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明けの街

大変遅くなりました。すみません!

これからもよろしくお願いします。

 手は悴み足の指先は感覚が無かった。何時までも続きそうなこの見張りは今までの地元サバイバルの方が楽に思えるほど辛い。あと耳。風が冷たくて痛い。


 しばらく経って気付いた。おっさん達が俺達子供と大人一人に見張りを任せた理由、それは単なる面倒事の押し付け、序列に従っただけ。


 このホームセンター内には序列がある。

 司会の男がリーダーで、その取り巻き達が班のリーダーをして年寄りは除外されている。新入りの俺達は一番下に位置している訳だ。


 ゾンビだらけの世界になっても歳の差や、上下関係を保って自分を維持しようとしているのが見え見えだ。


 社会が崩壊した中で新しく生まれたのが今のホームセンターの序列。もしかしたらこの先ずっとこうなのかもしれない。



 それにしても下がゾンビだらけでなんだか臭い。変わった変化も無いし暗くてよく見えない。ガラスに張り付く先頭のゾンビは後方から押されていてなんだか苦しそうに見える。


 そもそもなんでこいつらは俺達を襲うのだろうか?

 心臓を刺されて死なないという事は死んでいる。何かが感染してそうさせているのだろうが、何故襲う?



「君達、寒くないか? これ羽織っとけ」

「あ、ありがとうございます」


 毛布をくれたのは俺達と見張りをしていた男だ。

 身長は俺より少しだけ高いくらいで、少し顎の髭が濃く、頭には黒い帽子、ジーンズに紺色のダウンコートを着ている。20代くらいに見える。サラリーマンと言われたら納得する顔立ちだ。

 椿と日向野光梨も近くに来たところで男は口を開いた。


「君達、この辺りの人?」

「はい、この先の学校に通ってました」

「どうやってここまで?」


 何でこの人は俺達の事を知りたがるんだろう?ふと思った疑問から俺は知っている映画やゲームの知識を自然に頭の中で整理していた。似た様な状況は幾つもある。どれが引き金になって殺されてしまうか分からない。

 そもそも信用しても良いのだろうか、毛布を与えて安心した所を襲うとかそんな手口なんじゃないだろうか。もしかしたら邪魔者を排除する為にわざと見張りを任せてこの男が俺達を殺してゾンビの中に落とすとかそんな展開なんじゃないだろうか。


「みんなで家に引きこもってたんですが、宮元さんと偶然会って避難しようとしてここに来ました」


 な、な、何言ってんだよ椿!!!!

 俺がせっかく考えてたのに!!


「そっか、じゃああんまり外の状況とかは知らないんだね。いやぁ、すっげー気になっててさ。俺も地元ここだから解放作戦的な展開どっかで無いかなぁとか思ってたんだけどさ。悪かったね、嫌な事とか思い出しちゃったらごめんな。俺は鈴木、よろしく」

「火鷹です。よ、よろしくお願いします!」

「椿です。よろしくお願いします」

「日向野です……よ、よろしくお願いします」

 いきなりよろしくと言われたので反射的に返してしまった。なんだ、もしかして俺考えすぎなのか?


「俺見張りずーっとやってたけどさ、先々週あたりから特に変化無くなっちまったから寝てても大丈夫だよ?」

「え、でも誰か生き残ってる人が来たら?」

「もちろん俺が起きてるから大丈夫だよ椿君。朝起こすし交代の時間までに起きてれば何も言われないよ。正直、ここ仕切ってる奴らあんまり好きじゃないからさ。あ、もちろん秘密な」

「……私、夜型なんで全く眠くないです」

「僕もあんまり眠くないです。てか寒いです」


 日向野光梨に続いて椿も答えた。なんだ、じゃあ結局みんな見張り続行じゃんか。


「まぁそれもそうか。火鷹君は大丈夫か? 毛布ならあと何枚かもってるけど」

「鈴木さんは大丈夫なんですか? こんなに毛布分けたら寒いんじゃ」

「あー、それなら……」


 鈴木さんは俺に言われて急にダウンコートを脱いだ。すると中には大量の丸めた新聞紙て紙があった。厚さや種類はバラバラで、袖や腹の辺りにびっしりとセロハンテープで貼ってあった。


