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共同生活 ②

「ゾンビ映画もいろいろタイプあるんだね」


「そうなんだよ! そこが良いんだよ! どう? ゾンビ映画って最高でしょ!」


「面白いっちゃ面白いんだけど……」


「けど?」


「あ、いや……やっぱりなんでもないや。気にしないで」


 そう言って坂口は体育座りをして顔を隠してしまった。グロテスクなシーンが多かった所為だろう。




 時刻は午後0時半。計4本の映画を半ば強制的に見させたが坂口は特に嫌がりもせず、悲鳴も一切上げずに真剣に見ていた。時折設定がよく分からないなどの質問をするだけで、俺のベッドを独占し壁に寄りかかって見ていた。


 2階の窓にも防音対策はしてあるがもちろん大音量にすることが出来ないのでかなり音量を低くして見た。外が似たような状況だからか、音量を低くして見ると何故だか怖さがいっそう増す。



「結局さ、外にうじゃうじゃいる奴らって殺せるのかな? ゾンビって頭をやれば動かなくなるんでしょ?」


 体育座りからそのまま寝転んでいた坂口は顔を上げ眠そうな顔で俺に質問してきた。


「そこなんだよ。まぁ性格にはゾンビは蘇った死者なんだけど、今見せた映画のゾンビは感染者って呼んだ方がいいな。外の暴れてる奴らは、見た目は完全に映画の感染者だけど、頭勝ち割っても動いてるんだったら人の少ない田舎に逃げるしかない」


 本当に逃げるとなると車とかが良いんだろうが、免許も無いしゲーセンの車しか運転した事が無い。徒歩だと疲れるし、途中襲われたら絶対死ぬ。


「田舎って、たとえば?」

「東京だったら八王子とかかなぁ。それか荒川を登って埼玉に行くとか……栃木は遠いし千葉も都心抜けないとだし」

「でも東京から出れないなら埼玉は無理じゃない?」

「確かにそうだけど、こういう事態になった場合は制御不能になるんだよ。しかも東京で起こったんだからそのうち日本中に広がるかも」

「何でも映画と比べたがるよね、樹の癖だね」

「うっせ」



 ゾンビか感染者か得体の知れない化け物か。それによって今後がかなり変わる。ホームセンターに篭るのも良いがそれは人が少なくないといけない。人が多いとそれだけトラブルが増える。中の人の性格にもよるが。まずは武器が必要になるな。



「そーいえば、ホームセンターってどこのだ? 学校のあたりには無かったと思うけど」

 坂口はうつ伏せになりながら両足をふらふら動かしている。

「一番近いのは隣町だよ。ここからだと隣の隣になるのかな?」

「めちゃくちゃ遠いじゃねーかよ。とりあえず武器になりそうな物を探さねーとだな」

 

 俺の提案を聞いて坂口は顔を上げ、俺をガン見して質問してきた。

「でもいざというとき使える?」

「え、あ……ムリっす……」

「だと思ったよ」

 そう言って坂口は大きなあくびをして俺のふかふか枕にボフッと顔を伏せた。枕返して下さい。

「あの~、そこ俺のベッなんすけど」

「ふぇぁ? いいじゃん……てか……おやすみぃ~」

「え……。お、おやすみ」


 4本もゾンビ映画を見させてしまったのにそこをどけと言う訳にもいかず、夢の世界へ旅立ってしまった坂口に毛布をかけてやった。

 ゾンビ? が現れてから色々な事があった。無きゃおかしいが。初めて女の子が家に来るわ、一緒にご飯食べるわ、風呂を貸してやるわ、ベッドを取られるわ。人生の運というものを全て使い果たしてしまってはいないかと心配になる。

 

 寝ている女の子の顔を見てるのも変態じみているので、とりあえず寝ることにしよう。



 あ、彼女でもない子とおんなじ部屋で寝るってまずいか?

