偵察へ
あれから数日が経った。
俺は王宮の一室で目覚める。
あの日から俺はこの王宮で世話になっている。
ベッドから身体を起こし、伸びをする。
それから洗面台に移動して洗顔などを済ませる。
少し腰が痛いのはベッドの所為だろう。
俺の身長は174cmだからこのベッドは少し小さい。
もう少し大きければいいんだが。
寝起きは髪の毛がボサボサになる人が多いが、俺はそこまで乱れない。
前髪は眉にかかっているので、真ん中より少し左から左右に分けている。
後ろは肩の辺りまで伸びてはいるが癖はないのだ。
結構、サラサラしてるんだよなぁ。
お陰で手入れが楽で助かる。
髪の毛の手入れをしていると部屋のドアがノックされ、フロールさんが入って来た。
フロールさんは深く一礼してから喋り出す。
「朝食の準備が整いましたので食堂までお越しください」
「わかりました。ありがとうございます」
俺も一礼をしてお礼を言う。
フロールさんが出た後、少ししてから部屋を出て同じ階にある食堂へ向かう。
食堂は俺が使っている部屋から百メートル程先の突き当たりを左に曲がった所にある。
この王宮はかなり広いようで、どれくらいの広さがあるのかは把握していない。
食堂は両開き扉になっていて俺はその片方を開き中へ入る。
中へ入ると部屋の天井中央から大きなシャンデリアが吊り下げられている。
食堂の中もかなり広く軽く二百人は収まるだろう。
これだけ広い王宮なんだからメイドの数もかなりのものだろうな。
実際、食堂内にはかなりの人数が居るし。
王女の席は食堂奥の中央にある。
黙っている姿は大人びていて良い雰囲気なのに性格に難があるからな……
それはこの世界に来た日に思い知った。
「カズマ。此方へ」
少し大きな声で俺を自分の所へ招く王女。
これだけ広いんだから何かマイクみたいなものを付ければいいんじゃないかとも思う。
王女の所へ行くとメイドが王女の隣にある椅子を少し後ろへ引いて俺に座るよう促す。
横長のテーブルの上には色取り取りの食べ物が並んでいる。
俺が席に座ると王女が立ち上がりワイングラス持つ。
「我が国は今、隣国との戦いで疲弊しきっています。今後、皆の力を借りることが沢山あるでしょう。しかし、戦力差は明らかです。皆で協力しなければ対抗できないのです。我が国に招いたカズマさんの力をお借りし立て直します。真っ向から立ち向かっても勝ち目は無い。今は向こうも動く気配がありません。なので今の内に作戦を練ります。今後の戦いに備え、今は十分な休息をとるのです。では食事と致しましょう。皆にパンツの加護がありますように」
そう言ってグラスを天高く翳す。
それに続き皆も復唱する。
何だよ……パンツの加護って……
あまりその加護は受けたくないものだな。
王女は椅子に腰を下ろすと俺の方を向き微笑んだ。
やはり黙っていると美人だな。
「カズマ。遠慮せずに食べて下さいね。貴方には色々とご迷惑をお掛けしておりますので」
「あ、自覚はあったんだ」
「当たり前です!」
「いや、だって自分のパンツを初めて会った男の頭に被せる変態だし」
「説明しろって貴方は仰いましたけど、言っても信じてくださらないでしょう! ですから!」
王女はムキになって言う。
「分かったよ。悪かった。でも息を荒げていたのも事実だし、完全な否定は無理だと思うぞ」
「うっ……」
王女は痛い所を突かれ、言葉に詰まってしまった。
王女ってすぐに感情を表に出すな。
普段は落ち着いた感じなのに、すぐに焦ったりもするし。
「は、早くお食事を召し上がって下さい」
話を逸らしたな。
まあ、あまり言うと可哀想なので止めておこう。
俺は目の前の食事を口に運ぶ。
肉や野菜、色々な種類の食べ物がある。
どれもとても美味しい。
「あ、一つ気になる事があるんだが」
俺は王女に問い掛ける。
王女は手を止めてこちらに顔を向ける。
「何故、あんた達は俺の言葉が理解できるんだ?俺もあんた達の言葉を理解できるし」
この世界に来た時から気になっていた。
何故、世界が違うのに言語が同じなのか。
「それはですね。カズマをこの世界に招いた時、つまり寝ている間に」
「何かしたのか!?」
「人の話は最後まで聞いて下さい」
「すまん……」
「寝ている間に言語を適応させる為の薬を飲んでいただきました。この薬は異世界の人との意思疎通を可能にする為に開発したものです。今、カズマは私達と同じ言語を使っています。貴方の言う日本語とは違います。貴方には自分の世界の言葉に聞こえているかもしれませんが」
