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短いです(汗)

 静まり返った広い部屋。窓から入ってける風はレースの白いカーテンを巻き上げた後私の頬をかすめて消えていく。


 庭に落ちる木の影は短くなり始め、昼が近づいて来ていることがわかった。



 そんなのだからお腹も空く。目の前に置かれたお茶菓子ーーザッハトルテーーを凝視したあと、私は引きつり気味の表情で目の前に座っている青年に目を向けた。



 どこか不機嫌そうな横顔に掛かる銀の髪が風にさらさらと揺れる。その目は何を見ているわけでもなく部屋の前にある小さな庭に向けられていた。



 一体、何をしに来たんだろう? この人。会議をしてるんじゃなかったのかな? 休憩にしては会議場から遠いし、ここに来る意味がわからない。



 ワザワザ公爵のことで報告に来てくれるほど気が利いてるとは思えないしーー。



 考えて私は顔を顰めた。



 まさかとは思うけどーー説教、再び? 私起きてから今の今まで怒られてたんだから勘弁して欲しいんですが……。



 どうせ会議の途中で思い出して来てしまった感だろうなぁ。思い出さなくていいのに。



 ため息一つ。



 反省はしている。反省はしているんだ。何も考えないで乗り込んでしまったこと。ユーリスは命からがら逃げ出して病院で治療中だし、帰ってきた時に見たリディの顔は未だに忘れられない。心配と嬉しさ感情がぐちゃぐちゃになったような顔で出迎えてくれた。本当に申し訳なくて、甘んじて説教を受けてたんだけど。



 ……。



 この人も心配してくれたのかな? あの場所ーーここからそんなに遠くない山の中腹だったーーに来てくれたんだけど一切言葉なんて交わさなかった。



 だから、別にーー心配なんてしていないな、と思ってたんだけど。



 少しだけ、少しだけ声一つに期待をしてしまった自分。それがとても情けなかったのを思い出し、誰も知ることなんてない『恥』に私は軽く眉を寄せた。



 ともかく、居心地悪い。ケーキ食べたいーーだって、この空気の中一人だけパクパク食べるのっておかしいじやないか!!



 ーー帰って欲しい。



 ええ、心底ね!! お腹空いたし。


 説教反対!



 現状の希望を心の中で並べなから私は彼に目を向ける。ーー同時に王子もこちらを向いていていたようで私の心臓は一度だけ大きく跳ねた。



「あのーーなんなの?」



「お前さーーこここら出ていきたいの?」



「……?」



 説教では無いんですか?



 予想を無視しての唐突な質問。何を言われているか理解が出来ずに私は小首を傾げた。その様子を見ていた王子は輪をかけたようにして不機嫌そうに顔を顰めて、ため息一つ吐き出した。



 どこか憂鬱そうに。



「お前さ、俺の事はどうとも思ってねえだろ? 金づるかーー国家権力程度ーーか」



 え? うん。はい。そうですが何か? とは、とてもではないが言えない。


 少しだけニュアンスが違うなと考えつつーーああ。



 仕事場の雇い主みたいな? と思いついて、苦々しく笑うと私は肩をすくめて見せる。



「……だって、そう言う『仕事』じゃない? ーーリディの代わりなんだし。所詮ねーーウェルだって私の事は『皆』と対しては変わらないでしょう? 大勢の一人。同じだわ」



 少し考えた後でゆっくりと呟くように言葉を低く王子は紡いだ。ニコリと妖艶な微笑み付きで。



 ……ええと。



「……俺がお前を選ぶと言っても?」



 するすると心の中に入ってくる言葉。それがあまりにも水のようだったので私にはそれを理解するまで少し時間を要した。



 目には嘘くさい笑顔が映る。



 ……罠だ。



 何かの罠だ。



 ……ありえない。



 ありえないから! ほ、絆されない! 絆されたら負け。しかも人生から幸せが裸足で逃げてく!



 そんなのは嫌だぁ!!!



 頑張れ。頑張れ! こいつはいろんな女性にこう言ってるはずなんだ! 頑張れ!!



 心の中で励まし私は浮き立つ心をなんとか抑えながら、平静を装って見せた。付け加えて余裕そうに鼻を鳴らしてみる。



 内心は火の車なんだけどね。



「ーーあり得ないでしょう?」



「ひでぇなぁ。これでもモテるんだけど」



 でしょうね! 



 その顔立ちとこの地位でモテない人間がいたらそれは奇跡で是非ともお会いしたいんですが?



 とにかく、その余裕がムカつく。だから『爆ぜろ』や『もげろ』なんて陰口が叩かれるんだ! (主にユーリス談)



 私は軽く口元を尖らせてみせた。



「ーーそれに、ここから出たいかと訊かれれば、答えなんて決まってるじゃんーー出たいけど?」



 理想は何処かのお金持ちに雇われること。その家で天寿を全うして出来れば使用人のとして葬儀でも出してもらえれば……。



 でも、無理なんだよねぇ。分かってる。だってリディの事だって心配ーー本人は幸せそうだけどーーだし、第一、莫大な借金が返せない。



 ママのバカぁ!!



「そっか。じゃあ。仕方ねぇなーー」



 言うと軽く銀の髪をかきあげた。少しだけ笑う彼の顔が少しだけ悲しく見えるのは気のせいだろうか?



 少しの沈黙。その後からハァッと薄い口元から息が溢れる。



「サイが国外に追放されることはあの脳天気男から聞いたか?」



 突然どうしてそんな話になるんだろうか? 脳天気男ーータレンを思い浮かべながら首を傾げてみせた。



「……ええ。でも会議は終わってない、そう聞いたけど?」



「終わってないな。でも、大方決まりだ」



「そうーー」



 残念だけれど、死ぬわけじゃない。ホッとしたような、寂しいような。そんな感情が私の心に落ちる。



「で、それをサイに伝えたところ、笑ってたな」



 王子は軽く喉を鳴らしてみせた。



「ーーそう」



 それがどんな思いなのか私には分からない。悲しい気がするし、苦しい気がする。昨日の今日ーーまだ、現実とは感じられないかもしれない。



 私は視線を落とす。



「ただし、あいつ条件を出しやがったーー追放だけでもいい処分なのに……何でかーー」



 ち。言いたくなさそうに舌打ち一つ。見上げると美麗な顔を心底嫌そうに顔を歪めている。



 一体何の条件を出したんだろうか?



 目が合うと何処かやけっぱちの笑顔。なんか、怖いんですけど?



 嫌な予感がよぎる。



「……ええと? あの」



「リアーーお前をくれてやる事が条件だそうだ」



 ーー?



 何を言っているんだろうか? この人。なんだか最近理解できないことばかりで、何だろうなーー逃げたい。



 と言うより。



 ポツリと涙が落ちた。



 悲しい。苦しい。そう考える前に涙が落ちていたーー。



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