隣人
学生諸君。夏は……終わったよ(´・д・)
部屋は一階には台所にリビング、畳部屋が一つ。二階には洋室が二つあった。洋室のうち、一つだけが生活感が無く、全てが綺麗に整頓された子供部屋だった。
咄嗟に、子供は何処へ行ったのかが気になった。覚えてる限りじゃ子供なんて見かけた事が無い。居ないとすら思っていた。
子供部屋の勉強机には写真が置いてあった。阿部夫妻と真ん中に五歳くらいの男の子が笑顔で写っていた。後ろの風景から海のビーチで撮った写真だと分かる。旅行か何かだろう。
引き出しを開けると長さがバラバラの鉛筆と消しゴムが入っているだけだった。もう一方の引き出しには修学旅行や友達と撮ったのであろう写真が入っていた。十五〜二十歳位までの写真が適当に入っていて一番新しい日付は二年前の八月だった。
「なんか見つかったかー?」
日向野がドアを開けて入って来た。手にはカッターナイフとハサミ、セロハンテープを持っている。
「今のところは何にも」
「そっか。なぁコレ使えるかな? カッターって、ナイフっぽくて使えそうじゃね?」
「いや、折れるだろ。ハサミの方が良い」
カッターで攻撃とか無理に決まってんだろ。指で折れるのに、勢い良く頭にでも刺したら途中で折れる可能性もあるだろうし。
俺だけ何にも見つからなかったというのも避けたいので、子供の事は一旦置いておく事にした。日向野も隣の部屋に行ったので作業に戻った。
部屋の家具は机、タンス、テレビ、本棚。まずは机からだ。文房具類で見つかったのが鉛筆と消しゴム、ハサミ、コンパス、十五センチ定規、シャーペン。使われてない白紙のノートが二冊。それと輪ゴムを一箱。中身はほとんど残っていた。
タンスの中には冬用の靴下が三つと白いフェイスタオルが二つ。使えそうなのはこのくらいか。
え......少なくね?
「お、タオルじゃん」
日向野が部屋に入ってきた。なんなんだコイツ。なに? さびしいんですかい?
「あぁ。お前んとこ何あった?」
こっちが真剣に探してるのに、軽いノリで入ってくるのに少々ムカついた俺は、部屋に入って来る日向野を睨んだ。
本人はそんな事気にも止めていない様で、「ふっ」とワザとらしく言って一歩下がる。何で入ったこいつ。
日向野は大量に積まれた白いタオルを持ったきた。わざわざドアの外に置いておく所が何だか子供っぽい。あれなのか、親しくなると懐くタイプなのか。
「タオル十五枚だ! どーよ」
「ふーん。ヨクガンバリマシタ。エライエライ」
「棒読みですか」
反応面倒くさい。とは言えない。
「何か他には無いのかよ」
「とりあえず、これだけかな」
でもタオル十五枚なんて結構な収穫じゃないだろうか。一人一枚でも余る。
やばい。タオル十五枚と、タオル二枚と小道具じゃ俺の方が成果が少ない。このままでは後々何か言われるかも知れない。もっとよく探さなければ。
「ん?」
机の下を覗きこんだ時、本と一緒にゲームソフトやBlu-rayやらが山積みされているのを見つけた。生活には不要だが、何と無く手に取ってパッケージを見てみる。
ゲームは俺も持ってるFPSが二つ。後は格ゲー一つ。中を開いてディスクを確認すると、傷がかなりついている事からこの部屋の主は、相当やり込んでいた様だ。
続いてBlu-rayとDVDの束を手に取る。どれも見た事のある有名な作品だ。外国の映画ばかりで日本のは無い。一つ一つ確認していると、俺も持ってるゾンビ映画のタイトルが目に入った。
内容は至ってシンプルで、ウィルスで死体が蘇って襲って来るという王道パターンだが主人公も救助されハッピーエンドという、最近はあまりないタイプ。
小さい頃はこれが本当に外国で起きている事なんだと思い込み、ゾンビの襲撃に備えて鍵のかけ忘れに注意したり、逃げるルートを確認したりして遊んでいた。
「ん? どうした火鷹? それ何の映画?」
「ゾンビ映画」
「面白いやつなのか?」
「内容は普通。でもヒューマンドラマ重視で面白い」
「ふーん」
この先必要になりそうな小道具は大体集まったが、肝心の食料は俺の探した部屋からは、ガム二個、賞味期限切れの饅頭だけしか見つからなかった。
対して日向野はポテトチップスのうす塩味一個とせんべえ一枚。
