二者の暴走
パンツ♪パンツ♪(*´∇`*)
俺達が牢屋に収監されてから2日が経っていた。
食事などは決まった時間に持って来てくれるし、リノもこまめに牢屋に顔を覗かせていた。
その度に俺にくっついて頬擦りしてくるのは勘弁してほしいものだが……
リンは暇を持て余して、ずっと寝ている。
まったく気楽なものだな。
俺もあの日からずっとリノを説得しているが牢屋から出してくれない。
というより、出られるんだけど出られない。
「カズマがボクと一緒に居てくれるならいいよ」
こういう条件なので、出るに出られないで居る。
リンは『一緒に居てあげたらいいじゃない。出られるんだし』と他人事のように言う。
だいたい、パンチラーノの王女のことはどうするんだよ。
リンだけ解放されて王女の所に戻っても、王女がどういう反応するか分かったもんじゃない。
***
一方、そのパンチラーノ王国では。
王女は和真達には内緒で同行させていたメイドから和真達が捕まったとの報告を受けていた。
「何ですって! カズマさん達が捕まった!?」
王女は玉座から立ち上がって眼前に居るメイドに怒鳴る。
「はい。どうやら偵察の件がバレていたようでして」
「何てこと……。これでは私のパンツを被せる為の……じゃなくて、敵と戦う為の戦力が!」
「少し様子を見ますか?」
「無闇に手を出さない方が良いかしら……でも……」
「どうされました?」
「これでは私が困るわ! 個人的に!」
王女は再び玉座から立ち上がり怒鳴る。
「は、はあ……個人的にですか?」
「そうよ! 寝る前にいつもカズマさんの洗濯物からパンツを盗ん……拝借してクンカクンカしながら寝てるのに!」
「お、王女様……そんなことをされていたんですか?」
「リラックスの為よ。Relaxの!」
「流石にやり過ぎだと思いますが……」
「煩いわね! 貴女のパンツを嗅ぐわよ!」
「お止め下さい……」
王女は和真と居る時以上に暴走している。
フロールを含めた側近の4人は完全に引いていた。
どうやら側近でも、こんなに暴走している王女を見たのは初めてのようだ。
「フロールさんフロールさん」
フロールの隣に立っていた側近が小声で話しかける。
「王女様ってあんな性格でしたっけ?」
「私もここまで暴走している王女様を見るのは初めてです。いや、寧ろこちらが本来の姿ではないでしょうか?」
「これは一刻も早く和真さんを連れ戻す必要がありますよ。でなければ私達の貞操まで危ういです」
「確かに……」
フロール達は頭を悩ませる。
「そこ! 何をヒソヒソと話しているの!」
「「ひっ!?」」
まさか聞こえているとは思わなかった2人は驚いて固まる。
「早くカズマさんを取り戻すわよ!」
「「はい!」」
***
俺は相変わらず牢屋に居るのだが得体の知れぬ悪寒が背筋を走る。
いったい何なんだ?
まあ、深くは考えないでおこう。
とりあえず、ここから出ないことには何も出来ない。
しかしなぁ……一緒に居てくれたらって言われてもなぁ……
絶対に王女が怒るだろうし、あの変態王女のことだし何しでかすか分かったもんじゃない。
いや、いっそこれを機会にリノの方に付こうかな。
こっちはこっちでベタベタくっついてくるけど、パンツを無理矢理被せてくるような変態よりはマシだろう。
怒ったら怒ったでどうにかなるだろう。
牢屋に入れられた時に荷物も全て取られたし、どの道この状況ではどうしようもない。
ならここは一緒に居ると言って牢屋から出るのが得策なのではないだろうか。
とりあえず、リノが来るまでにリンには話しておくか。
「リン」
「なぁに~」
リンは眠そうに目を擦りながら返事をする。
「俺、リノの提案に乗ることにした」
「えっ♪」
「おい。何で嬉しそうなんだ?」
「だって出られるんでしょ? やった~」
この野郎……お前はどっちの味方だ。
「カズマ~♪」
そんな時、タイミング良くリノがやって来た。
リンが俺が話すより先にリノに嬉々とした声で話し始める。
「ねぇねぇ。こいつがあんたと一緒に居るって言ってるからさ。出してよ」
「え! ほんとに!」
リノは予想通り飛び跳ねながら喜ぶ。
「じゃあカズマは出ていいよ」
「え?」
「リンさんを出すとは一言も言ってないよ」
「何よそれ!」
「それに、リンさんを出したらボクに何するか分からないし」
「何もしないわよ!」
「したじゃない。出さないよ」
「そんな……」
リノはリンの顔を見てニヤニヤしながら勝ち誇った顔をしていた。
余程酷い事をされたんだな……
「まあ、自業自得だな」
「あんた! どっちの味方よ!」
俺がこの話に乗ると言った瞬間に喜んだ奴がよく言うよ。
やれやれ……
「リノ」
「なに?」
「リンを出してやってくれないか?」
「やだ!」
「俺が見張ってるから」
「や!」
「どうしてもか?」
「うん」
困ったな……
ここまで頑なに拒否されては無理か。
「どうしても出たいなら首輪付けて」
「は? 何でよ?」
「野蛮な猛獣にはこれくらいしないとね」
「何ですって!!」
「ひっ!?」
リノはすぐに俺の後ろに身を隠す。
「か、カズマ! 食べられる! 助けて!」
「食べるか!」
「落ち着けよリン。首輪付けたら出られるんだから我慢しろよ。こんな牢屋よりマシだろう」
「そうだけど……」
流石に首輪はキツよな……
