会議の裏側
今回は少しだけ説明回? とにかく軽めで。
しばらく王子様が出ていませんが次回から出没予定です。
私は正座ーーそもそもどこの風習?ーーをさせられていた。目の前には仁王立ちでものすごい形相の美女二人。目を釣り上げてるのに美人は美人。うらやまーー。
それぞれ違った理由で怒られている私は一体何を反省すればいいのかそろそろ分からなくなってくる。
助けを求めるようにして誰か探したけれど見えないお友達すら見えない。
仕方ないので頭の中で羊さんを数えてみるーーがそんなことで現実逃避できるはずも無く。
「聞いてます? お姉様! 大体考えがなさすぎなんです! 危機意識も足らないわ!」
「そうですわ! どうして首謀者は死んだのにサイ様が捕まりますの!? おまけに、お父様は私の婚約を解消するしーー」
な、なにが『そう』なんだろう? 後半なんかは愚痴だよね? でも何か言ったらどう考えても倍になって返ってくるので、私は『すみません』とだけ言って口を噤む。
そう。あの後、公爵は治安隊ーー同僚の皆さんに連れて行かれた。手錠もつけられなかったのは人望なんだろうなーーと思う。
ともかく、昨日の今日。ただでさえ『公爵』の事で右往左往していた城内部が『レンズが死んだ事』で更に慌ただしくなってる。
簡単に言うと犯人死んじゃったし、いいんじゃないの? 『派』と法と秩序は守らなければいけない!『派』に分かれているらしい。まぁ、王位継承権を持ってるしそう簡単には割り切れないものがあるんだと思う。
会議も昨日の夜から続いているらしく、あれから王子の姿は見ていない。公爵の為に骨を折ってくれといるのだろうか? そんな姿はとても想像できなかったけれど。
にしてもーー。私には何も思う暇などないのかな?
ため息一つ。包帯でぐるぐるに巻かれた手首をぼんやりと眺めていた。痛みがまだ鈍く残っている。
脳裏に浮かぶのは運ばれていく色を無くしてしまった遺体ーー。
やっぱり死んだら悲しいーーそうと思っていたけど。どうやら私は冷たい人間みたい。涙一つでない。
だって少しだって悲しくないんだ。小気味いいとは思わないけれど、レンズの死に関しては少なくとも何も感じなかった。記憶の中にいる少年と、どうしても結びつかなかったからかなのかもしれないけれど。
記憶の中にいる少年は未だに楽しそうに笑ってるし。過去は過去なんだな。ふと、思ったりする。
でもーー公爵は大丈夫かな? 平然とした顔をしていたけれどとても苦しそうに見えた。
とーーコツンと音がして頭を何かが弾いた。
視界に入るのはーームチ?
え? ムチ……。
鞭!?
乗馬用の短い鞭で振り上げてはいないけれども。どこから持ってきたのそれ!? ニタリ。笑顔を浮かべない! それ、マジで痛いやつだからーー!
私の可愛かった妹はどこに行くんだよ! さあっと頭から血が引いていくのを感じながら私は妹を見上げていた。
流石に隣の可憐な少女は引いているみたいだけど、リディは気にはしないですね。そうですよね。
「お姉様!」
「はひぃ!」
ぶ、豚と呼んでくださいと言えばいいのかな? いや、呼ばれたら嫌だーー! 帰ってこれなくなりそう!!!
反射的に私は姿勢を正し妹を見上げた。なんだか輝いているようなーー?
気のせいでしょうか?
「聞いてませんでしたよね?」
「いや、聞いてた。うん、全然、凄く聞いてたよ?」
パシィ!!
心地よい音だね。あはっ。床に後がーー。
……。
……やめてください。怖い笑顔を浮かべてそれを振り上げるのは。うわぁ。目がマジだ。
「お姉様」
ひい!!
