終わりが始まった日の夜
まだ一日が終わらないんですよね。
何事も初体験は短く感じると思いがちですが、怖いこととかは長く感じるものなんですよ。……多分。
少なくとも書いてる本人はかなり臆病ですw
俺達は日向野の家から怖くて出られずにいた。時刻は午後17時、話し合いなんてとっくの当にやめて6人全員でニュースを見ていた。
「現在国会議事堂前は大混乱に陥っています! 現在警察、機動隊が謎の狂乱者達の鎮圧に当たっています。 政府の緊急発表によりますと、謎の伝染病が世界中で大流行し都市の機能が麻痺するなどの被害が出ているそうです! ここも危なくなってきました。 私達も安全な場所に退避します! 皆さん! くれぐれも外出は避けてください」
いつもの女子アナウンサーが国会議事堂前から命がけで報道を続けていたが、とうとう非難するようだ。だが国会前がそんな状態でいったいどこに非難するというのだろう。都心は渋滞だろうし逃げなんてないんじゃないだろうか。
「あ、あれ!! あれ撮って!」
一度は終わるかと思った現地の映像が銃を持った警察官を捉えた。警察官は襲い掛かってくるゾンビらしきそれに向かって、握り締めている銃の引き金を引いた。
直後、銃声と共にゾンビは倒れた。
「発砲です! 警察がとうとう発砲しました!!」
「こりゃぁ、完全に世界終わったな」
そんな無気力に発した一言で、TVに釘付けになっている皆の視線が一気に俺に集まる。
「なんか樹ってさ、何もかも諦めてる感じだよね~」
「専門家の意見と言え」
「引くわぁ……」
日向野以外の全員が座ってる俺から若干距離をおいた。
……傷つくからやめてよそーゆーの。
「火鷹って……変わってるな」
「グハッッッッッッ!?」
日向野に止めを刺された俺はしばらく立ち直れなくなってしまった。
20時。
俺達は困っていた。
電話は繋がらなず、外も危険で出れない。俺達はドアや窓の鍵を全て閉めて日向野の家にしばらく立て篭もる事にした。とりあえず全員風呂に入り、武器になりそうな物を探したりした。その結果、見つかったのは、包丁4本。
「なんか他に武器とか無いの?」
「無いな」
さすがに現実はゲームの様に上手くはいかないな。
日向野の家は2階建ての極々普通の家だ。唯一普通じゃないとすれば、日向野の妹が引きこもりだと言うこと。
名前は日向野光梨。聴覚に障害を持っているらしく、何人もの人が喋っている言葉が鮮明に耳に伝わってくるそうだ。ようは普段聞き流せる他人の会話が全部聞こえてくると言う事だ。
最初は気にしていなかったらしいが、自分の陰口がクラスで言われ始めてから学校に行きづらくなったらしい。がんばって自分の話題が飛び交わない場所を探したらしいが当然学校に静かな場所は無いし、女子のトーク程怖いものは無い。様は、学校での自分の居場所を失ったのだ。
「お腹減ったぁ〜、怘なんか作って〜」
「なんで俺なの……」
全員お腹が減り生気が無くなっていた。いろいろあった所為で朝ご飯以外何も食べていないのだ。もちろん俺、火鷹樹も例外ではない。
「じゃあ、樹なんか作ってよ〜」
「おっけー」
「へ?」
TVの前でうつ伏せになっていた坂口が予想外の反応に飛び起きた。それに川口、甲野も食いつく。
「え、火鷹って料理出来るの?」
「もう何でも良いから食わせてくれ……」
二人の言葉に俺の中のスイッチがONに切り替わった。完全に俺を馬鹿にしてやがる。
「日向野、冷蔵庫見せてもらって良いか?あと、インスタントラーメン無いか?」
「え、なんか樹が急にやる気になった!?」
「インスタントならそこの戸棚にあるよ。冷蔵庫の物は勝手に使ってもらって構わないけど……」
俺は戸棚からインスタントラーメンを7人分出し、冷蔵庫にあった白菜、もやしを取り出す。白菜を一口サイズに切りもやしと一緒にフライパンで炒め、その間にラーメンのスープを作った。皆、普段と違い過ぎる俺の様子に驚きを隠せない。どうだ、コレが暇人スキルだ。