「成る程。それは便利だな」
「はい」
「因みに俺の言葉は薬を飲まない状態だと、あんた達にはどんな感じに聞こえるんだ?」
「パンツ食べたい」
「はっ!?」
「パンツ食べたいと聞こえます」
「ただの変態じゃねぇかよ!」
「パンツ食べたいを連呼していますね」
「マジかよ……」
俺が頭を抱えていると、後ろから声がかかった。
追加の料理を運んで来たフロールさんだった。
「カズマさん、落ち着いて下さい。そんな聞こえ方はしていません。王女様、カズマさんに嘘を教えるのはお止めください」
「ごめんなさい♪」
おい、なんだその後ろに音符マークが付いてそうな言い方は。
絶対に反省してないだろ。
「じゃあ、どんな感じに聞こえるんですか?」
「貴方の世界でも複数の言語がありますか?」
質問に質問で返された。
「はい。あります」
「それと同じように聞こえます。何を言っているのかわかりません」
「そうですか……良かった……」
俺は安心して、再び料理を口に運んだ。
王女め……変な事言いやがって。
本気にしちゃったじゃないかよ。
俺は暫く美味しい料理に舌鼓を打った。
食事の後一時間程経った頃、王女は俺と王女の側近であるメイド達を王室に呼び出した。
王室に入るとフロールさんを含め4人のメイドが王女の座っている玉座の左右に立っていた。
「カズマ、貴方をとある部屋に案内します。この部屋には私と私の側近であるこの4人にしか入ることを許可しておりません。貴方は我が国にとって大切な方です。これから先、協力していただくのでこの部屋へ入る事を許可します。では案内します」
王女はそう言うと立ち上がり、王室の中央まで歩を進めて床に手を突いた。
すると王室の一部の床が持ち上がり、その部屋への入り口が現れた。
どうやら、王女にしか開けられない仕組みになっているようだ。
「では付いて来て下さい」
王女はその部屋へと続く階段を降って行く。
暫く階段を降っていると黒い扉が見えてきた。
王女は扉に手をかけ押し開く。
「なっ……」
俺はそこに広がっていた光景に言葉を失った。
何とそこには……
「パンツだらけじゃねぇか!何だよこの部屋!凄く真剣な感じだったから何かと思えば。結局パンツかよ!」
壁一面にパンツが飾られていた。
それも隙間無く。
「おい! 何だこの部屋は!」
そのあまりに異様な光景につい怒鳴ってしまった。
「この部屋は我が国の力の根源。私達はこのパンツに護られているのです。中央に浮かんでいる巨大な球体はパンツの力の源です。これのお陰でパンツには不思議な力が宿っているのです。選ばれし者は、男性女性問わず被ることで力を発揮します。誰しもが力を発揮出来る訳ではないのです。以前言った通り、パンツ適性値が高い方でなければ死に至る可能性があります。しかし、下に身に着ける場合は死ぬ事はありません。隣国の魔王と呼ばれている人物はこの力の源を狙って我が国に攻撃を仕掛けて来ています。向こうにも同じような物があるようで、パンツで力を発揮することが出来るのです。これが向こうの手に渡ってしまったら、私達には太刀打ちする術が無くなります。しかし向こうの戦力の前に我が国は苦戦を強いられ、異世界人に頼ることで打開を試みているのです」
パンツって……すげぇ……
成る程。武器として使う場合は頭に被るのか。
そして下着としての役割も担っているんだな。
真面目な話なんだろうけど、パンツってのがかなりシュールだ。
「しかし、お隣さんは何故これを狙っているんだ?向こうにも同じような物があるんだろ?」
「先代……つまりはお父様から聞いた話なのですが、これは二つ揃うことで真の力を発揮するのだとか。私も見たことはありませんので詳しくはわかりません」
「それが狙いか。だけど、こんなに大きな物はそう簡単には奪えないだろう」
部屋の中央に浮いている球体は見た感じ、数十メートルはある。
これを奪うとなると相当な人数が必要になるし、運ぶこと自体が難しいだろう。
「向こうも奪う為の方法は考えているでしょう。ここへの入り口は王室のあの一つだけですし、開けるのは私だけです。場所も向こうは知らないでしょう。なので少しは安心かも知れませんが、油断は出来ません」
「お取込み中申し訳ありません。王女様」
フロールさんが王女に話しかける。
「何かしら?」
「パンツの穿き替えはなさらないのですか?」
「あら、そうね。分かったわ」
王女ってメイドには敬語とか丁寧語は使わないのか。でも、パンツの穿き替え?