「来たばっかしの時寒くてさ、新聞紙とかパクってこうやって入れてた。こーしとくと実は暖かいんだぜ?……さみッ」

 急いで自分で見せるために脱いだダウンコートを着直す鈴木さんを見て、みんな少しだけ笑った。どうやらこの人は良い人らしい。少なくとも、ちょっと陽気なだけの大人だ。



 それから俺達はホームセンターであった事や鈴木さんの話や趣味について語ったりして時間を過ごした。

 分かった事でいちばん驚いたのは、鈴木さんは俺達の学校の卒業生で大学四年生だという事だ。髭の生で大人かと思っていた。



「そろそろ時間だぞ、眠くないのか?」

「寒いっす」


 だんだんと空が赤くなり、太陽が顔を出し始めた。街にも光が差し段々とゾンビ達も見えてきた。でもやっぱり少ない。

 日向野光梨は椿に寄り掛かって寝ていた。椿は動けずその場でぼーっとしている。側から見ればなんか付き合ってるカップルに見えるが、俺から見れば保護者にしか見えない。てか兄の方は何してんだ全く。妹いるんだから代わりに来いよ。


 座っていて尻が痛くなった俺はゆっくりと立ち上がりとりあえず身体を伸ばす。適当にボキボキ背中を鳴らして眠気を払う。


「あれ? 鈴木さん、どうしたんですか?」

「……」

 椿が鈴木さんに声を掛けた。鈴木さんを見ると何故か端の方で駐車場を見ていた。嫌な予感がした。何回かこのパターンの映画を見た事がある。

 急いで鈴木さんの隣に駆け寄り下を見た。


「……」


 俺の目に入って来たのは数千はいるゾンビの大群だった。

「増えてるよな?」

「……増えてますね」

 マジで増えてる。一夜でここまで集まるって事はこっちの存在を察知出来るという事なのだろうか。俺達はしばらく呆然としていた。

 自分でもよく分からないが身体に力が入らない。


 俺達が動けずにいるとドアが勢いよく開いた。ビックリして後ろを向くと中学生の男子が一人、息を切らしていた。

「大変です! ガラスがなんかギシギシいってるんです!!」

「何だって!? 下の連中はどうした!」

 真っ先に反応したのは鈴木さんだった。

「みんな下でガラスの補強やってます! 手伝って下さい!!」

「分かった! みんなも行くぞ!」


 中学生を先頭に下に降りると1枚のガラスのにみんながガムテープを一生懸命貼っていた。その後ろでは子持ちの女性と老人達が補強に使えそうな物を探し回っていた。


 その中の一人が俺達を見つけて駆け寄ってきた。宮元さんだ。


「ガラスにひびが入ったんだ。君達も手伝ってくれ!」

「分かりました!」


 俺も宮元さん達とガラスの補強に使えそうな物や家庭菜園用の土や腐葉土をガラスの前に積む。ガラス越しにゾンビがこちらを覗いていた。目は合わないが確かにこっちの存在を認識している。口をパクパクと動かしガラスにへばりついている先頭のゾンビを後ろのゾンビが押して何体かはぐちゃぐちゃになって倒れている。これ程の力でガラスを押しているとなると他のガラスも危ないかもしれない。


 不意に似た様な映画のワンシーンが頭に浮かんだ。その映画だと、ガラスは突き破られてほとんどの生存者が死ぬのだ。主人公達はゾンビを蹴散らしながら車で逃げる。

 俺にも出来るだろうか。答えは簡単。出来るわけがない。

 頭では逃げる事を考えながら体は必死に動かし続けた。一通りガラスの補強が終わると、大人達は早速言い争いを始める。


「……っふ。まんまじゃねーかよ」



 今まで大人が少なかったから経験しなかったが、こうも映画と同じ事が起きると自然と吹き出してしまう。



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