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自宅にて。①

早めに投稿出来た……(●´ー`●)

 目覚ましも無しに自然と朝の六時半に目が覚めた。ピヨピヨと鳥の鳴き声でも聴こえれば気持ちの良い朝だが、防音対策をしているせいか、男共のいびきしか聞こえない。

 流石は俺の徹底した防音対策である。いびきうぜぇ。


 と言っても発泡スチロールや段ボールの壁なので大きな音は聞こえたりする。時々ゾンビがガラスを割ったりする音くらいは当たり前なのだ。最近は静かなもので先日、坂口達を追っかけてきたゾンビの群れも通り過ぎた様だ。宮元さんは坂口のバカ笑いが聞こえてここに辿り着いたらしいから、あとでもっと補強したほうが良いかもな。と言っても補強の仕方なんて知らないから発泡スチロール重ねるくらいしか出来ません。


 あれから今日で二日目。

 ホームセンターはどうなっているのだろうか。正直俺の中では、中年共に殴られたり蹴られたりされた後の約束なんてどうでもよくなってきていた。あんな連中を助けた所でだ。

 それに間に合うとは思えない。あのガラスが持ち堪えられるかと聞かれたら、絶対ありえないと答える。ぶち破られて一階は使い物にならなくなってるはずだ。

 二階と繋がる通路を塞いでもこれからの本格的な冬を凌げるだけの体力は無いと思う。特にお年寄りの人は危ない。中年共が暴れなければ生き残れるだろうけど、やっぱり手遅れになりそうな気がしてならない。

 でもやっぱり中に居た中学生とかお年寄りの人達の事は頭から離れない。



 喉が渇いたので男共を起こさない様に部屋から出た。そう、坂口が今まで占領してた俺のベッドは遂に俺の元に帰って来たのだ。寝てるのは俺じゃなくてじゃんけんに勝った椿だけども。


 下に降りてペットボトルからコップに水を注ぐ。リビングは防音対策&カーテンの所為でめちゃくちゃ真っ暗だ。

 二階に上がり廊下の窓から外の様子を伺ってみた。相変わらず静かでここから見える限りゾンビも数体ほど。


「あ、おはよ」


 声のする方に振り向くと眠そうに目を擦る姉貴が居た。静かにドアを閉め俺の隣に寄ってくる。


「おはよ」

「お早いですな、覗きかい?」

「ちげーわ。もっと寝たいよ」


 こんな時でも人を揶揄えるのだからやっぱり姉貴は凄い。両親の安否の確認が出来ない以上、今や唯一の肉親だし、居るとやっぱり安心感がある。

 姉貴が階段を降りてリビングに向かったので俺も続いた。電気が付かないと二階以外は本当に真っ暗である。案の定姉貴は……


「痛ったっ!? もー、なんでこんなとこに机あんのよ!?」

「そりゃリビングだからでしょ」

「それは分かってんの! あーっ痛っつー」


 小指めっちゃ痛そうだな〜。


 二階でガチャン!! と思いっきりドアの開く音がした。何事かと階段に向かうと降りて来た人に俺は激突して床に倒れた。顔を上げると、寝癖のついた髪はそのままで、ちょっとだけ髭の伸びた宮元さんが慌てた表情で立っていた。


「いっ、今悲鳴が!?」

「あー、私が机に足の小指ぶつけただけですはい。」


 ほっと胸を撫で下ろした宮元さんと目が合った。「ごめんごめん」と俺に手を差し出し起こしてくれた。姉貴はぶつけた左足の小指を摩っている。俺はけつを強打してめっちゃ痛い。てか最初突き飛ばされた俺の事無視したよねこの人。



 それから三十分くらい経つと坂口が起きて降りて来た。宮元さんが玄関を開けて柵の戸締りを確認し庭にゾンビが居ない事を確認するとようやく一階の窓を開けられた。もちろん半分だけだ。ゾンビの弱点が頭と分かっても、特性やどうやって人間を探すのかまだわからないからだ。


