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始まりの日

すいません。好きなように書いてます(^_^;)

 私には人生のなかで後悔してもしきれないことが3つある。


 ひとつはママの元に生まれたこと。ひとつは妹をいじめたこと。


 ひとつはーーここにいること。





 だだっ広い豪勢な部屋の中、金の縁取りが光る心地の良い絹がはられたソファの上。私は窓の外を死んだようにみつめながらため息をついていた。



 いったい、ここに来て何ヶ月になるんだろう。泣きそうな思いで、持っていたティーカップをテーブルに置いた。ジロリと睨むは平然と隣に座って私と同じように紅茶を飲んでいる女。黒い目立たないような衣服に白いエプロン。どう考えても使用人の衣装。だが、その地味な衣装も彼女の美しく整った顔立ちがかき消していく。



 金の髪と緑の目を持つ『元』第一王子妃。リディアだ。




 そして、私。吊り目とソバカスがチャームポイント。『現』妃。マテリア。通称リディーーって、ふざけんな!こらぁ!



 なんか思い出しただけでムカついてきた!!!



 なんで、私があんたの代わりにあのアホ王子の身代わり妻にならなければなんないのよっ!!



 大体大恋愛の末に結ばれた二人でしょ? 私を巻き込まないで欲しい。



 暗い未来しか見えないのはなんでだよ。ちくしょう。放っておいくれよぅ。



 まあ、幸いにもあのアホ王子。私の存在を忘れて夜な夜な歓楽街?で飲み歩いてるらしいけど。あと、愛人付きで。




 この国の未来が不安になるけど、一生飲んでろ。私に関わるな。




 そして愛人グッジョブ!




「お姉様。おかわり頂けますか?」



 泣きそうになってると妹が覗き込んで空のティーカップを私に差し出した。



 素直に受け取る私。




 ん?



 これは注げと?




「あの、リディ、メイドでなかったかしら? で、私はご主人様では? 」



 面倒くさそうにこちらを見ているーー。えっと、なんでよ。私の天職と人生奪っておいてその態度。



 おねーちゃん昔モードになるけどいいの?



 ……。



 そう思ったけどノーダメージの気がする。この妹。放つ雰囲気が怖いし。やだ。ここまでしておいてまだ恨んでるのこのヒト。



 メイド、チェンジで。



 って前に訴えたんだけど執事のおっさん笑顔で断りやがった。



『気ごころがある人の方がいいでしょう?』




 いやいや。緊張感しか無いんですが!いつ刺されるか怯えておりますがーー。

 



「お姉様。メイドが天職と言ってらっしゃいませんでした? ーーあ、あそこに埃が溜まってましたわ」



 聞き覚えのあるセリフ。ふふ。よく言ってたな昔は。可愛いこの娘は涙目を浮かべてさ『ゴメンナサイ』って言うのよ!!



 ……ち。更に苛めたくなるほど可愛かったのに。見る影もないよ。



 どうしてこうなったんだよ?



 今はもう心臓に毛が生えてそうな我が妹。



 とにかく逆らわないでおこう。無言で紅茶を手渡すと私は頭からすぽりとエプロンを被る。




 ああ、素敵。動きにくいお高いドレスにペラペラエプロン。そして手にはハタキ。



 何だコレ?



 ま、自分の部屋は自分でお掃除、お掃除。若干監督みたいにソファで構えているリディが気になったけれど無視だ。こわいから。




 パタパタ。パタパタ。



 乗ってきた〜!!




 次は水拭きだね。ああ。掃除って気持ちいいーー。一日の始まりは掃除からってね。現在、本を読んだり、ひたすら刺繍をしたり庭をいじったりーーそんな事ぐらいしかやることもないし。ま、いっか。




 それに、捨てられた時のために手に職を付けとかないと。一人で生きてくために私にはこれしかないし。



 家政婦の腕を磨かないと。



 え? ……結婚? 二度とするか!




「そう言えば、お姉様。ウェル今夜はここで泊まるそうよ」




 あ、叩きが落ちた。



 嘘でしょ! 真っ青な顔で妹を見ると嬉々と黒い笑顔を浮かべている。



 戦慄。



 アレは嘘など言っていないーーと私の勘が告げる。きっと私の困る様子を見て楽しんでるんだ。そう。私だからわかる。分かるんだよ。同類が考える事なんてーーいや、そんなことよりなぜ知ってるんだ、一介のメイドが、アホ王子のスケジュールをさぁ!



