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家族と仲間①

今回は坂口視点です。

10万pvありがとうございます!

 友梨さんはソワソワしていた。台所や二階のベランダを行ったり来たり。宮元さんは窓の外を覗いては木刀にガムテープを巻き、包丁の手入れ。怘は光梨ちゃんとリビングのソファで大人しく座っている。美乃梨ちゃんは上から降りてこない。希美ちゃんは部屋の隅で蹲って何かブツブツと言っていた。


「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

「希美ちゃん? 大丈夫?」

「へぁああ!?」


 かくれんぼで見つかった子供みたいな声を上げて、希美ちゃんは飛び上がった。


「あ、ごめんね。脅かすつもりはなかったんだけど」

「い、いえ。すみません。ほんとすみません」


 以前、樹や怘に言われた事がある。「お前フレンドリー過ぎるんだよ」と。もっと丁寧に喋れば良いんだろうか?

 確かに見ず知らずの歳上の家に上がらせてもらってるうえ、その仲間が二人、隣の家で閉じ込められてるのだ。多分、どうしたら良いのか分からずにいるのだろう。

 どうしたものか。


「あの、どうぞお気になさらず。協力出来る事なら何でも協力しますので。はい」

「え、協力って。まさか追い出さられるとかーー」


 私が言い終わる前に希美ちゃんは泣いてすがって来た。


「お願いです! 追い出さないでください! 何でもしますからお願いです!」

「え!? そんな別に」


 驚いた私は二〜三歩後ろに下がった。彼女の瞳はを真っ直ぐと見ているが、何を勘違いしたのだろうか。余りに真剣に言うものだからその場に居た宮元さんや、怘達がこちらに視線を向ける。

 今はみんなに迷惑を掛ける訳には行かない。それに友梨さんは今ピリピリしている。何が引き金で仲間割れが起こるか分からない。こんな時に樹に見せられた映画が役に立つとは思わなかったな。


「と、とりあえず上行こう? そして落ち着こう」

「うぅ……。すみません。すみません」


 「すみません」を無視して私は彼女の手を握り二階へ連れて行った。一体何があったのだろうか。何をどうすればここまで怯えるのだ? ゾンビが原因なら怯え方が違う気もする。彼女は追い出さないでくれと訴えているのだ。

 友梨さんの部屋には恐らく美乃梨ちゃんもいるので、今は誰も居ない樹の部屋に入った。

 中はなんと言うか、体育の後みたいな臭いがする。前は感じなかったが人数の問題か。て事は風呂に入れてない私達も相当臭いのでは?

 いやいや、今の論点はそこじゃない。落ち着こう私。

 椅子を出してそこに座り、希美ちゃんをベッドに座らせる。


「よし、何でもこの史花様に話してみなさいな。今なら期間限定無料サービスでどんな悩みも解決したるよ〜!」

「……」


 こうなればヤケクソだ。話を聞いて貰えるだけでも楽になれるものだ。さっきの怯え方。距離をとってる感じがする。自分は上がらせて貰ってる立場。とりあえず距離を縮めなければ。


「あの、えと、はい?」

「だーかーらー、何か話しなさい。コレハメイレイダ」


 ふざけて聞けば笑って何でも言ってくれるんじゃないか? と思って言ってみたが、首を傾げたまま涙を袖で拭っているだけで話そうとしない。何なら話すのだ。


「なら趣味! 得意技! 必殺技! この三択の中から選びたまえ」

「……すみません」


 くっ、手強いな。どうしよう。積極的に人に質問て苦手なんだよなぁ。てか必殺技って何? 私、頭大丈夫か?


