プロローグ
何故こんなことになってしまったのだろう……
「貴方には我が国を救う力があります。我が国を救う為に戦っていただけますか?パンツで」
「んなことできるかああああああああああああ!!!」
朝の目覚めはいつも憂鬱なものだ。
耳に刺さるような音で目覚める。
その根源である目覚ましを止めてリビングのある一階へ下りる。
「おはよう。母さん」
「おはよう。和真」
キッチンではいつも通り母さんが朝食を作っていた。
「父さんは?」
この時間にはいつもリビングで新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるはずの父さんの姿が見えない。
「父さんなら早朝から仕事があるって早めに出たわよ」
そうなのか。まあ、忙しい人だからな。
俺達家族の為に働いてくれているんだから感謝しないといけないな。
暫くリビングのソファで寛いでいると母さんから声がかかった。
「ご飯出来たわよ」
「わかった」
俺はソファから立ち上がり隣にあるテーブルの椅子に腰を下ろした。
母さんの作ってくれるご飯はいつも美味しい。
目覚めは憂鬱だがこの朝食を食べると少し気分が晴れる。
朝食を食べた後、いつもは七時半頃に家を出るのだが今日は十五分程早く出た。
今日は少しのんびりと歩きたかったからだ。
高校までは約二十分くらいで、大体八時になる十分前くらいには校門を潜るようにしている。
暫く歩いていると前方に二人の女生徒の姿が見えた。
最近の女子のスカートは短過ぎると思う。
俺としては、あれはあまり好ましくない。
学校指定のものが短い場合は仕方ないが。
自分で言うのも何だが、俺は学校では真面目な方だ。
生活態度もそれ程悪くないし成績も普通くらいだ。
服装は風紀委員に注意を受けたくないのでちゃんとしている。
そんなことを考えながら暫くのんびりと歩いた。
俺が学校の校門を潜ったのはいつもの時間より五分程早い時間だった。
教室に入りHRを受ける。
授業もいつも通り滞りなく進む。
少々退屈ではあるが平凡が一番良い。
放課後になり俺は早々に帰り支度をして教室を出た。
そのまま校門を潜って帰路に着き、二十分くらいして自宅に着いた。
少し課題が出ていたので着替えた後すぐに片付けた。
課題を済ませた後は部屋で時間を潰した。
母さんから声がかかったのでリビングへ向かう。
今日の夕食は豚カツか。
俺は出来立ての豚カツを口へ運ぶ。
やっぱり母さんの作るご飯はとても美味しい。
暫く母さんの作ったご飯を堪能して風呂に入った。
風呂は一日の疲れを落とす為の大切な時間だ。
でも二十分くらいで風呂は済ませるようにしている。
あまり長く浸かっていると逆上せてしまうし、逆に疲れてしまう。
風呂から上がってすぐに部屋に入りベッドに身体を倒した。
俺の意識はすぐに深く落ちていった。
その日から二週間程たったある日の出来事だ。
いつものように目覚ましで目覚めて朝食を摂り学校へ向かう。
いつもと何も変わらない平凡な一日になる…………はずだった。
俺はその日、帰宅後すぐに自分の部屋で着替えを済ませた後、夕食を摂ってから風呂に入った。
課題は帰宅後すぐか夕食後に片付けるようにしているが、今日は特に課題なども出てなかったので風呂から上がった後すぐにベッドに身体を倒した。
疲れていたのか布団に入って数分後には眠りに落ちていた。
翌朝の目覚めはいつものように憂鬱ではなかった。
目覚ましが鳴らなかったのもあるが、それだけではないような気がする。
おかしいな。昨日確かに目覚ましをセットしたのだが。
そしてふと部屋の異常に気が付いた。
「ここは……俺の部屋じゃないぞ」
広さは俺の部屋とほぼ同じだが置いてある家具や位置が全く違う。
俺が思考を巡らせているとノックと同時に見知らぬ女性が入って来た。
「失礼します。お目覚めですか?」
女性は深く一礼してからそう言った。
「誰だあんた」
「私はフロールと申します。ここにお仕えしているメイドです」
「俺は宮内和真です。フロールさん。質問があるんですが」
「はい」
「ここはどこなんですか?」
「ここは貴方の居た世界とは別次元に存在している世界です」
「またありがちな……」
「何か?」
「いや、何でもないです。続けてください」
「そうですか。ここはパンツェール・パンチラーノ王国の王宮の一室です」
「パンツ?パンチラ?随分と変態チックな国だな……」
フロールさんは俺の言葉に対して咳払いをした。
「……とりあえず王女様に会っていただけますか?詳しくは王女様からお聞きください」
俺はフロールさんに連れられて王宮の最上階にある王女の部屋に通された。
王室は随分な広さがあり扉から玉座まで一直線にレッドカーペットが伸びている。
そこには銀髪のロングヘアーで純白のドレスを身に纏った王女らしき人物が座っていた。
王女はとても大人びた顔つきをしており、近寄り難いオーラを放っていた。
王女の両隣にはフロールさんと同じ格好をしたメイドが一人ずつ立っている。
「王女様。お連れ致しました」
フロールさんは王女様に一礼して俺に前に出るように促した。
王女の少し手前まで歩を進めると王女は椅子から立ち上がった。
「突然、このような場所にお連れして大変申し訳ありませんでした。さぞ困惑して居られるでしょう」
王女の声はとても澄んでいて、耳に心地よかった。
「貴方をこの世界に招いたのは私です。私はこの国を治めているレイラ・パンチラーノと申します」
「名前については何も言うまい。俺は宮内和真です。何故俺を招いたんですか?」
「適正値が他の人に比べてとても高かったからです」
王女は話しながら再び玉座に腰を下ろした。
「適正値?」
「はい。この適正値はとても重要で、高い方でなければならないのです。適正値が低いと死に至る可能性があるからです」
何やら物凄い話になってきたな……
俺……もしかして、かなり面倒な事に巻き込まれてるんじゃ……
少なくとも予想は出来る。平凡な日常は送れそうにない事を。
「で、何の適正なんです?」
「パンツです」
「は?」
俺は王女の言葉に硬直してしまった。
何だって?今何て言った?