「ゴメンナサイぃぃ!!」
「ーーそれぐらいになさったらいかがです? その方も十分反省はしていますし」
割り込む声に私は顔をあげていた。ーーえっと。何処かで見たことあるような。
地味仲間の青年。どこで見たっけ? と考えてから私は声を上げていた。
「あーー!!! この間のーー人殺し」
そうそう。あの時のーー私を突き落とした人だ。何でここに居るんだよ? それより前に、いつからいたの?
扉の開く音すら聞こえなかったんですが!
指を刺した先の青年は、少しだけむっとした表情を浮かべる。
「人聞きが悪いこと言わないでください。……落ちたのはそっちですから」
あんたが変な行動を起こさなければ事件はなかった筈だけどーーと言いたかったが即リディの冷たい言葉が割って入った。
氷の微笑付きで。
「お姉様が間抜けなのよーーそんな事よりどうしたの? タレン。会議終わりました?」
………。
遠まわしに黙れって言われている気が……。
「サイ様の処分が?」
不安げにベッキーちゃんは呟き、泣きそうに揺れる双眸で青年を見つめた。
彼は小さく頷くと口元を開いてみせる。
「ーー今の所、国外追放処分に傾いてますね。まだ、頑張ってる人が居ますのでもう少し決定はずれ込むと思いますよ」
「……追放」
私はポツリとこぼしていた。
処刑よりはいいと思う。ーー命はあるのだから。ただ、もう二度と会えなくなるだけでーー。
それはそれで私にとっては痛くて、悲しいけれど。
「タレン様。ーー反対しているのは誰ですの?」
「……そこまでは。私が聞いている所からでは声しか届かないのでーー参考までに聞きますが、聞いてどうするつもりで? レベッカ嬢」
薄い口元が一文字に結ばれて、決意の篭った双眸が真っ直ぐにタレンを見つめた。
必死さが伺えるその目。本当にあの人が好きなんだーーと思う。それは何処か羨ましい。
「説得しますわ。法に沿っていたら死は免れないこと私にも分かります。だから、説得をーー」
「やめたほうがいいわ。貴方や貴方の一族まで巻き込んで大事になる。それより推移を見守ったほうがいい」
ため息一つ。手に持っていた鞭を持て余しながら言うのはリディ。
そうだろうなとは私も思う。小娘一人の意見を聞くとも思えないし、そうなれば家ーー男爵家ーーを出すしかない。となると大事になってしまうし下手をすれば公爵と連座になってしまう可能性だってある。
「……でもっ!!」
今にも泣き出しそうにベッキーちゃんは顔を歪めてみせた。
「大丈夫。死なないわーー大丈夫よ」
しなやかに伸びる手はベッキーちゃんを優しく抱きとめる。私がよく見知っている優しい妹の顔で。
「ーーつ!!」
泣き崩れる少女。それを抱きしめて慰めているリディを見たあとで私は隣に立っていた男に目を向けた。
なんとなく、言動が怪しいんですけど? 会議で『声しか聞こえない』ってどんな状況?
それに、失礼だけどもそんなに身分が高くは見えないんですが。
「で? 貴方は誰ですか?」
「タレン。タレン=ジェラルドと言います。リディア様の『影』ですが、書類上は貴方の夫みたいですよ?」
……。
……。
……は?
何言ってんのこのヒトたち?
影って何? ーーと突っ込みたいけどこの後の言葉が酷すぎて私は口をパクパクさせているだけだった。
「つまりは、私の旦那様です」
ニコリと微笑見合う二人。なに? その甘い視線は。死にたくなるんですけど?
ええと、あの?
というか、状況が突然過ぎて少しだって理解できないんですが!! ああ。頭がガンガンしてきた。
「恋愛結婚なんですよ? これでも」
甘ったるい笑顔でそんな宣言いらんわ!! ひ、一言ぐらい言おうね!? 私はいつか町に戻るつもりだったんだから!!
ああ。もうヤダ。癒やしがほしい。最近考えることばかりで頭がパンクしそうだし。
癒やしーー。
考えていると部屋の扉が乱暴に開いて、私は乾いた笑顔をうかべるしかなかった。




