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映画の世界

早めに投稿出来たヽ(´∀`)ノ

 最悪の状況だった。ゾンビに囲まれ外に出る事が出来ず、家に帰れない。しかも食料は俺達があるだけ持って行ってしまった。今あるのは工具箱くらい。


 この家の玄関が鉄製の頑丈なドアだったのと、カーテンを閉めて静かにしていたらゾンビが窓を叩かなくなった為、今はゾンビが居なくなるまでじっとしている事が出来る。だがゾンビは居なくなるどころか、家の周りをぐるぐる回ったり玄関をガチャガチャしたりと、かれこれ二〜三時間。


 状況がどんどん悪い方向に向かっているのはなんとなく分かっていた。このままだと腹が減る。ゾンビが減らなければ外に出れない。恐らく椿も同じ事を考えているのだろう、「無駄な体力を使わない様にしよう」と言い出し、現在に至る。

 ベランダのある部屋に、押入れにあった布団を敷いて腕枕をして寝ている。窓の外からうめき声が聞こえるが、ホームセンターで聞きなれたためか、さして気にならない。


 時折椿の方を見ると無表情で天井を眺めては、溜め息。そして「なに?」と俺に気付いて聞いてくる。でも俺は、「何でも」と言って結局会話が始まらない。気まずくはないが、微妙だ。



「なぁ、好きな映画ってあるか?」

「……え?」


 なんで自分でもそんな事を聞いたのだろうと思った。

 暇だったから。ただそれだけかもしれない。

 椿はそんな質問に起き上がって胡坐をかき真剣に考え込む。


「ゾンビ映画限定か?」

「ほかの映画でもいいよ?」


 再び考えこみ頭を抱え込む。あの、そこまで考え込まれちゃうと気使われてるみたいで、申し訳なくなるんだが。

 

「○ライ」

「え?」

「ザ・○ライ、かな」


 少し恥ずかし気に言った椿は、「てか知ってる?」と聞いて来た。


 ザ・○ライとは今から四十年くらい前の映画だ。物質転送機を開発してる主人公が、恋人が昔付き合ってた男性との関係に嫉妬して泥酔。自分を転送機で転送した。最初こそ異常は無かったものの、段々と異常が出て来て人間じゃなくなってくる。小さい頃は見ていて怖かったし、最後まで見られなかったけど、二〜三年前にレンタルして見た。


「リメイクの方だろ? 結構あれ好きだよ。段々とハエに変わっていく主人公を恋人が心配するけど、お腹に子供がいる事が発覚して」

「そーそー! 最後機械と融合しちゃって自分に銃向けさせるシーンがなんかもう切ないというか名作だよあれ」


 転送機にハエが紛れ込み融合してしまったと分かったあたりから、ストーリーのテンポがアップしていき主人公は最後、人間である事を諦め人間に近い生物になろうとして恋人を転送機に入れて融合しようとする。だが、元彼が恋人救い出し主人公だけが転送。機械と融合してしまい、恋人が銃を向けるのだ。撃つのに戸惑うが主人公が撃つように自分に銃を向けさせ、撃たれて終わる。

 凄い悲しい話だが何度見ても飽きない。


「結構古い映画だけど、面白いよな」

「だよな! 何度見ても飽きないよ。2も好きなんだよね。同じ運命たどーー」


 それから椿の映画の話を沢山聴いた。話している時の椿は凄く楽しそうで、話す前の無表情で寂しそうな顔とは大違いだ。趣味や好きな事について語れる程、嬉しい事は無いと思う。俺だってゾンビ映画の話をたくさんしたいけど、してる内に相手が無理してないかとか申し訳なくなって途中でやめてしまうのだ。適当な思いつきだったけど、椿が笑顔になってくれて良かった。


「じゃあ、火鷹が好きな映画って何だ?」

「え、そりゃ勿論ゾンビ映画」


 以外に何があるというのだ。全く。


「じゃなくて、一個に決めるとしたら何?」

「ん、一個か」


 興味津々に聞いてくれるのはありがたい。でも一個に絞るとすると迷う。どの作品にも個性があり、良い所も悪い所も含めて全て好きだ。一個に絞るとなると何が良いだろうか。何を基準にするべきか。


「ゾンビ映画にもジャンルがあってだな、指定してくれるとありがたいんだが」

「駄目。全ての中から一個」


 物凄い語りたい気持ちと選べないモヤモヤ感で頭が既にパンクしそうだ。とりあえず基準だ基準。

 見てインパクトがあるタイプは正直全ての映画の基準に当てはまるから却下。なら独特の印象に残る作品ならどうか、それでも多過ぎるな。

 ゾンビだけにある何か。


 焦り?


