終わりが始まった日 ③
大変遅くなりました。
「何だよ火鷹?」
「この学校から出る方法を思いついた。でも全員は助かる保証は無い。多分」
「え!? それってどんな方法なんだ?」
川口含め4人は俺に目を向けた。
「多分下に居た連中を殺したのは、笹木の話を聞く限りゾンビなんじゃないか? 信じられないがすごい似てるんだ。噛まれた奴も一緒になって襲い掛かってくるなんてそれしかないだろ……。でもゾンビにもいろいろあるから、感染病かもしんないし」
「わ、私もそう思います!」
俺が喋り終わる前に、笹木が前に乗り出す。
「そこでだ。数々のゾンビ映画で良くある様に恐らく噛まれた奴はゾンビになる。だから下にあった死体も恐らくゾンビになる。多分な。その前に、武器になりそうな物持って何個かのグループに別れて、学校から出るんだ。そして校庭に集合して帰り道が同じ奴とかと一緒に帰るんだ。恐らく何処かのグループは犠牲者出るかもだけどな」
「マジかよ…おい…」
「私は良い方法だと思うけど?」
「ほ、ホント他に方法は無いんですか?」
川口と笹木は困惑していた。現実を知った上で俺が出した結論と作戦に。正直、目の前でマジマジと観察出来る映画と違い、ただ似てるだけの何かで、対処法も同じかも知れないってだけだが。
日向野は腕を組み、何やら考え込んでから口を開いた。
「いいんじゃねぇかな。確かにそれ以外思いつかないし」
どうやら賛成してくれる様だ。だが川口は微妙な顔をしている。無理もない。俺がやろうとしている作戦は犠牲者が必ず出る。だが大人数を学校から脱出させるにはこれしか無い。二階の遺体が全部蘇ったりしてたら、全員で逃げ切るなんて不可能だ。非常階段に出ても、おかしもを全部破る事間違い無し。ゾンビ関係無しに誰かが死ぬ。
みんながこうも簡単に話を聞いてくれるのは、外の惨状を既に見ているおかげだ。見てなかったらきっと誰も信じてくれずに、俺は笑い者にされてた。若干引かれてる気はするけど。
「樹ってゾンビ映画詳しいね」
「そ、それが良いと思います!」
坂口と笹木はもう完全に賛成だな。思ったより良い奴らだな。
「でもそれみんなが聞くと思うか?」
川口が一番痛い所を突いて来た。ここがいちばん問題なんだ。俺はクラスに友達と言える人間が出来る程の会話を普段余りしない。
つまり「何言ってんの? お前?」「てめぇが囮になれよ!」って事になるのだ。まともに取り合ってくれるか分からない。川口の様に誰でも同じ様に接する人間は珍しいのだ。
「あ……」
「どうした?」
「川口、お前の意見って事にすればみんな聞くかもしれない!」
なんて俺は頭が冴えてるんだ!
目の前にさっきから上位の人間がいるじゃないか!
こいつの意見にすれば恐らくみんな聞いてくれるだろう。
川口にお願いし、みんなに話をしてもらう事にした。
「はぁ!?」
「それ囮じゃねぇかよ!!」
「落ち着いて話を聞いてくれ! 全員で降りたりしたら校舎に入って来た連中が集まってくるだろ?」
多少の反対もあったが、早く逃げたいの一心でみんなは賛成した。
ほうきを折って先を尖らせた物が3つ。カッターが2つ。ハサミが4つ。武器は9個。
いちばん強そうなほうきが3つなので、班は3つになった。俺の班は、俺、川口、坂口、日向野、笹木、大田、甲野だ。班編成は行きたい奴と適当に組むだけなので、ホントに適当だ。
でも周りを見ると未だにヘラヘラしてる連中がちらほら。俺のよく知るゾンビならあんな連中が真っ先に死ぬ。それにこの状況を楽しんでいる馬鹿もいる。俺もだけど。
現実にゾンビが現れたとしても、人はそれを目の当たりにするまで信じようとしない。上っ面だけ信じていても意味は無いのだ。
「樹、ちょっと」
坂口が俺を呼ぶ。てかなんで名前で呼ぶ。
とりあえず坂口のいる教室の隅に向かう。
「なんだ?」
「思ったんだけどさ、みんなゾンビの事本気にしてないよね?」
「気が合うな、ちょうど俺もそう思ってたところだ」
それを聞くと「さ、さすがぁ……」と言って俺に1歩近ずく。聞いといてそりゃねぇだろ。
「今までクラスメイトを尾行しまくってた私には分かる!」
「は? 尾行?」
「樹は絶対生き残れるタイプだよ!」
そう言って親指を立て笑う。
なんかとんでもない事言ったよなこいつ。聞き違いじゃないよな?