種類では勝ってるが内容物で負けてしまった。後で何か言われても言い訳出来そうに無いし、どうしたものか。
姉貴達はどうなってるんだろうと思い、一階に降りる。
姉貴は台所を重点的に探したらしく、フローリングの床に使えそうな物を並べていた。パッと見十数種類の缶詰めと調味料。クッキーなどのお菓子類が二〜三種類。二〜三キロくらいある余った米。包丁が種類はよく分からないが全部で六本。その他調理器具多数。
その圧倒的な物量を前に、今まで自分は何を気にしていたのだろうと口を開けていると、姉貴がこちらに気が付いた。
「どーよ樹」
「ご苦労様です」
さすが社会人というか、一般人というか主婦というか。使えない物と使える物もしっかりと分けられており、絶対要らない物は固めて置いてある。
食べ物を色々眺めていると、板チョコを四枚発見した。
「姉貴、チョコってさ、甘いじゃん?」
「甘いね」
「虫歯とか平気かなぁ」
俺としては虫歯とか絶対なりたく無いので可能性がある物は潰しておきたい。小さい頃虫歯で泣きまくったのを今でも覚えてる。だが姉貴はそんな俺の質問に手を叩いて笑って答えた。
「あんたそんな事気にしてんの? いざ虫歯にでもなったら抜けば良いんだよ抜けば!」
「いや、良かねぇよ」
んな事してたら口の中ボロボロになっちまうじゃねーか。姉貴は男より男っぽい所があるから、虫歯とかも昔から気にしていないらしい。治るなら気にしないタイプだ。
姉貴と休憩がてらに談笑していると、一階の部屋を物色していた宮元さんがタオルや洗剤、石鹸などを抱えて戻ってきた。
「お待たせ……って凄いですね火鷹さん!」
「いやいや、キッチンが一番物あるのは当然ですよ。それよりもタオルと洗剤助かります」
大人二人が持ってきたバッグや袋に見つけたものを詰め込んでいると、二階からさっきより凄い大荷物を抱えて日向野が降りてきた。
「押入れ探したらバッグがいっぱいあったんですよ。でかいから色々入ると思うんですが」
「日向野君凄い! 荷物入り切らなそうだったから助かったよ!」
姉貴に褒められる日向野を見て、心の奥でモヤモヤしたものが込み上げてきた。恐らく嫉妬なのだろう。家族に他人が褒められるのを見て、嫉妬するとか子供か!
集めた荷物を我が家に持っていく作業が終わり、休憩。時刻は午後三時半。休憩中、椿が何処にも居ない事に気付き、姉貴に聞くと外に行ったという事なので、阿部さん宅の庭に一人で向かう。すると、倉庫を開けようとしている椿を発見した。
「一人で何やってんだ?」
「あぁ、バールとかバットとか入ってないかなと思ってさ。ちょっと開けるの手伝ってくれ」
「お、おう」
倉庫は庭の隅に置いてあり高さニメートルちょっと、横ニ.五メートル。奥行きは一.五メートル程。うちに倉庫が無いから大きいのか小さいのか分からないが、イメージでは中に普段使わない工具とかありそうな気がする。
鍵が掛けられていて、二人でドアを開けようとすると『ギギギ』と嫌な音が響く。そして「バコン」と鍵の壊れる音がしてドアが開いた。
「あ”ぁぁぁぁ」
「うぉわっ!?」
椿が手を離し家のドア近くを指差す。ゾンビだ。椿がレッグバッグから包丁を取り出し構える。俺も倉庫から離れ武器を構えようとしたが、家に置いて来てしまったらしい。取り敢えず倉庫に近付き中を確かめる。手前にあった工具箱を手に取り、開けっ放しの阿部さん宅の窓から中に入った。外では椿が既にゾンビの頭に包丁を突き刺していた。
「樹! 椿君! 早く家の中に入るんだ!!」
宮元さんの声が俺の部屋の方から聞こえた。椿は包丁を引き抜き急いで窓から家の中に入る。鍵を閉めると同時にゾンビが三体窓にぶつかってきた。更にその後ろから、四体程ゾンビが群がってきた。
直ぐに椿と手分けして阿部さん宅の鍵という鍵を全て閉めて周り、カーテンも閉めた。一階では窓にバタバタとゾンビが殴りかかって来るが、割れる気配は無い。それを確認し、俺の部屋の見える二階のベランダに出た。俺の部屋のベランダには既に姉貴や宮元さん達がこっちの様子を伺っていた。
ギリギリ聞こえる小声で宮元さんが言った。
「三十体程外に居る。なんとかするから二階で待っててくれ」