 そうだ、焦りだ。あのノロノロが大量に来て冷静な対応が取れない感覚がゾンビ映画なんじゃないか。

 だとするとかなり絞れるな。俺の頭はパンクどころか濁流の様に動き出した。数多の映画の中から基準をどんどん絞り見るものを引き込み焦らせ、それでも見てしまう様なゾンビ映画。


「ゾンビ、かな」

「え、いや、だから一個だって」

「違う違う、ゾンビってタイトルなの。○メロのゾンビ」

「○メロ?」


 流石に知らなかったのか、頭の上に大量のクエッションが浮かんでいるようである。知らなくて当然ちゃ当然だな。


「今から大体四十年くらい前の映画なんだけど、これぞゾンビ! って感じで、まぁ今のこの世界と状況が殆ど同じになるんだけど、感染してゾンビになるっていう今主流のゾンビ映画にかなり影響を与えた作品なんだ。正直内容は古くて今の映画と比べたら迫力は無いんだけど、だからこそノロノロ近づいてくるゾンビが怖いし、見てる側が焦る。混乱して噛まれたり、逃げられただろうに! って思わせる感じがすっごい好きでさー。今のゾンビ映画みたいに走って来たり壁乗り越えて来たりみたいなタイプじゃない、スタンダードなやつなんだ」


 ゾンビ映画をちゃんと見始めたきっかけになった映画だ。ショッピングモールに立て籠るとか、他の生存者との物資の奪い合い、テレビから流れる論争。俺的にはかなりのカルト映画に分類されると思う。事実、見て以降の俺は、レンタルショップで大量のゾンビ映画を借りて来て見てた。

 

「ほほう。俺、新作とか最近のゾンビ映画しか見てなかったから知らなかったわ」

「まぁ知らなくて当然だよ。つかザ・○ライも同じくらい昔の映画だろ。なんで知ってんだよ?」

「え、んー、なんつーか」


 どんな名作にも付き物な問題として、年齢層、つまり世代の壁がある。特に俺ら世代は八十年代の映画はほとんど知らないし、テレビでやってても見る人もあまりいない。

 ド派手なCGでドカンドカン爆発する映画世代の俺たちは、古いの一言で見ない連中が多いのだ。古い物は詰まらないという、見た事も無いのに勝手に決めつける悪い癖があるのかもしれない。


 話の合う人なんて中々居ないから、椿は何で好きになったのか非常に気になった。


「DVD借りに行って目に留まったというか、運命の出会いですよ」

「ぶっっっ。あはははは!」

「な!? おま、笑うなよな!? 面白いんだから仕方ねーだろ!?」

「いや、ゴメン。自分で言っても何も思わないけど他人の口から聞くとなんか笑えて。ぶっ! 運命の出会いって。理由が単純過ぎてやばい!」


 まぁ、ゾンビ映画を五十音順に借りまくった俺よりはマシだよな。そのせいで半年くらい金欠になって、目の下にクマ作って中学行ってたのを思い出した。見てる俺がゾンビみたいになって、授業中は顔色が悪過ぎて先生に心配されて保健室で爆睡。その後、親に怒られ、姉貴に笑われた。ゾンビ映画の内容をクラスの連中に聞かれて語ってやると、引き気味になって、担任から「映画しばらく見るの控えなさい」とか言われた事もある。知り合い以上友達未満しか作れなかったのも多分これが原因だ。


 馬鹿だろ。俺。

 



 心底笑った後、ふと思い出し、俺が調べた部屋に向かい机の下を漁った。DVDを適当に拝借して布団の上に並べ、知ってる知らないとかを話したり、ストーリーを何処まで覚えているかとか、名セリフの真似を全力でしたりと椿との雑談を楽しんだ。


「いや、○ョーズだろ!」

「いやいや待て火鷹。○レムリンもありだろ」

「いやいやいや、○○日後と○○週後だろ!」

「ふ、なら○○日の金曜日だな」

舞台が2020年なので、80年代の映画が40年前という事になってます。さすがにそのまま映画名出すのはマズイかなと思いこんな感じになりました。

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