ペタッ…ペタッ…ペタッ…ペタッ…
「しっ! 何か歩いて来たぞ」
川口の言葉に皆が静まりかえる。よく耳を澄ませば、上履きのペタペタという音が聞こえる。
俺達は音の主がすぐにヤバイ奴だと分かった。原因はそいつの出す声だ。
「……あ”ぁ……ぁ…あ”ぁぁぁ」
ホントに映画やゲームで聞くゾンビの声なのだ。俺もビックリして心臓がバクバク鼓動を早めていた。ドアのすぐ向こう側に、ゾンビそっくりの死体が歩いているのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
突然の悲鳴に全員が静まり返る。方向からして、体育館とかその辺りだろう。
ペタッ…ペタッ……ペタッ………ペタッ……………
「行った見たいだな…」
俺達はホッと胸を撫で下ろした。まさかこんなにも早く教室前まで来るとは俺も思ってはいなかった。
しばらくしてから全員で静かに教室を出た。ここからは班行動で各階段を使って降りる事になってる。俺達は東階段だ。先程使った中央階段ではなく、校舎の端にある階段だ。
全員最後の挨拶を交わして班行動に移ろうとした時、中央階段から物音がした。
全員音のする階段を見る。
「あ”ぁぁぁぁぁ!」
1体のゾンビが階段を登ってきたのだ。
「き、来たぞ!」
3年の男が叫ぶ。そしてもう一人の3年の男がほうきの棒を持ってゾンビに向かって行く。
「けっ、1体くらいならこの棒で」
「待てよ期森! そいつ俺の友達なんだよ! 下見に行った奴だ!」
どうやらあのゾンビは下を見に行った3年生らしい。こちらを見つめる目に生気は無く、歯茎を見せてただ呻いている。
棒を持つ3年生はさがり、2人の3年生がゾンビに近づき語りかけた。
「な、なぁ、大丈夫かよ? しっかりしろよ!」
「あ、あのあんまり近づくと危ないんじゃ……」
川口が3年に言うが、先輩にはさすがに指図はしづらい。他の2年も黙って見守る。みんなどうなるか心配で見守る。
俺は次の展開が安易に想像出来た。最悪の結末だが次は恐らく噛み付かれて……
「なぁ、しっかりし……痛っってぇぇぇぇぇ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! ぎゃぁぁ…ぁ……」
最悪の事態になってしまった。近づく3年生の首にゾンビが噛み付いたのだ。そのまま押し倒され、血がシャワーの様に吹き出し噛み付かれた3年生は絶命した。
みんな状況が理解出来ないらしく、固まってしまっていた。
この場合平然と立っていられる俺がおかしいのだろうか。俺は頭の中で、似ている映画のシーンと比べていた。皮膚を食いちぎり、クチャクチャと咀嚼して飲み込む。死んでいるはずのその身体にその様な行為が何故必要なのかは分からないが、そんな無駄っぽい所も映画そっくりで、人が襲われているというのに、ゾグゾクと震えてしまった。興奮で。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
女子の悲鳴が木霊し全員の耳に刺激が走った事により、みんな慌てて逃げ出し始めた。
何となく班行動通りに別れて逃げ始める。だが最悪の事態はまだ続いた。噛み付いたゾンビの後ろから大量のゾンビが階段を登ってきたのだ。スピードは遅いが100体はいそうだ。
俺の班は途中で教室に入りドアに鍵をかけた。外からは絶え間無く悲鳴が聞こえてくる。
川口は既にパニックになっていた。
「これからどうする? もう廊下は使ないぞ!?」
確かにもう廊下は使えない。今出たらきっとゾンビに殺される。俺達が入ったのは4組だ。俺達の班以外にもう一人男が入ってきていた。こいつは俺と同じクラスだが名前すら知らん。一言で表すなら地味だ。そいつが口を開く。
「窓から出てすぐ隣の非常階段に出るなんてどうかな?」
「それだぁ!」
川口がその男を指差す。なにが「それだぁ!」だよ。かっこつけてる場合じゃねぇだろ。
窓の外には30cm程の足場があり、俺達はそこを使って非常階段まで行くことに成功した。途中、笹木が落ちそうになったが、日向野が助けまくっていた。お疲れさん。
非常階段を下りるとちょうど生き残った連中も下駄箱から校庭へ出てきた。馬鹿かあいつら? なんでわざわざ楽な上履きじゃなくローファーに履き替えてんだ!? まだ自分達の状況が理解できてないのかよ!?
逃げてくる生徒の後ろから今まで出くわさなかったが、3階で見たゾンビの倍の量の大群が押し寄せてきた。いったいどこにあんなに隠れてたんだ?
俺達も遅れをとらないよう急いで正門を出た。