「火鷹って普段……料理、してるのか?」
「う……うまそう」
日向野と甲野が近くに寄って覗き込むので追い払う。すると座っている笹木さんが苦笑いで俺に言う。
「火鷹さんって意外性の塊ですね」
少々ムカついたが、まぁ初めて自分の料理を他人に食べさせるというシチュを体験させてくれた一人だし、大目に見てやろう。
サササッとラーメンをスープに入れ、同時に白菜、もやしも入れる。そのまま待つ事3分。
「完成だ」
「「うぉぉぉぉぉっ!!」」
歓声が巻き起こる。自分でも驚いたが15分も経たないうちに味噌ラーメンを作ってしまった。
テーブルを2つ使い7人分にラーメンを分ける。だがインスタントラーメンの量が量なので1人1人の分はかなり少ない。わんこそば程度だ。更に麺がインスタントなのでコシもない。
「え、私の分も作ってくれたんですか?」
「なんだ?いらなかったか?」
日向野光梨が自分の前に置かれたラーメンを見て俺に問う。俺は普通に全員分作っただけなので彼女の言葉の意味がよく分からなかった。
「い、いや、驚いただけです。ありがとうございます」
「気にするな、美味いかは保証出来ねーけど」
始めて女の子にラーメンをご馳走出来ると思うと、モワモワモワ〜っと心の奥底から照れる感覚に襲われた。小学生か俺は!?
「「いっただっきまーす!」」
「美味いですよ!」
「美味しいよこれ! 樹天才!」
「凄く、美味しいです」
笹木、坂口、光梨と連続で誉めてもらった俺の顔のニヤニヤはマックスになっていた。男共も何か言ってるな。聞こえん。
「でもここまで美味しいとそれはそれで不気味だね」
「待って!?何でそうなんの!?」
坂口から全く持って意味不明な台詞が飛んできた。
「家庭的な男の子はモテるんじゃないの!?」
「まぁそれもそうなんだけどね~、人とあんまり喋んないのに意外すぎというか......」
「あ、でもっ......」
光梨が何か言いそうになったが、不味いことでも言いそうになったのか口を閉じた。坂口が「なになに?」と顔を除きこむと意を決したのか目をキラキラさせ両手をコネながら......。
「その意外性とギャップが良いんじゃないですかぁ! 普段内気な男の子が実はめちゃくちゃ家庭的な超出来る人なんて早々無いですよぉ! あとですねーー」
しばらくの間沈黙が続き、光梨だけが関係ない事をベラベラと喋っていた。日向野は「あ~」と頭を抱え、残りの男子2名はドン引きしていた。
俺は光梨が何故学校で居場所を失ったのか何と無く分かった気がした。とりあえず光梨のキャラが分からん。ジャンルが違う。
「なるほどなるほど、ギャップか! 確かにアリだね!」
何を納得したのか坂口は光梨と意気投合していた。
しばらく経ち、女子が寝静まり男子は日向野の部屋で話し合いをする事になった。部屋は俺の部屋より少し狭いくらいの洋室。ベッド、机、TVが置かれているが物の配置が良いのか、空きスペースが広い。
「それじゃ、明日は火鷹の家に行ってみようか。みんな家遠いし」
「だな、でも自衛隊の駐屯地まで行った方がいいんじゃないか?」
「待ってくれ、何で俺の家に行く事になってんの?」
話の流れはいつしか近いからという理由で俺の家に行く事になっていた。
「なら私も行く!」
「「ひぃっ!?」」
俺含め4人全員心臓が止まるかと思うほどビクった。いつの間にか坂口が部屋にいたのだ。
「いきなり脅かすなよ坂口」
俺がそう言うと坂口は何か考え込むように腕を組んだ。
「どうした坂口?」
「その坂口っての、めんどくさいから史花でいいよ。いちいち苗字じゃ呼びづらいでしょ?」
「……は?」
みんな口には出さなかったがコイツ何言ってんの? って目で見ていた。
「だから今からみんな私のことは史花と呼びなさい! 分かった?」
「「はい」」
「声が小さい!」
「「はい!」」
「よろしい」
今後が心配だ……。