「何ですって?」
「パンツです」
聞き間違いじゃなかったか……
パンツの適正値だと?どういう意味だそれは。
「カズマ。貴方はパンツ適正値が高く、力をもって居られます。なので私が貴方をこの世界に招いたのです。パンツ適正値が低いと死に至る可能性があると言いましたが、高い場合は驚異の力を発揮します」
先程から銀髪美人の王女様がパンツを連呼している。
最初の近寄り難いオーラは何だったんだ……
「俺……正直言って、パンツにあまり興味無いんですけど何故適正値が高かったんですか?」
俺の言葉を聞いた王女が驚愕し玉座から立ち上がる。
「興味無いんですか!?何故ですか!?ちょ……嘘ですよね!?」
王女はかなり焦っているようで最初の雰囲気が台無しになっている。
「嘘吐いてどうするんですか?」
「そんなはずはありません!貴方は自分に嘘を吐いて居られますね!今までにも数人、パンツ適正値が高い方を見ていますが、その全員がパンツ大好きな方々だったのですよ?」
そんなこと言われても困る……
俺はパンツに興味は無いし勝手に適正値が高いだの何だの言われても俺にはどうしようもない。
「では試してみましょう!」
王女はそう言うと同時に自分の腰に両手を当てて自分のパンツをずり下した。
「何をして……」
「さぁ!これを頭に被りなさい!」
何をしているんですか?と問いかけようとしたのだが王女の言葉によって遮られた。
王女は自分の穿いていた純白のパンツを俺に渡そうと近寄ってくる。
そして王女の落ち着いた雰囲気はどこかに行ってしまっていた。
「被る!?何故に!?」
「いいから被りなさい!これは命令です!」
そう言いながらどんどんと歩み寄って来る。
「理由を言え!理由を!」
もう敬語なんて使ってられるか!
何なんだこの変態王女は!
少しでも大人っぽいって思った俺が馬鹿だった!
「説明するより被った方が早いのです!」
「黙れ!何で理由も無しに俺があんたのパンツなんて被らなきゃいけないんだ!」
「被れば理由がわかります!」
「だからその理由を話せって言ってんだよ!」
「説明が長くなるんです!ですから!」
「長くても良いから話せって!」
「いえ!被ればわかるので説明はしません!」
「結局被らせたいだけじゃねぇかよ!」
クソ!この変態王女と話してても埒が明かない。
「フロールさん!説明を!そして助けて!」
俺はフロールさんに助けを求めた……がしかし……
「被ればわかりますよ」
味方が居ない!
「さぁ!被りなさい!さぁ!」
王女は少し息を荒くしながら俺の頭に自らの下着を近づけて来る。
「あんた!何か息が荒くなってるぞ!おい……やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の絶叫も空しく王女が身に着けていたパンツは俺の頭に装着されてしまった。
男が相手ならブッ飛ばして逃れることも出来たかもしれないのに……
「これで大丈夫です!」
「何が大丈夫だ!俺は大丈夫じゃない!」
「カズマ。貴方、自身の右手を見てみてください」
「右手?」
王女に言われ、自分の右手に視線を落とすと俺の右手が微かに光に包まれていた。
何だこれは?
「その光る手を左腕の擦り傷に近づけてみてください」
左腕を見ると確かに擦り傷があった。いつ怪我したんだ?
「私が少し」
「あんたか!」
全く何て変態だ。知らない間に擦り傷まで付けられていたなんて……
とりあえず俺は言われた通り左腕の擦り傷に光る右手を翳した。
すると、左腕の擦り傷が綺麗に消え去った。
「これは……」
「治癒の力です」
「治癒だと?」
「はい。これでお分かりになりましたか?」
「全く」
「ですから、貴方はパンツを被ることでそのパンツの持つ力を自分の力として使うことが出来るのです」
何だよその変態的な力は!嬉しくねぇよ!
王女は変態だし、自分のパンツを人の頭に被せるし、もう滅茶苦茶じゃねぇか。
「我が国は今、隣国と争っているのです。我が国には戦力が少なく隣国に対抗し得る力がありません。貴方をこの世界に招いた理由は隣国に対抗する力になっていただく為です。貴方には我が国を救う力があります。我が国を救う為に戦っていただけますか?パンツで」
「んなことできるかああああああああああああ!!!」
こうして俺は変態王女の半ば強制的な決定により、変な争いに巻き込まれてしまった。
これから俺はどうなってしまうのだろうか……
ちゃんと日本に帰れるかな……