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◆終わりが始まった日 ②

大筋以外ほぼ書き直ししました。

 言い争いは案外早く治ったが、帰りたい組はやはり帰りたい。窓に張り付き外の様子を伺ったり、スマホで家族に電話を掛けたりと落ち着きが無い。


 俺も帰りたい。

 此処にこのまま居るのは絶対危ないと本能が叫んでいる気がする。ネットで何か検索しようにもどんどんアンテナが減っていく。きっとこの辺りだけじゃなく色々な場所に被害が拡大しているのだろう。動作がいちいち重い。

 ニュース速報を調べるとこの事態の記事が大量に出てきた。


 『全国で暴動発生。新型ウィルス全国に拡大。緊急警報発令。特別対策チーム」


 それを見た瞬間、ゾクゾクしてしまった。映画でしか見た事のない様な単語が幾つも並んでいるのだ。映画と同じ状態になっているのだとしたら、外に居る暴徒は恐らく何かに感染した感染者。又は単純に死者が蘇るゾンビ。映画とゲームで予習復習は出来ている。


 窓の外、直ぐ下には足場があり、教室の境目にパイプがある。

 案外いけるんじゃないだろうか。一人で逃げた方が素早く移動出来そうだし、窓からパイプを伝って降りればーー。


 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 教室の外から女子生徒の悲鳴が聞こえた。

 その悲鳴に教室は静まり返る。続いて他の生徒の声が聞こえてきた。


「止めてこないでぇえ!」


「痛い痛い痛いぁぁぁああ!」


 数分で声は聞こえなくなりそれが断末魔だったのではないかと思い始めた。声の方向は階段の辺り。廊下の外に外の暴徒が来た気配はなかった。つまり直ぐ下の階、一年生の悲鳴。


「何、今の?」


 女子生徒がポツリと言った。


「直ぐ下からだよな、今の」


 川口が震えた声で反応した。さっきまでのゾクゾクは無くなり今はただの焦りに変わっていた。下の階、直ぐ下まで暴徒が来ているのだ。ゾンビにしろ感染者にしろ、殺される。早く逃げなければ間違いなく殺される。教室のドア一枚じゃ持つはずもない。


 教室の中を見回した。


 こんな時、映画だったら何をするんだったろうか。逃げるルートの確保、あと武器の確保だろう。こんな時まで映画に頼るのも何だが、この状況を好きな事に当てはめて考える事で自然と落ち着いていられる。焦りは無くならないが、パニックにはなりたくないしな。



 と、そんな事を考えていると川口が何かを思い付いたのか、掃除用具の入ったロッカーからほうきを取り出した。

 気になった木村という明るい茶髪が目立つ男子が、川口に言った。


「何してんだよ川口?」


「下がどうなってるか見てくる」


「はぁ!?」


 何を言ってるんだこいつはと思ったのであろう木村は、川口の肩を掴んだ。


「何言ってんだよ!? ここに立て籠るって言ってたじゃんか!」


「馬鹿、大声出すな。下まで来てるって事は教師が止められなかったか全滅でもしちまったんだ。逃げ道確保しに行かないとだろ? ここに残ってたら絶対やばい」


「んだと!? お前が言った所為で逃げ遅れたんだろうが!! それを今更逃げ道確保なんてーー」


 木村は帰りたい組だったが川口が説得して此処に留まっているのだ。その川口が一人で外の様子を確認すると言って教室を出ようとしている。何かしら言いたくなるのは当然だ。

 二人が喧嘩になりそうな所で、すすり泣いていた女子生徒を慰めていた坂口が立ち上がり、川口に近寄って来た。


「じゃあ私も行くから木村も行こ?」


「はぁ!?」


 自分で大声を出すなと言っていた川口だが、思わず素っ頓狂な声を上げた。もちろんクラスの殆どが何言ってんだこいつと思っただろう。もちろん俺もだ。


「もしも襲われたりしたら助ける余裕なんて無いぞ俺」


「誰が助けて貰うなんて言ったのよ? その時は全力で戻るから大丈夫だよ」


「でも別に着いてくる必要無いんじゃーー」


「賢太だけで行って帰って来なかったら下の状況分からないでしょ? 確実に逃げ道確保してさっさと逃げないと。あと木村」


 やや低い声で坂口は木村を呼んだ。木村は深呼吸して坂口の方を向いた。


「んだよ」


「言いたい事は分かるけど、それでも残ったのは木村だよ? その後で文句を言うのはおかしいでしょ」


「……」


「落ち着けなんて言えないけど、適当に逃げて下にまだ居るかも知れない殺人鬼達に捕まったら大変でしょ? 怖いのはみんな同じ何だからこれ以上大声ださないで。みんな怖がってるから」