 いやいやでもここは俺の家だし。いやでも朝起きて変態扱いされるのも……。



「……どうしたら」







 

「樹……起きて……」

「ん……まだ眠い」

 坂口の声だ。俺を起こそうとしているのだろうか。どうやらあのまま自分の部屋の床で寝てしまったらしい。

「ねぇ……起きてよ……ねぇ……」

「分かったよ起きれば良いんだろ起きれb……」

「いただきまぁ~す……あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「お、やっと起きた! もう朝の9時だぞ寝ぼすけ」


 俺はまるで天敵から逃げるエビのような速さで坂口から逃げ、部屋を見渡した。


「あ、あれ?」


 おかしい。ゾンビの大群がいない。坂口も普通だ。血塗れじゃない。息切れを起こして少し頭がクラクラしてしまった。自分のさっき見たことがよく理解できない。なんだったんだあれは……。







 

「ぶっっふふふふっそれあはははははっ!!」


 椅子が倒れるほどの勢いで坂口が大笑いしていた。


「あんまでかい声で笑うなよ。てか、うなされてたの知ってたんなら起こせよ! あとご飯粒飛んでくるんだけど……」

「いやぁ、うなされてる男なんて初めて見たから……ぶふぉっ!」



 俺はリアルにヤバイ夢を見た。起きたと思ったら俺に血だらけの坂口が馬乗りになって周りには今にも襲い掛かってきそうなゾンビが俺をガン見していたのだ。そして最後は「いただきます」と言われ坂口とともに周りのゾンビが俺に襲い掛かってきたのだ。そりゃ叫ぶだろ。でも女の子に一度は馬乗りされてみたいなぁ~。


「えへっえへへへへ」

「はいチーズ!」

「だぁぁッ!! てめッ、何勝手に撮影してんだよ!」

「へぇ~、なんの?」


 ニヤニヤしながら坂口が俺に聞いてくる。ほんと勘弁して。


「人にホラー映画見せるからバチが当たったんだよ。ざまぁ見なさい」

「……」


 俺達はリビングに降りておにぎりとベーコン、卵焼き、味噌汁を食べていた。もちろん俺が2人分作った訳だがこうも笑いものにされては飯が不味くなる。坂口は携帯のカメラで撮った俺の顔を見ながらおにぎりをバクバク食べていた。人のニヤケ顔で飯が食えるのかコイツ……。





 ドンドンドンッ!!





「ひっ!?」

「……まさか」


 俺達は防音対策したはずのキッチンの窓を見た。何かが窓を強く叩いている。食べる手を止め、俺と坂口は椅子から立ち上がった。今まで家に外の奴らが来るなんて事は無かった。それは俺が一度も外にでなかったからだ。もし今外で窓を叩いているのが奴らだとしたらここまで来た原因はひとつしかない。


「坂口、お前ここに来る途中何かあったか?」


 恐る恐る坂口に小声で聞くと即答された。


「あった」

「てめぇちゃんと着けられてないか注意して来いよ。家まで連れて来てどうすんだよ!?」

 

 数分待つと、窓を叩く音は止み、代わりに玄関からノックする音が聞こえた。


「ノックしてるな」

「ノック出来るって事は大丈夫なんじゃ……」


 玄関から外を覗くと黒いスーツを着た若い男が立っていた。


「おい、誰かいるんだろ? 頼む、入れてくれ!」


 男はそう言うとノックを続けた。その顔は少しやつれていて目の下にはクマが出来ていた。俺はしばらく観察してから包丁を片手にドアを開けた。


「おぉ、ありがとう……3日間ろくに食べてないんだ」


 俺は背中に包丁を隠しながら男を中に入れた。スーツを着た男はところどころに血が付いていた。それは坂口も気付いたようで、俺とアイコンタクトをとりながら男に朝ごはんの残りを与えた。涙を流しながら食べているあたり、相当つらい目にあったのだろう。


 

「俺は火鷹樹です。コレは坂口です」

「コレって……。坂口史花です」


 坂口に睨まれつつも、男の行動に注意する。男は手を止め膝に手を付き、改まった姿勢で口を開いた。


「僕は宮元誠也みやもとせいや。警察官だ。一応刑事だった。助けてくれて本当にありがとう」

「刑事!? 何で刑事さんがこんな所にわざわざ?」


 ドラマとかでは良く見る刑事だが実際目にしたのは始めてだ。普通の優しそうな……もとい、汚い男にしか見えないが、刑事という言葉が添えられるだけで印象がガラリと変わる。

 俺の質問に宮元誠也は悲しげな表情になりながらも、ここまで来た経緯を話してくれた。

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