「ねぇ、窓開けられたのは良いけどゾンビ入って来ないの?」


 坂口が不安げに窓の外を見つめながら言った。俺も似たような事を考えていたから、その疑問に自然と口が開いた。


「確かに臭いとかで襲って来るとかだったらヤバイな。アウトだわ」

「え、ちょっ早く閉めようよ!?」


 思った通りの反応をして来た坂口は窓を閉めようと手を掛けた。


「待て待て、多分開けといても大丈夫なんだと思う」

「なんで?」

「鼻が無いやつとか潰れてる奴の説明が付かないんだよ。鼻頼りなら潰れておしまい。ほぼ無力化出来る。でも事態がこんだけ悪化したって事は多分人間と同じ方法で探してるんだ」


 坂口と姉貴が訳わからないという表情でこっちを見ている。確かに意味不明だわな。


「目が見えてるのか」


 宮元さんが口に手を当てて言う。どうやら思い当たる事があるみたいだ。


「目で見て臭いも嗅いで追って来るんだ。耳が良ければ今頃この辺りはゾンビがウロウロしてるはずだ。俺達の声に集まって来てもおかしくない。でも居ないという事は多分いろんな器官が生きてた時より鈍ってるんだ。死んだ状態で動いてるんだから多分日に日に鈍くなってると思う。まぁ死んで動いてるんだから鈍くなってくかは分からないけど、近くに居ないなら静かにしてれば大丈夫だ。……と思う」


「お、おぉ」

 坂口は素直に驚いているのかパチパチと手を叩く。だが姉貴は、「そんなニヤニヤしながら語るなよ」とじと目で行ってくる。


 そ、そんなニヤニヤしてましたかね。誰しも好きなジャンルならし、仕方ないんじゃないですかね? ちょっと心に深く刺さるんでその目やめてくれません?


「よく観察してるんだね」

「いや、まぁ……照れますわ。……へへ」


 さすが宮元さん! 俺凄くね! もっと褒めて!

 残り二人から「キモ」とか聞こえるが気にしない気にしない。気にしない。あれ!? 坂口てめぇさっきパチパチしてましたよね!?


 いちいち反応しても無駄だと思いそのまま持論を続けた。

「あと数が少ないんだ。群れてるんだと思うけどこの辺り凄い少ないだろ? 死体もゴロゴロある訳じゃないし、もしかしたら壊滅してない県とかに群がってるのかもしれない。さっき言った俺の考えが正しければ、人の臭いがプンプンして、騒がしい所に集まってるはずだから、自衛隊とか避難民が多い場所に集中しててここみたいな早い段階で壊滅した所はすっからかんなんだと思うんだ」

「確かにそれはあるかもね」


 答えたのは宮元さんだ。当時最前線と言っていい程の場所に居て、ここまで来た人の意見だ。更に話は進む。


「僕が避難した学校にもゾンビの集団がやって来た。あのホームセンターもガラス張りで中が丸見えだし、臭いがこもるから集まったのかも知れない。でも一ヶ月経って東京がまだこんな状態って事はもう自衛隊は全滅したんじゃないかな?」

「そ、それは……」


 全滅……だけはして欲しくない。俺は大人じゃない。人生経験が少ないしこの先何処に何があるかなんてよく分からない。自衛隊のゾンビが武器持ってて奪えたとしてもだ。使い方もよく分からない。食糧だっていつかは尽きるんだ。せめて何処かで生き残ってて欲しい。


「道路塞ぐだけ塞いで避難の邪魔してただけだったしね〜。発砲許可貰うより先に全滅したんじゃない?」


 どうも姉貴は避難の邪魔をした自衛隊を少なからず恨んでいるらしい。でも自衛隊だって仕方がなかったのだろう。仮にもあれが感染症だったらゾンビは病人だ。人権だってある。でもゾンビになった者は手当たり次第に生きてる人を襲って食う。これを病人とするか死者とするか、あるいは人外の何かとするかで相当議論されたであろう。最善策として感染拡大を防ぐ為に都民を見捨てたのだとしたら攻めようがない。大の虫を生かすには小の虫をという言葉があるくらいだ。

 サッと切り替えて感染してる者は射殺! とかになるよりははるかに良い方だ。人として。


「とりあえず空気の入れ替えも済んだし窓は閉めよう。匂いが飛ぶのも不味いしな」

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