 言われて木村はクラスに残っているみんなを見渡した。啜り泣く者、ひそひそ話をしていた連中、外の様子を見ていた者、その他全員が木村を見ていた。


「……はぁ。ごめん」


 木村は小さく言った後、川口に向き直った。


「ごめん。俺も行かせてくれ。一人じゃ帰れなくなった時、ここに状況教えに来れないだろ?」


「私も行くから」


「わ、分かった。酷えな、二人とも俺が死ぬ事を視野に入れてるのか。だったらもうちょっと居た方が良いかもな。上の階で、誰か三年生居るか見てきてくれないか?」


 四人が名乗り出た。だが下に一緒に行ってくれるという奴はさすがに居ない。このままだと三人だけになってしまう。


「ねぇ! 入って来た連中、外に出てってるよ!」


 窓の外を覗いていた女子生徒の言葉を聞き、みんな出窓に張り付くようにして校庭を見る。校庭に何人かの生徒と教師が居てそこに暴徒が集まっていた。数は大体二十〜三十人くらいだろうか。ノロノロと歩きながら校舎から出て行っている。


「今がチャンスかもしれない……今のうちに下の階を見に行こう」


 言って川口が周りを見回す。目があった。


「火鷹、一緒に来てくれないか?」


「え」


「お前確かこんな感じの映画に詳しいんだろ?」


「ま、まぁ」


「頼む」


「……分かった」


 グイグイ来られたせいで断れなかった。断った時、みんなの視線が怖いというのもある。


「あ、火鷹が行くなら俺も」


 日向野が手を挙げた。人数が増えた事で何人かが手を挙げその中から数人が川口に選ばれた。


 結局、逃げ道を確保する班は俺、川口、日向野、大田、木村、坂口となった。坂口以外が男なのでそこそこ安心出来ないでもない。

 大田とはホントに数えるぐらいしか会話した事がないが、普段はしゃぎ回ってるのは知っている。さすがに今日は大人しいが、普段は先生達にマークされるくらいうるさい。


 とりあえず、掃除用具の中からほうきを選んで武器代わりに持っていく事にした。ほうきを持っているのは川口、日向野、木村だ。冷静に考えたらほうき何て何の役にも立たなそうだが、あると安心する。持ってる人だけ。


 静かに鍵を開けて教室を出た。




 俺達は階段を降り二階の一年のクラスを回ることにした。俺たちの教室は三階にある。一年生は二階。一階は職員室や準備室、木工室やその他がある。まずは二階に誰か居ないか見る必要があった。


 階段を半分降りて一旦止まり、川口が折り返しの所で二階の踊り場を除く。若干だが、鉄の臭いがした。誰も見えないという事で階段を降りた。


 降りてすぐの所で俺逹は一瞬、動けなくなった。


 右手に準備室がある為、二階だけ教室と階段の距離が離れて広くなっている。そこに血だらけでで何人かが倒れていた。


「おい! 大丈夫か? おい……っ!?」


 真っ先に動いたのは木村だ。木村が駆け寄って血まみれで、うつ伏せで倒れていた一年生の体を揺するが応答がない。体中が何かに食いちぎられていた。鉄の匂いが鼻に刺さる。顔も鼻や耳が無くなっていて、右眼の瞼が半分千切れてぶら下がっていた。男子生徒だ。


「……しっ、死んでるぞ」


 隣に倒れていた女子生徒も首の右半分が無くなっており、顔も右半分がべろっと皮膚が剥がれていた。正直近付かなければ良かったと後悔した。吐き気は来なかったが、忘れられそうにない。

 ほかの倒れていた一年生も確認したが、みんな何かに噛み殺されていた。


「と、とりあえず教室を見て回ろう。……うっ」


 冷静だった川口も同様を隠せない。手に口を当て吐き気をこらえているようだ。いきなりたくさんの死体を見たのだ。動揺しないほうがおかしい。俺も気付けば冷や汗をかいていた。


 一つ一つクラスを回っていく事にした。階段から見て目の前教室が二組。右手が一組。左手が三組と四組だ。一組と二組は無残な死体だらけだった。机や椅子はひっくり返り、床が血塗れだった。それを踏むのが嫌で教室には入らなかった。ここから見ても誰も生きていない事ぐらいは分かる。血の臭いで鼻がおかしくなりそうだ。


 殺した連中がまだ彷徨いていないか心配でゆっくりと進んだが、暴徒はおろか、生きている者が一人も居なかった。つい三〜四十分くらい前まで普通にみんな生きてた筈なのに。


 そもそも上の階に誰も逃げて来なかったのも気になる。こんな事になってるなら上の階にだって人が押し寄せて来ても良いはずだ。階段は全部で三つある。今は中央の階段で降りてきた。他の二つの階段は使わなかったのだろうか。それともそっちから暴徒が登ってきたのだろうか?


