収監
王女から偵察を頼まれて隣国にやってきた俺とリンは 宿泊先で幼女の襲撃 (?) に遭った。
相手の攻撃が直撃したリンを治癒した後、リンは幼女に仕返しと言いつつ色々な事をしたのだが、俺は部屋の外で暫く待機していた。
その間、部屋からは幼女の叫び声が何度も聞こえてきた。
叫び声が止んだので「もういいか?」と部屋に向かって尋ねて「いいわよ」と返事があったので部屋に入った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
幼女は膝を抱えて体育座りの状態で謝罪の言葉をリピート再生する機械のように繰り返していた。
……何されたんだ?
まあ、深くは聞かないでおこう。
それはそうと俺は気になっていたことを質問した。
「なあ」
「ひっ!!」
俺の呼び掛けに幼女の身体がビクッと跳ねる。
「な……何かな?」
「お前、名前は?」
「リノ……です」
「俺は宮内和真。こっちで腕を組んでニコニコしてるのがリン・シュガーハルトだ。よろしく、リノ」
尚も怯えている様子のリノは小さく答える。
「それと、もう1つ。何故裸なんだ。服はどうした?」
風呂を覗いていた事自体がおかしいがそれ以上に何故に服を着ていないのかが甚だ疑問である。
「……服はお風呂場にある」
そうか、風呂を覗いていたんだから当然……じゃねぇよ!
風呂を覗くのに何で自分まで脱いでんだよ!
だって……っと言葉を詰まらせるリノを無視して風呂場のリノが居た天井部分を覗くと確かにリノの服だと思われるものが散乱していた。
俺はそれを抱えて持って行きリノの前に置いた。
「ほら、さっさと着ろ」
「う、うん……」
リノが服を着るまで俺は部屋の外で待機した。
少しして「いいよ」と声がかかったので部屋に入った。
リノはフリルや赤い薔薇、黒い薔薇のコサージュ等をふんだんにあしらった如何にも高そうな上半身は黒、下半身のスカート部分は赤いドレスに身を包んでいた。
胸元には少し大きな赤い薔薇が付いていた。
頭には斜め左に赤い薔薇が付いたカチューシャを着けていた。
正直、とても可愛かった。
どこぞのお嬢様みたいな感じだな。
「服も着たところでだ」
先程、狼狽えていたので答えを聞いていなかった事を思い出して再度質問した。
「何で風呂を覗いてた?」
リノは俺の質問に目を泳がせながら答えた。
「毎日……覗いてた」
ははははは……まったくこの世界の人達は……変態ばっかじゃねぇか!
「それに……カッコよかったから……」
「は?」
俺が反応するより速く、リンが反応した。
「あんた正気なの!?」
「ひっ!? ごめんなさい!」
「おい、リン。止めろ。お前はさっきので怖がられてんだから」
「悪かったわね。それで? あんたは誰がカッコ良かったって?」
リノは顔を赤らめ俯いて俺を指差した。
「俺か」
リノは無言で頷く。
ふむ……幼女にモテるとはなぁ……あっちではまったくモテた経験なんて無かったのに。
「何でこんな変態が良いのよ?」
お前が言うな!
内心、リンにツッコミを入れつつ俺は溜め息を吐いた。
「いや……何でかわからないけど……見た瞬間に胸の辺りがドキドキして……その……」
「……一目惚れってやつね」
リンは呆れたように言う。
「あの! ボクの家に来ない! この宿より良いと思うし……お話ししたいし」
お誘いを受けたのは有り難いが俺達は偵察に来た身だし、無暗に接触するのは危険かもしれん。
「折角だし行けばいいんじゃない?」
リンが小声で話しかけてくる。
「バカか。俺達は偵察に来てるんだぞ。それがバレたらどうするんだ」
「この娘に聞いてみたらいいじゃない。この国の王様に会いに来たとか言えばいいでしょ。隣の国から来たなんて言わなければバレないわよ」
「大丈夫か? 不安しか無いんだが……」
「大丈夫よ。わたしが聞いてみる」
「おい!」
小声で話している俺達を首を傾げて見ていたリノにリンが問いかける。
「わたし達、この国の王様とかの偉い人に会いに来たんだけど。どうやったら会えるかな?」
「王様ってこのパンモロン王国の?」
パンチラの次はパンモロかよ……
「そうそう」
リンはニコニコしながら頷く。
「会えるかどうかは分からないけど、案内は出来るよ。少し歩くけど。首都のパンツミェルまで1時間くらい」
「結構歩くのね」
「まあ、そんなもんだろ。国なんだし」
リノは少し思案して「馬車があるけど」と言ったので俺達は馬車を使って移動する事にした。
歩くの疲れるしな。
とりあえず今日は寝よう。
リノの襲撃というより暴れた所為で結構遅くなったしな。
リノも同じ部屋に泊まったが、もともと料金は無料だしいいか。
翌日、俺達は宿を後にして途中で馬車を掴まえて乗車した。
料金はリノが払ってくれた。
高そうなドレスだなと思ったけど、やはり結構なお金持ちのようだ。
「悪いな。案内してもらって」
「良いよ良いよ。ボクもカズマと一緒にいられてうれしいし♪」
リノは本当に俺の事が好きみたいで、ずっと俺の腕にしがみついてニコニコしている。
俺の向かいに座っているリンはジト目でこちらを見ていた。
「何か目の前でイチャイチャされると腹立つわね……」
リンはかなり不機嫌だった。
まあ、誰だって目の前でイチャイチャしてるのとか見たら腹立つよな。