でも、リノもリンの奴を怖がってるから折れてはくれないだろうし。
「ちなみに、この首輪は付けるとボクに従順になるから」
「そんなもん絶対に付けないわよ!」
「うふふふふ……。ボクに従順になったリンさん。いいじゃん」
リノは不敵に顔を歪ませてリンに近付いていく。
リンも反撃を忘れて蒼白になっている。
「く、くるなあああああああああ!!!」
***
「ほらほら、そこが汚れてるよ~」
「すみません。今すぐ掃除致します」
俺達は玉座の間に移動していた。
リンはリノに首輪をはめられ言いなりになっていた。
身体の自由がきかないだけで意識はあるようだ。
「ダメだよぉ~。もっとしっかりと」
「はい。畏まりま、し、た!」
リンは自由がきかないはずの身体で抵抗し床に拳を叩きつける。
リンの拳は床にめり込み、シュウ~という音と煙が上がっている。
「カ、カズマ! 猛獣だよ! あの首輪で自由を奪ってるのに!」
リノは俺の後ろに隠れて怯えている。
恐ろしいなリンの奴。
「落ち着け。大丈夫だから。そんなに危険な奴じゃないから」
「あれを見てどうしてそう言えるの!」
「まあ、あんな状態にされたら誰だって怒るって」
「怒ったからって拳で床に穴を空ける人なんて見たことないよ! パンツの力だって使ってないのに!」
「落ち着けって。何か落ち着けるように命令しろって。今ならリノの言うこと聞くんだろ?」
「う、うん。リンさん、そこにど……土下座して!」
リノは相当テンパっているな。
こんな命令したら火に油を注ぐようなもんだ。
「すみませんで、し、た!!」
ほら、また土下座の勢いで床に穴が増えた。
「ひいいいい!! 頭で床に穴を空けるなんて人間じゃないよ! 本当に猛獣だよ!」
「あんた……覚えてなさいよ! ただじゃおかないから……!」
リンはリノを射殺すような目付きで睨む。
怖いなら止めればいいのに……
牢屋で仲良く話してたじゃん。
何で喧嘩するわけ?
さっきみたいに仲良くすればいいじゃん。
喧嘩するほど仲が良いって言うけどねぇ……
やり過ぎは良くない。
「ふ、ふん! こ、ここ怖くなんてないもんね! 変態! ばーか! ばーか!」
「おいおい……それ以上火に油を注ぐな」
ブチンッ!
ん? 今何か切れたか?
「うがあああああああああああああ!! いい加減にしろ! もう我慢ならねぇ! テメェ! ぶっ殺してやる!」
リンは口調が変わり、半狂乱状態になっている。
「そこ動くんじゃねぇぞ! クソガキ! 下手に出てりゃあつけ上がりやがってえええ!!」
リンにはもはや首輪の拘束力は意味をなしていなかった。
「かかかかかかかかかかカズマ!! たすけて!!」
俺は放っとくわけにもいかないのでリノの前に再度立った。
「落ち着けリン。リノもふざけてやっただけだ。ちょっとやり過ぎたかもしれんが、そこまでキレることはないだろ」
「テメェには関係ねぇだろうが! 邪魔すんじゃねぇよ!」
もはや別人じゃねぇか……
「そこの生意気なクソガキの五体をバラバラにしてやらねぇと気が済まねぇんだよ!」
「止めろ! さすがにそれはダメだ! 死ぬ!」
「なら、まずはテメェからだ!」
リンは床を蹴ってこちらに向かってくる。
少し距離があったので俺は……
「リノ! パンツ貸せ!」
「えっ♪」
「こんな状況で嬉しそうにしてんじゃねぇよ! いいから貸せって!」
「うん! ボクの脱ぎたてパンツだね!」
「はっきり言わんでいい!」
俺はリノが脱いだ温もりのある赤いパンツを頭に被った。
女の子の脱ぎたてパンツを頭に被るなんて変態だし、正直やりたくないが仕方ない。
さて、右手に意識を集中して……
そして炎を帯びた右拳を後ろに引いて構え、リンに突っ込んだ。
「うおおおおおおお!!」
「うがああああああ!!」
リンの攻撃をかわして拳を叩き込む。
「かはっ……テメェ……邪魔だクソがあああああ!!」
「落ち着けって! リン!」
「うるせぇんだよ!」
そうだ!
リンはパンツの匂いを嗅いだりしてたな。
それなら……
俺は頭に被っていたパンツを外して、リンの顔に押し当てた。
「うがっ!?」
「あー! ボクのパンツ!」
リンは驚愕した後、少しして落ち着きを取り戻した。
凄く簡単だったけど。
「幼女の香り……なんて芳しいの……」
「やめてぇー! ボクのパンツを汚さないでぇ!」
ふぅ……何とか落ち着いたな。
やれやれ……色々と面倒事を起こしてくれる。
言っとくが、俺ってまだ高校生だからな?
そして何故かリノは床に崩れ落ちて涙で水溜まりを作っていた。
「うえーん! ボクの大切なパンツが変態に汚されたよぉー!」
「素晴らしいわ……興奮しちゃう!」
「うわああああああああああん!!」
***
その頃、パンチラーノ王国ではレイラ王女の怒声が響いていた。
偵察に向かわせていたメイドから再度もたらされた情報によるものだ。
「何ですって!? カズマさんが魔王のパンツを!?」
「はい。自分からです」
「しかも自ら!? 私のパンツは被ってくれないのにな何で! 羨ましい!」
「落ち着いて下さい。王女様」
「これが落ち着いていられますか! 何としてもカズマさんに私のパンツを被ってもらうわよ! 自ら!」
「王女様、目的が変わっていますが……」
「細かいことはいいのよ!」
「はぁ……」
尚も王女の暴走は続くのだった。