「……開けるぞ」


 川口が三組のドアを開ける。中には前のクラス同様に死体があった。あきらめて隣のクラスに行こうとドアを閉めようとすると、すぐ横にあった掃除用ロッカーがガタガタっと揺れた。


「だ、誰かいるのか?」


 ほうきを持ったみんなが構えたので、持っていない俺がロッカーに手を掛ける。手でワン、ツー、と合図を出して勢い良くドアを開けた。

 バタバタと中からほうきが落ちてきたのでそれを避ける。ロッカーの中にはガタガタ震えた女の子が入っていた。肩スレスレの髪がボサボサになっており、目は真っ赤に腫れている。


「ひぃっ!?」


「落ち着けよ、大丈夫か?」


 目が合うなり、まるで化け物でも見たみたいな反応をされた。恐らくここに隠れていた為に色々見てしまったのだろう。

 とりあえずその子をロッカーから出し川口が話を聞いた。


「君、名前は?」


「さ、ささ笹木です。さささ笹木き、みみ美乃梨です……」


「俺は川口賢太、二年だ。なぁ、ここで何があったんだ?」


 川口の声は若干震えていた。ここに来るまでに見た死体や血の所為で、俺逹はかなりの興奮状態になっていたんだと思う。冷や汗は止まらないし身体の芯が震えているのがわかる。

 笹木も震えていた。まるで凍えているかのようにガタガタと歯を鳴らしている。俺逹を見回すとゆっくり深呼吸をして口を開いた。まだ歯は鳴っている。


「へ、変な人が、はは入って来て、中山が噛まれて……。そそしたら今度は、中山が、と豊瀬に噛みついて……それで私、ここ怖くなって隠れたんです」


 笹木は此処に隠れた所為で出れなくなり、クラスメイトが襲われるのを見てしまったという。ロッカーをもう一度よく見てみた。さっきは笹木に気を取られて気づかなかったが、血塗れの手形が幾つか付いていて、それが俺の手にも付いていた。


「な……なぁ、それってもしかしてさ」


 木村が口を開いた。


「もしかしてって何だよ?」


 川口が木村に続きを催促する。


「ゾ……ゾンビじゃね?」


「……お前、本気で言ってんのか?」


「だって噛まれた奴が別の奴に噛み付いたってこの子が言ってんだからもうゾンビじゃねぇかなって」


 ゾンビ。確かにゾンビっぽいが、なら何でまだここに居て死体を喰っていたりしないのかがわからない。噛みつくだけのゾンビなのか、猟奇殺人なのかもしれない。とりあえず、ここに長居すると危険だ。映画だったらそろそろ何かが来る。


「な、なぁ。とりあえず隣のクラスも見よう。誰か居るかもだしさ」


 俺がそう言って教室から出ようとすると、笹木が俺の右腕を思いっきり引っ張って、行っちゃダメと言わんばかりに全力で首を横に振った。


「何だよ? どうかしたのか?」


「四組はまだあいつらがいるかもしれません! 行ったら襲われす!!」


 俺の腕を笹木は左右にブルンブルン振って、涙目になりながら行くな行くなと言った。


「分かったから落ち着けよ! な?」


「は…はい」


 危うく腕が使えなくなるところだった。肩が痛い。とりあえず木村に笹木を任せて俺と川口、日向野で四組をそぉ〜っと覗いて見る事にした。


「行くぞ……ゆっくりな」


 川口を先頭に三人で開きっぱなしになった四組の扉を覗いた。


「誰もいねぇじゃん」


 思わず口が開いた。先ほどあんなに行くな行くなと言われた4組には血も付いておらず、そもそも誰も学校に来ていない様だった。


 カタッ……


 だが、俺の声の後に何か物音がした。

 周りを見回すが何もいない。気のせいか?


 一応ロッカーも開けたが誰も入っていなかった。


 俺達は笹木を連れて一旦、三階へ戻る事にした。ぶるぶる震える笹木に日向野が自分のブレザーをかけて寄り添いゆっくり階段を登り教室へ向かう。


 教室に戻ると、三年生が五人いた。どうやら上の階には被害がなかったようだ。


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