 ちなみに最近知ったけどアホ王子の名前ってウェルバスターっていうのよ。変な名前だよ。まじで。どうでもいいから呼ぶ気もないけどね。



「何しに?」



 震える声で思わず聞くが愚問だろうーー当然、やつを丁寧に迎え入れるつもりなど私は一切ない。いざとなったら鈍器で殺せばーー。鈍器何処だ? 鈍器。



 キョロキョロと武器なりそうな物を探してみる。



 うーん。椅子でいいか。取り敢えず。部屋に入ったところをパコーンっと。



 そんな私に冷たい目が降り注ぐ。



「……お姉様。殺すのは良くないと。というか、あの人騎士並みに強いので無駄ですが。ああ見えて」



 ち。腐っても王子か。しね。



「でも、おかしいですね。私達が結婚前はあんなに王子様って、入れあげてたじゃないですか。飾り立てて。その夢が叶ったのになぜ嫌がるんです?」



 妹め。痛いところを。黒歴史だ。それは。あの王子が私の事を覚えてないことが幸いだよ。



「煩いわね。地位とあの顔があれば誰だって靡くでしょ? でも、私にこの地位にもう興味もないし。贅沢したいと思わないのよーーで、王子は女の敵でしょ?」



 それに。あの時は考えてなかったけど、あのアホ王子はこの国の未来という責任がある。それを私も背負うことになるわけでーーはい。イヤです。



 こんな状況で、そんな覚悟出てくるかぁ!!




「とにかく。お姉様は正妃なのですから子を成すことは義務ですよ」



 サラリという妹に殺意すら覚える。ーーお前の義務だろそれは。きりきりと爪を噛みながら妹を睨んでみるがちくしょう。文句言いたいが、こっちすら見てねえ。



「それをあんたが言うか? ……まあ、いいわ。なんとか回避する方法を考えないと」



 たしか、暇つぶしのトランプがあったはずだけど。私は豪華なクロゼットではなく、唯一の私物『トランク鞄』に手を突っ込んだ。



 このポケットにあったはずだけどーーあった!




 七歳の時義父からプレゼントしてもらったやつだ。とてもいい人で体弱いのによく遊んでくれたなぁ。ママには勿体無いくらいだよね。



 パラパラ掠ると懐かしいホコリの匂い。あんな旦那様が欲しかったかな〜。



 幸せな結婚って憧れだよね。ママは気持ちいいぐらいにお金目立てだったけど。



 だけれど、次の言葉に私はトランプすべてを床にばら撒いていた。



「そう言えばその前に舞踏会があるそうなので出席してくださいね。カルディアナ公爵の婚約パーティだそうなので」



 はぁ!?




 な、ん、だ、と?




 まって。こら。今日じゃないか! 突然言うな。



 そして、誰だよそれ? 公爵だかなんだか知らないけど婚約すんなよ。私は公の場になんて出たくはないんだよ!アホ王子にも会いたくないけどさ!



 なぜならバレるから。



 バレたら、死刑だから。と良い笑顔でアホ王子も言ってたし。って、お前らのせいでなんで殺されるんだよ私は。まだ若いんだよ。年増に見えるね。ってよく言われるけどさぁ。二十歳になったばかりなんだよお。こう見えて!



 悲劇の主人公みたいじゃないかぁ!




 頭を消えてブルブル振ってみる。なんかピアスらしきものが飛んでったけどいいか。私のじゃないし。




「だから、あのアホ王子がくるのね」




 あ。でも、舞踏会なら貴族の令嬢集まるし。一人ぐらいお持ち帰りするかもしれない。



 女の敵だし。



 なら、コッチには来ないんじゃないか?うん。こない。少しだけ元気出た。



 でもさあ。



「はいーーではお姉様。御機嫌よう」



「ちょーーそれって、リディが出れば良く無い? そうしたら安泰じゃない?」



 私の心も。命も。そうしたらバレないしさ。呟くとリディは『ハッ!』と見下すようにして鼻を鳴らした。悪寒が走るような黒い笑顔。




 ギヤーーー!!




 楽しんでる。この人! いつからそんな娘になったんだよお!! あの純粋天使帰ってきてくれ!




 王子のせいだ!!!




「何言ってるんですか。そのギリギリが面白いんじゃなくて? ばれたらバレたですって」




 面白くないから!絶対。絶対面白くないからーー。


 精神をなにかでガリガリ削られながら時間が過ぎていった。

※王子と公爵の名前を修正しました。ご迷惑をお掛けしました。

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