「私の趣味はねぇ、色んな人を尾行してね、自分専用の地図を作る事なんだ」

「え……犯罪者なんですか?」

「え」

「すみません! 何でもないですすみません!」


 何でみんな犯罪者扱いするかなぁ。後でちゃんと尾行してたって言うし、プライバシーの侵害にもならない。ばらさないし。興味無い人は尾行しないし。あくまで地図作りの一環だ。アプリより役に立つ自信がある。


「将来無駄な行動を避けるための地図を作成してる。これなら良いでしょ? マッピング? で合ってるのかな?」

「そ、そうですね。でも宮元さんは大丈夫なんですか? 警察なんですよね?」

「あぁ。目の前で尾行! って大声で言ったけど大丈夫でしょ。多分」

「えぇ!? 逮捕されたらどうするんですか!?」

「脱獄チャレンジします」


 立ち上がり真剣な目で言って来たのを見ていちいち反応面白いなぁとか思いつつ、質問してみる。


「ねぇ、希美ちゃんの趣味は?」

「……趣味ですか」


 希美ちゃんは申し訳無さそうに俯いて答えた。


「実は趣味と言えるのがほとんど無くて……。あ、でも裁縫はそこそこしますよ。授業では用語分かりませんが、やり方はバッチリだと思います」

「へぇ! 裁縫かぁ。じゃあ自分で何か作ったりするの?」


 私は裁縫が苦手だ。図面を見たり引いたりするのは好きだが、縫うのに色々指図されるのがムカついて集中出来ない。玉留めすら出来なかったりする。感でやって良いというなら大歓迎だが、中学の頃友達に笑われて嫌な思いをした。苦手という表現は適してないな。嫌いだ。


「マフラー編んでみたり、後は一つだけ人形作ったこともあります。小さいゾウ作りました」

「本格的だなぁ。凄いなぁ、私裁縫下手でさぁ。なみぬい? ……くらいしか出来ないんだ」

「あ、なら今度教えますよ! 簡単ですから」

「ありがと〜」


 とは言いつつも、絶対嫌だなぁと思っていたのは墓まで持って行くとして。大分笑顔になってきたので、そろそろホームセンターに居た時、着くまで何があったのかを聞いてみるかな。ただ、怯え方がかなり酷いので慎重にしなければ。


「そういえばホームセンターにさ、裁縫道具って置いてなかったっけ?」


 サラッとホームセンターと言ってみたが反応は無い。このまま続けてみよう。


「はい、バラバラにですけど幾つかありましたね」

「今みたいに他の人と話したりはしなかったの? 裁縫とか」


 『他の人』それを聞いた途端に希美ちゃんの顔から笑顔が消えた。やっぱり何かゾンビ以外であったに違いない。もっとストレートにいってみよう。


「どうやってホームセンターに辿り着いたの?」

「まぁ、映画とかで見た事あったので」

「学校の友達とかは? ホームセンターに残ってたりしないの?」

「いえ……私一人でした」


 何かを思い返したのか、希美ちゃんは声が裏返った。目元が少し震えている。


「無理にとは言わないけどさ、何処か安全な場所に避難出来るまでは少なくとも一緒だし、仲間が辛い思いをしてたら何たらと言うか。イジメとかそーゆーのをもしされてたなら、言った方が楽だよ? どうせそんな奴ら、この辺りには残ってないだろうしね。ある意味、過ごしやすくはなったはずだよ」


 希美ちゃんが俯きながらも、小さく頷く。ストレートに言い過ぎてしまった。

 少し鼻をすすっていたので、辛い思いをした事は確かだろう。しかも追い出された、或いはされそうになって脅されたり。



「坂口さんは……何で?」

「ん?」

「何でそんなに普通で居られるんですか」

「普通……かな?」

「普通に見えますよ。いえ、普通過ぎて怖いです」

「サラッと酷いなぁ」


 俯きながらゴニョゴニョと喋るその姿はふてくされてる子供みたいだ。普通過ぎて怖いなんて。普通に見えてるのか、私。


「まぁいろいろ本題だけど、私達は希美ちゃんを追い出したりしないし、ましてや殺さない。そんな事になったら私が守るし一緒に出ててく。良い?」

「……はい」


 凄い無理矢理まとめたけど、これでさっきみたいに騒ぐ事も無くなるだろう。関係も友達とまではいかなくても、頼れる先輩にはなったんじゃないかな。

 


「てか、何の話してたっけ?」

「あ、裁縫です」


 切り替わりが早いのかなんなのか、希美ちゃんはすぐに笑顔に戻った。

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