痛み
スペースが空いていないのは現在PCがネットに繋がってなくて……といえばみんな分かってくれるはず!
「お、おい君!? 何て事を!!」
ドアから入って来た若い男達がナイフで背中を刺された中年に駆け寄る。俺も何とか起き上がり様子を伺う。
背中をナイフで裂かれており血が止まらない。既に手遅れの様だ。
「し、死んだ。死んだぞ」
「何て事してんだてめぇ!? 殺す事はねーだろ!!」
男達の言葉に椿は冷めた顔で答えた。
「殺されかけたんです。正当防衛ですよ」
「んだとてめぇ!!」
男を無視しいつもの顔に戻った椿は俺の方に駆け寄ってきた。
「傷大丈夫か火鷹!? ゴメン、俺が早くナイフ使ってれば」
「無視すんなゴラァ!!」
男達が椿に襲い掛かろうとした。椿はすかさずナイフを構える。だがそこへ宮元さんが入ってきた。男達の動きが止まり椿もナイフを降ろした。
「おいおいおいおい!! ストップストップ!! こんな時に何してんだよあんたら!?」
開きっぱなしだった入り口から司会の男が入ってきた。司会の男はドアを閉めると辺りを見渡した。
「悪いが亡くなったその人は火葬か下に落とせ。あと宮元さんと君達、出て行くなら一声掛けてくれよ。食料だってまだまだあるし分けてやれる」
「待てよ!? こいつら人殺しだぞ!?」
「そーだ!! 食い物だって多いに越した事はねーだろ!!」
その言葉を聞いた司会の男は頭を掻き毟りながら中年な近づいた。
「あんたらこんな子供相手に何ムキになってんだよ。黙って下手伝えよ。なぁ頼むよ」
身長差もあって上から見下された形になったのにかっとなったのか中年は言い返した。
「何だいきなり態度変えたからって調子に乗ってんじゃねーぞこの野郎!? 何様だてめぇ?」
「てめぇらを助けてやった命の恩人だろ」
「はぁ!? 舐めてんじゃねーぞこのぶへぁッッッッ!!!?」
驚いた。ずっと大人しかった司会の男が中年の顔を右腕で思いっきり殴ったのだ。中年はその場に倒れて腫れた左頬を抑えて泣き出した。
「子供に人殺しさせといてこれかよ。これ以上何か問題起こしたら追い出すからな」
声のトーンも少し変わり何だか頼れる先輩みたいになっている。とりあえず味方になってくれたという事で良いんだろうか?
「大丈夫かい樹くん!」
「……顔どうなってますか?」
宮元さんが倒れてた俺を起こしてくれた。椿も俺の近くに来た。手にはまだ乾いていない返り血とナイフ。だが顔はいつもの優しそうな感じで、俺を本当に心配してくれてるみたいだ。
「腫れてるけどこの程度なら冷やせば大丈夫だよ。今は早くここから逃げよう」
「やっぱり出てくんですね」
宮元さんの背後から司会の男が話しかけてきた。先ほどの中年達は下に降りていったらしい。
「助けてくれてありがとうございます。この子達の事を考えたら今まで通り外に居た方が安全ですし、今街にはあまりゾンビは居ません。貴方はどうしますか?」
「俺がみんなをここに引き止めた張本人なんで一人だけ逃げるのも気がひけるんですよ。それに爺さん婆さんもいる。みんな救助が来ないのが分かってきたみたいで精神的に危ないんです。俺の力不足です。許してくれ」
司会の男は俺に深々と頭を下げた。どう反応すれば良いんだろうか。何となく俺も頭を下げた。
引き止めたというのは恐らく救助が来る可能性に賭けた事だろう。俺みたいな引きこもってやり過ごすタイプとは全然違うし守る人もいる。そんな人から俺は物資を奪おうとしていたのか。
少なくとも盗んだ物の殆どはもう外にある。最低の行為だ。俺のした事は。
「あ、あの大丈夫ですか?」
横から声が聞こえたのでそちらを向くと笹木が機械の影からこちらの様子を伺っていた。どうやら今まで隠れていたらしい。
「す、すみませんでした。私怖くて……ずっと隠れてました」
「しょうがないよ。逆に隠れてて正解だったと思うよ。怪我もしてないようだし何よりだよ」
俯く笹木を宮元さんが励ます。そういえば先に降りた姉貴達はどうしているんだろう。
ゾンビだらけのホームセンターの周りをいつまでもウロウロしているはずも無い。来た時の様に林に隠れているのだろうか。家に帰ったかもしれない。
どうしてか俺は姉貴や下に降りた坂口達の事を必死に考えている。自分の犯した事から逃げようとしているのか?