パンツって一日に何回も替えるものなのか?
王女は躊躇い無く俺の前で腰に手を当てる。
「おい!」
「何でしょう?」
「何でしょうじゃねぇよ! あんた女だろうが! 俺は男だぞ?何で男の前で普通に着替えられるんだ! 更衣室とかあるだろ!」
「パンツを穿き替えるのに更衣室を使う必要なんてないでしょう。服を着替えるなら別ですけど」
「あんた達の基準はどうなってんだよ!」
この世界ではパンツに対してだけ価値観がおかしいのか。
普通の女の子はパンツを見られたら恥ずかしいと思うだろうし、ましてや男には見られたくないだろう。
王女は今日も純白のパンツだった。
その純白のパンツと水色のパンツを穿き替える。
「和真、被りますか?」
「被るか!」
変態王女め、何故そんなに被らせようとするんだ。
「さて、カズマ。パンツの穿き替えも終わりましたし、我が国を案内します。この世界に来てからカズマはまだ一度も王宮から出ていませんから」
「そう言えばそうだな。じゃあお願いしようかな」
俺達は部屋を出て再び王室に戻った。
王女は正体がバレないように服を着替えた。
白色のシンプルなワンピースだ。
王女として町に出る事もあるそうだがあまり多くは無いらしい。
その後、王女と共に一階へ向かった。
エレベーターのような機械から降りると、一階ではメイド達が忙しなく働いている。
「少し出てくるわ」
「お独りですか?」
「ええ。カズマと少し出るだけだから」
「お気をつけて」
メイド達は一旦作業を止め、王女に一礼する。
「護衛とかはいいのか?」
「我が国の民に悪い人は居ませんから」
「そうなのか」
「はい」
一階の恐らく玄関にあたる場所は結構広かった。
俺達は扉を開けて外に出た。
大きな石造りの橋を渡り、十分程歩くと町に着いたのだが……
「で? 何なんだぁ? この状況は!」
「パンツ泥棒よ! 誰か捕まえてぇ!」
町ではパンツが盗まれて騒ぎになっていた。
犯人は中央に大きな噴水がある広場で逃げ回っていた。
「悪い人は居ないとか言ってたよな?」
「記憶にございません」
「少し前に遡ってみろ。絶対に言ってたからな。で、どうするんだ? この状況」
犯人は女性からパンツを奪って尚も逃亡を続けている。
「最高……この芳しい匂い……癖になりそう……」
「女かよ!」
しかも匂いを嗅いでるし。
この国の女は変態ばかりじゃねぇか!
周囲に居る男達も少し引いている。
「カズマ! 私のパンツを被って戦って下さい!」
「はぁ!? 何でだよ!」
王女は俺の返事も聞かず、自分の腰に手を当ててパンツを脱いだ。
「さぁ! この水色のパンツを被るのです!」
被りたくないんだが、拒否をしたところで以前のように無理矢理被せられるのがオチか……
「クソ! 嫌だつっても被せんだろうが!」
「よくお分かりに━━」
「うるさい! 仕方なくだ!」
俺は王女が穿いていた水色のパンツを頭に被った。
そして逃げ回る黒髪ツインテール女の前に立ちはだかった。
彼女は黒く胸の辺りに横方向に太めの白ラインが入った半袖のTシャツと藍色ショートデニムに白黒ストライプのニーソックスという少しボーイッシュな感じの服装をしていた。
「おい! 変態女!」
「きゃあ! 変態!」
「お前に言われたくねぇ!」
「その台詞はそっくりそのまま返させてもらうわ!」
「俺は仕方なくだ!」
「仕方なく頭にパンツを被る人なんていないわよ!」
ごもっとも。
「そう言うお前はどうなんだよ! パンツの匂い嗅いでたじゃねぇか!」
「趣味よ!」
「俺のこと言えないくらいの変態じゃねぇかよ!」
「うるさいわね! 大体あんた誰なのよ!」
俺は一旦気持ちを落ち着けてから話す。
「俺は宮内和真だ」
「カズマ? 初めて聞く名前ね。わたしはリン・シュガーハルトよ。礼儀として名乗っておくわ」
変態なのに礼儀とか気にするんだな。
「あんた……今失礼な事考えなかった?」
「気の所為じゃね?」
「怪しいわね……。まあいいわ。許してあげる」
リン・シュガーハルトと名乗った黒髪ツインテールの変態女は盗んだ紫パンツをツインテールの右側に結んだ。
「さて、お話はここまでよ。わたしの邪魔をするなら容赦はしないわよ」
