。ペチンと弾くと困ったように笑った。




「死にたくありませんので私」




「そうか? 俺はリディとまでは行かなくてもなかなか美人だと思うけど」




 そうだね!女なら何でも良さそうだなお前は。空気を吸うように誰にでもそんな言葉を吐いてそう。




 私は多少苛つきながらニコリと笑ってみせた。見えてないだろうけれど。





「そういう事では無いでしょう? 私、気分が悪いのでもう引っ込みたいんですけど?」




「それはダメだな。一応、正妃なんだから。大体客人に挨拶済ませてねぇし。父上と母上にも挨拶しないとだしな。さ、ヴェールとらないと、本気で処刑台行きだ。ええとーー」



 名前なんだっけ。と付け加えたアホ王子。私はピンヒールで思いっきり足を踏みつけてやった。まァ、リディと言わないだけマシなのかもしれないけどね。



 小さな悲鳴を上げて痛がっております。ザマァ。




「そんなことしたら私死刑台送りになると思いますが」




 お、たち直った。早いというか、痩せ我慢中?




「大丈夫。正妃リディになんて父上も母上も興味なんてねぇしな。てか、どうでも良さそうだし。ああこれから合う公爵に至っては気付いても言わないと思う。俺の手癖知ってるし」




 ははは。じゃない。清々しく笑うな。まるでいい話をしているみたいじゃないか!手癖が悪いのは自慢でも何でもないからね?そのせいでリディが逃げたんだからな。そのせいでーー以下略。反省しろよぉ。少しはさ。




 そして、国王。興味ないってなんでよ。もう少し嫁に興味持とうよ。




 仮にも息子の嫁だぞ?



 そう言えばリディの結婚式も早々に引き上げていった思い出があるけど。うーん。まぁ、つっこまれないのはいいとして複雑ーー。




 って命綱持ってくなあ!! 




 アホ王子。うわぁん。キラキラ王子効果でこっちに注目が集まってるし!!




 国王夫妻と公爵はいいとして、他、バレたら死刑なんだぞ! この姿はどう見ても『社交界の華』じゃないのモロバレだろうが!




 明日にはこの世とおさらばしてしまうじゃないか! 何のためにここに来てから誰にも会わず引きこもり生活してたと……。





 じゃなくて、死んだら呪うよ?呪って出てやるからな?





「大丈夫だって、正妃の顔なんて覚えてねぇって」





 アホかぁ!! んなわけあるかぁ!!





 社交界の華だぞ! あんな美人どうやったら忘れるんだよ! 現にカルちゃんだって覚えてたじゃないかぁああ!




 半狂乱で奪おうとしたが、さっと奴は懐にしまう。




 懐ーー無理だ! 




 私の絶望とは裏腹にアホ王子はニコリと微笑んで私を覗き込む。キラキラしてもダメ。




 私は絶望の縁に立ってるんで。





「かわいいじゃん。ソバカスが消えてるし」




 素敵化粧技術です。なにか?



 目元もガリガリいろいろ書いてますがなにか? 




 大きくするために努力したんだ! ーー私じゃなくてリディがね。なぜか嬉々として私の顔をいじりだしたのは正直怖かったよ。心臓が止まるかと思った………。




 ある意味ホラー。




 まあ、可愛いなんて社交辞令なので取り敢えず流しておこう。楽しくもないし。




 取り敢えず。ノーコメントでいくと不服そうに奴は顔を顰めた。ん?喜ぶと思ったのか?



 私はそんなに頭めでたくないし、残念。褒めるのならカルちゃん褒めてね。




 第一余裕ないのよ。何一つ。




 明日はどっちだ状態だし。逃げようにも逃げれないし。なら、行くしかないじゃん。




 ちくしょう。




「そうですの? では参りましょう?」




 ほとんどやけくそ気味で言い、促したが王子は踊る人々に目を向ける。嫌な予感に私はその場を立ち去ろうとしたけれどガッチリと王子に二の腕を掴まれてしまう。




 うわぁ。いい笑顔に嫌な予感しかしないね。心にダメージが加算される。




「その前に一曲踊ろうぜ? お姫様」




 嫌。




 だいたい、踊れないし。いや、嗜みとしては踊れるんだけど本番は踊ったことないんだよね。壁の華ってやつ? 誘われないことをママは嘆いてたけど、それでよかったんだ。壁際は良くみえる。



 王子がーー。



 ……



 ーーうわぁん。なんでこんな奴見てたんだよ。私。人生無駄にした気すらするよ。



 悲しくなってきた。恋愛すらした事ないのにーー。




 断るようにして一瞥してみたが無視して部屋のほとんど中心に連れて行く。なぜ中心? 端っこではダメなんですか? 端っこ!!




 願い虚しく離れる壁。反対にキラキラ笑顔にみんなが注目。ああ。国王夫妻とまでこっちを見てる。




 はい。私死んだ。死亡。注目しないで! はい、死刑確定!




 波が引くように避ける人たち。老いも若きも、なんでか嬉しそうに。あるいは羨ましそうに。




 そんなところで胸を張って歩けるわけではないし、何だか処刑台に行くような気分だった。




 死んだ魚の目で、あたりを見回す。




 あの〜避けなくてもいいからみんなで楽しく踊ろうよ?踊ろう?




 あ、あそこにいるのは! カルちゃん代わろ? 嫉妬に狂いそうな目で睨んでないでさ。



 ここ、ここ、絶賛王子の胸開いてますよ!




 必死に考えているとゆったりと音楽が流れ出す。私たちは向かい合って立つとアホ王子は滑るようにして細くない腰に手を回した。




 さ~す~がー。なれてらっしゃる手つき。密着する横顔はやはり綺麗だ。けど、見てるだけのほうが良いよネェ。絶対。




 ゆったりとしたテンポ私たちはそれに合わせて動き出す。やはり緊張しててカクカクだったけれど王子がそれをカバーしてくれていた。恥ずかしくないように。それでも必死だったけれど。




 ぼんやりと王子の顔を見てるとあの頃を思い出すな。黒歴史。でもあの頃は綺麗に見えたんだ。ここにいるのはヤッパリ私じゃなくてさ。




 ーー似合わないね。




 そう思うのは今も昔も同じだな。リディならあんなに似合ったのにさ。



 ……。



 ふと、奴と目がカチあって思わず私はそれを逃げるようにして反らしていた。

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