イチャイチャしてると言うより、リノが俺にくっついて、ずっと鼻歌を歌ってるんだけど。
「で、カズマ達は何で王様に会いに行くの?」
「えっと……」
リノの問いかけに言葉を詰まらせる。
偵察に来ましたなんて言えないし……
リンに視線を向けるが、あんたが何とかしなさいよ、というような視線を送ってくる。
どうしたもんか……
「まあ、いいや。やっぱり馬車だと速いね。あれだよ」
そう言ってリノは馬車に付いている窓から外を指差した。
そこにはパンチラーノ王国の城とほぼ同じくらいの城が建っていた。
城はよく話とかに出てくる先端が尖った形をしているものだ。
暫く走っていると入り口らしき橋と門が見えてきた。
リノは橋の前で馬車を止めると「少し待ってて」と言って馬車から降りて、門へと歩いて行った。
それから5分くらいしてリノが戻ってきた。
「入れてもらえないか交渉してきたよ」
「それで?」
リンが尋ねる。
「入れてくれるって」
「ほんと! やったわね!」
「そうだな」
俺はリンに返事をするが内心、簡単に行き過ぎではないかと警戒していた。
リンとリノはウキウキした様子で「ボクも初めて入るんだ~」「そうなの? へぇ~」などと会話をしていた。
そうこうしている内に俺達は王様の部屋に警備の兵士と共に通された。
部屋は無駄に広く天井は見上げれば数十メートルの高さはあるだろう。
シャンデリアも8つほど天井から吊り下げられていた。
その部屋の奥の中心に玉座があり、その横にリノと似たような薔薇のコサージュをあしらった黒のドレスに身を包んだ、透き通るようなエメラルドグリーンの長髪と瞳をした女性が立っていた。
「ようこそ。パンモロン王国へ。大変失礼なのですが、只今、王女様はご不在でして。私が代わりを努めています」
そう言って女性は頭を下げた。
おかしい……旅人がこれ程簡単に王宮に入れる訳がない。
何かの罠とかじゃないだろうか。
リンはさっきから部屋を見渡して「すご~い」嬉々とした声をあげながらはしゃいでいるし。
リノもリンと一緒になってはしゃいでいるし。
少しは警戒しろよ!
何でそんなに無警戒で居られるんだ!
「貴殿方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
玉座の隣に立つ女性に問いかけられ、それに答える。
「俺は宮内和真と言います。あちらではしゃいでいるツインテールがリンで、赤い髪がリノと言います」
「ありがとうございます。私は王女様の側近のナタリアです」
その後、ナタリアさんは『立ち話も何ですから』と言って色々な食事を用意してくれた。
王宮にある食堂でリンとリノは用意された食事を嬉しそうに食べていた。
「おい、リン」
俺は小声で隣のリンに話しかけた。
「何?」
それにリンも小声で応える。
「おかしいと思わないのか?」
「何が?」
「見ず知らずの旅人を簡単に城内に通したり、食事を用意したり」
「リノがいるからじゃない?」
「それは関係ないだろ」
「まあいいじゃない。何かあったらその時よ」
「どんだけ楽観的なんだよ!」
***
だから簡単過ぎると言ったんだ。
俺とリンとリノの3人は牢屋に囚われていた。
リンはリノと何か話をしている。
気楽なもんだな……
何故こうなったのかは言うまでもなく、食事に睡眠薬を盛られたいたのだ。
俺達が偵察に来ていることがバレているとしか思えない。
ナタリアさんは『少々お待ち下さい』と言って去って行ったきり戻って来ない。
まだバレたと決まった訳ではないがバレていると考えていいだろう。
翌日になってやっとナタリアさんが戻ってきた。
「王女様からお話があります」
そういうとナタリアさんは牢屋を開けた。
しかし、王女の姿はどこにも見当たらない。
「あの……どちらに?」
「王女様なら、あなた方の隣に座って居られますが?」
ナタリアさんは俺とリンの間に座るリノに目をやった。
「「はあああああああああ!?」」
俺とリンは声を揃えて叫んでしまった。
「何で一緒に捕まってんだよ! それにナタリアさんは不在だとか言ったよな!?」
「そうよ! 何で居んのよ!」
「捕まっているのは面白そうだったから。不在って言うのもお城に入ってからの会話も全部騙す為だったの。ごめんね」
「騙す為って……どういうこと?」
リンはリノに問いかける。
「カズマ達ってパンチラーノ王国から来たんでしょ? 何か探っているかもしれないから監視下に置こうかなと思って。探っているっていうのはこっちの推測だけどね。そういう情報が入ったものだから。安心して悪いようにはしないから」
くそ……宿に居た時からバレていたということか。
リノが覗いていたのもそういうことだろう。
ただの変態だと思っていたが違ったか。
「あっ、そういう情報が入ってたから覗いてたのもあるけど半分はボクの趣味だからね。毎日覗いてたのもカズマのことが好きなのも本当だし」
うん。変態だったな。
さて……俺とリンは牢屋に入れられたわけだけど、これからどうしよう……
殺されたりはしないだろうけど。
それに推測だと言っていたからまだ大丈夫だ。
何とかして出してもらうしかないな。
とりあえず俺は牢屋から出る為にリノを説得することにした。
はぁ……だいじょうぶかなぁ……