彼女は右足を後ろへ引き、姿勢を低くする。左手の平を俺の方へ向け、右手を少し後ろに引き拳を作る。
俺は嫌な予感がして咄嗟に右へと飛び転がった。
それとほぼ同時くらいに彼女の声が轟く。
「はぁ!」
俺は起き上がり、自分の居た場所に目をやった。
「なっ……」
そこには数メートル離れた場所に居たはずのリン・シュガーハルトが右の拳を突き出した状態で止まっていた。
彼女が居た場所から、俺の所までの地面には黒く焼け焦げた跡が一直線に伸びていた。
「外したわね。やっぱり放つ速度が遅過ぎるのよねぇ。これ」
「お前……まさか……」
「多分、お察しの通りだと思うわよ」
間違い無い。彼女もパンツを被る事で力を発揮出来るようだ。
彼女の場合はツインテールに結んでいたけど。
「はっ! カズマ! 大丈夫ですか!」
茫然と立ち尽くしていた王女が我に返り、俺に駆け寄って来た。
王女は心配そうに俺の顔を覗き込む。
「大丈夫だ。少し擦り剥いただけだ」
しかし……どうすればいい……
彼女はパンツの力を把握しているようだが、俺は全く把握出来ていない。
俺のパンツにはいったいどんな力があるんだ。
この世界に来た日に使い方は少し分かったが、あの時は治癒の力だったからな。
今被っているパンツの力が攻撃の力だったら制御出来るか分からんぞ。
しかも相手は雷だ。
このパンツが攻撃の力だったとしても、色から察するにこのパンツは水かもしれん。
完全に不利じゃねぇか。
俺が思考を巡らせていると、王女が耳元で囁いてきた。
「わかった。やってみる」
俺は王女に言われた通りにやってみることにした。
まずは右手に意識を集中して、右手が光に包まれたらそれを空へ放つ!
「よっ!」
俺は右手を空へ向かって振った。
すると、少ししてから雨が降り出した。
言われた通りにやったが、これで良いんだよな?
「雨を降らせたところでわたしにダメージはないわよ。さてと、そろそろ止めを刺させてもらうわ!」
彼女は再び同じ構えをとる。
「食らいなさい!」
彼女が攻撃を繰り出そうとした時だった。
「ぎゃああああああああ!!」
「えっ……?」
彼女が感電した。
もしかして、水で濡れたら力を溜めた時に発せられる電気で自身が感電するのか……
使えねぇ……
「かんでん……するなんて……きいてな……い……」
そりゃ誰も言ってないしな。
本人も知らなかったのね……
彼女はその場に気絶して倒れる。
「これ、どうするんだ?」
俺はリン・シュガーハルトを指差して言う。
「そうですねぇ。力を発揮できるようですし、捕獲して城へ持って帰りましょう」
「持って帰るって……。物みたいに言うんだな」
「良いではありませんか♪」
王女はとても嬉しそうだった。
今日は町の案内をしてもらう予定だったのだが予定が変わった。
俺はリン・シュガーハルトをお姫様抱っこして城まで連れて帰った。
そして地下にある牢屋へと放り込んだ。
その牢屋は彼女が目覚めるまで側近の4人に見張らせておくようだ。
王女は彼女が盗んだパンツを町でちゃんと持ち主に返した。
彼女が穿いていたパンツは念の為、王女が持っている。
自分のをツインテールに結んで力を使う可能性があるからだとか。
この世界だとノーパンは無力に等しいな。
数時間後、彼女が目覚めたとフロールさんから連絡が入り俺と王女は地下の牢屋へと向かった。
地下に近付くと何やら喚く声が聞こえてきた。
「ちょっと! あんた達! こんなことして許されると思ってんの! 早くここから出しなさいよ!」
出会った時から思ってたけど、うるさい奴だな。
「おい変態。あまり喚くな。みっともないぞ」
「あ、あんた! よくもわたしを酷い目に遭わせてくれたわね!」
自滅したんだけどな。
それを言うと色々面倒臭い事を言われそうなので止めておいた。
「リン・シュガーハルトさん」
俺の背後に居た王女が彼女に話しかける。
「お、王女様!? な、何で!?」
彼女は驚きの声を上げる。
「貴方の悪事は全て見ていましたよ。人からパンツを盗むなど、許されない行為です」
「うっ……」
こんなに喚く奴でもでも王女に対しては何も言えないんだな。