でもここまでなんだかんだ来た仲間を心配するのも当たり前じゃないか。
季節の所為だろうがさっきからやたらと冷たい空気で肌が痛い。きっと乾燥している所為。
なんだか眠い。
凄く疲れた。
顔の痛みは引いて来たが熱が出てる。血が流れててそれがくすぐったい。気持ち悪い。
「樹くん、かなりぐったりして来てるけど歩けそう? 流石に縄跳びのロープで二人は切れると思うんだ」
宮元さんが俺の事を心配してくれている。笹木はどうしていいかわからずチラチラ周りの様子を伺っている。椿の手にはもうナイフは無く、下を向いたまま立っていた。
俺が何も喋らない所為でしばしの静寂げ流れる。眠くて何も言葉が出てこないんだ。
と、そんな中司会の男が提案をしてきた。
「もし大丈夫だったらここに後何日か居ますか? あのオヤジ共は俺が見張ってるんで」
それにはすぐに宮元さんが反応した。
「あまり居たくありません。それに先に降りたみんなが気になります」
「双眼鏡があるんで確認しますか?」
宮元さんは双眼鏡を受け取りみんなを探し始めた。俺はその場に寝転んだ。こんなにボコボコにされたのは初めてだ。多分喧嘩とかする奴はこのくらいどうって事は無いんだろう。
「居たぞ!! 向こうも双眼鏡でこっち見てる!」
そうだ。坂口も持ってたな双眼鏡。という事はみんな無事なのか。
「何かこっちから伝える方法でもあれば良いんだけど。僕が行くわけにも行かないし」
「下にホワイトボードあるんで使いますか?」
「お願いします」
数分後、司会の男が持ち運び可能な小さいホワイトボードとペンを持って来た。まだ袋に入っていて新品のそれを宮元さんが開け早速メッセージを書き始める。角度的に俺には何と書いてあるのかは分からない。
宮元さんは双眼鏡で確認しながらホワイトボードを右手で持ちジェスチャーで見るようアピールしている。
伝わったのか文字を消してまた何かメッセージを書き始めた。それをかかげる。
「とりあえず樹くんの家に行く事になったから僕等も明日早朝にはここを出て合流しよう。ボード助かりました」
「いえいえ。提案しといて何ですがどこで寝ます? 中でも良いですけど、オヤジ共とか嫌じゃなければ」
司会の男の言葉に一同黙り込んだ。みんな気不味いのは当然だろう。俺だって俺をボコボコにした奴の近くに行きたくないしこんな状況じゃまた襲われるかもしれない。
「……ここで休みます」
なんとか絞り出したのがこれだった。
「でもこんな所でそんな状態で寝たら」
「司会さんもさっき言ったじゃないですか。オヤジ共が嫌じゃなければって。そのオヤジ共がさっきからドア少し開けて見てるんです」
司会の男は俺に言われてバレないようにドアに目を向けた。実は追い出されてからずっとこっちを見てる。その視線が怖くて怖くて堪らない。
「あ、良い事思いついた」
司会の男が手をポンと叩いて俺達を見やる。宮元さんが何ですかと食い付く。
「自分で言うのも何ですが、ここの人の大半は俺の事を信頼してくれてます。そして幸いあなたは警察官だ。そこを利用するんです。安全に寝れますしもし何か起きたらみんな味方になります。条件はありますがね」