「わ、わたし……どうなるんでしょうか……」
彼女は酷く怯えた様子で王女の言葉を待っている。
そんな彼女に王女は優しく微笑みながら言う。
「安心して下さい。貴方が協力して下さるのであれば罰は与えません」
「きょう……りょく?」
「貴方も知っているとは思いますが、我が国は隣国との争いで疲弊しきっています。そこで私は異世界から力を持った、この和真さんを招いたのです。シュガーハルトさん。貴方は和真さんと同じように力を持って居られます。なので和真さんに協力してほしいのです」
「な、何でわたしがこいつに!」
「貴方に……選択肢はありませんよ?」
「ひっ!」
彼女が再び怯えた表情になる。
俺の背筋にも一瞬悪寒が走った。
笑顔なのにとても恐ろしく感じた。
王女って怒らせると凄く怖いんだなと俺は思った。
「カズマ。彼女に協力していただくということで宜しいですか?」
「俺は別に構わないが、彼女に選択肢は無いんだろ?」
「はい」
なら聞くまでもないだろうに。
俺は尚も怯えている彼女に近付いて話しかけた。
「すまんが王女に協力してやってくれ。俺も巻き込まれたんだがな」
「……わかったわよ。やれば良いんでしょ。どうせわたしには、そうするしか道は残されて無いんだから」
「もし、また今日のような騒ぎを起こせばどうなるか分かっていますね?」
「は、はい!」
笑顔での威圧が半端ないな……
その後、彼女は牢屋から解放されて王室へ通された。
「お前、大丈夫か? 顔がやつれてるぞ」
「大丈夫よ。それとわたしの名前はリン・シュガーハルトよ。ちゃんと名前があるんだから名前で呼びなさいよ」
「じゃあ、シュガーハルトさん」
「気持ち悪いからリンでいいわ」
「気持ち悪いって……酷くね?」
リンは俺の言葉を無視して王室を見渡す。
王室内を見渡しながら独りで、はぁ~、ほぉ~などと呟いている。
まあ、これだけ広い部屋を見たらそうなるわな。
王女は玉座に座ると話し始めた。
何でも、これから隣国との戦いに備えて作戦を練るそうだ。
こちらの戦力は少なく戦える者がほとんど居ない状態であり勝ち目は、はっきり言って皆無。
パンツで力を発揮出来るのは俺とリンだけだ。
王女は色々あって力を使えないんだとか。
側近のメイド達は力は使えないが、かなり強い。
それくらいでなければ私の側近は務まらないと王女は言う。
今、この国が置かれている状況は戦力差の他に個々の強さの差だ。
向こうは魔王を含め、精鋭が集まっている。
人数だけでも不利なのに、更に一人一人が強いとなると作戦を練たところで敵う訳がない。
色々と考えた結果出た答えは、向こうに偵察を送り内情を知るというものだった。
しかし、どうやって偵察するつもりだ。
そう簡単には入れないだろうし、見つかればただでは済まないと思う。
魔王と呼ばれているくらいだから残忍な奴かもしれないし。
「偵察なんてどうやるんだ?」
提案した本人にはちゃんとした考えがあるんだろうか。
「旅人のフリをして入国して下さい」
無かったようだ。
「絶対にすぐバレるだろ」
「そうですよ。絶対にバレますよ。わたしも姿を消せるパンツなんて持ってませんし。あるかも分からないですけど」
確かにその力があれば楽に偵察出来るな。
でも、そんな都合の良い力なんてある訳がない。
俺達が何を言っても王女は「大丈夫♪」の一点張りだ。
旅人として向こうに潜入するのは勿論、俺とリンの二人だ。
俺達は旅人っぽい服装に着替えさせられ、と言ってもフード付きの茶色いマントを羽織っただけなんだけどな。そして、早速偵察として駆り出されてしまった。
全く……人使いが荒いな……
「で? これからどうすんのよ」
「地図も渡されたし、とりあえず行ってみるしかないだろう」
「それもそうね」
無事に帰って来られればいいが……不安だ。
お守りとして渡されたのが迷彩柄のパンツとかおかしいだろ!
しかし、この数日で俺の生活は激変したな。
いつまでこんなことが続くのやら……はぁ……
あっ、そう言えば王女から隣国の名前聞いてなかったな。
いつも隣国としか言わないから。
色々と不安に思いつつも、俺達は隣国へ向かって歩き出した。