仕方がない。
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部屋には血と生魚の様な強烈な異臭。腐ってる。一人は鼻が凹み左腕の関節が幾つか逆方向に曲がっている。二人目は首が100度程後ろに曲がっていた。他二人は身体中にアザと、腹から大量の血を流していた。
惨い。
死体のそばには凶器になった血塗れのバットと包丁が幾つか転がっていた。
全員が部屋に入るとドアが自然に閉まった。その場で口を開く者はもう居ない。開けなかった。喋ろうとすると開いた口の中に死体の臭い、まるで腐った魚を食べている様な感覚に襲われるのだ。鼻も同様で息をするのさえ躊躇う。
「……と、とりあえずみんな外に出よう」
宮元さんに言われ俺たちは部屋の外に出た。
「ちょっ、あんたらまさか!?」
声のする方を見るとそこには先程の灰色のジャンプスーツの男が立っていた。
俺たちを見るなり男は引き返してドアから飛び出す。
「まずい!」
そう言って宮元さんは男を追いかけて廊下を走った。俺たちも続く。
バンッ! とドアを勢いよく開けて飛び出すと俺たちは既に大人の男たちに囲まれていた。
「なになに? どうしたの?」
「何かあったのか?」
まずい。センター内の人がどんどん集まり出した。俺たちを囲む男たちの何人かは鉄パイプや包丁を持って構えていた。
1人の男が宮元さんに向かって鉄パイプを頭目掛けて振り下ろす。宮元さんはそれを簡単に躱して素早く大外刈りで男を地面に叩きつけた。そのまま素早く男の右手を後ろに回し固めた。ドラマでよく見る犯人逮捕の瞬間と同じであった。
わずか5秒足らずだった。
俺たちは反応する暇も無くただ見ていた。
「あっ!! 痛い痛い痛いいッ!! タンマタンマ!! 折れる!!」
「今すぐ全員武器を降ろせ!!」
「「……」」
誰一人降ろさない。本当にヤバイ。全身に鳥肌が走り俺達は足が震えていた。
「降ろせ!! さもなくば彼の腕が折れるぞ!!」
先ほどよりも強く怒鳴った宮元さんに俺含め全員が恐怖した。迫力とかではなくもう従わなければヤバイとだけ思った。
大人たちもそう思ったのかいっせいに口を開いた。
「なぁ聞いてくれ! 仕方無かったんだ!」
「頼むから捕まえないでくれ!」
「仕方が無かったんだ!! 本当だ!!」
俺たちを囲む男たちは宮元さんに必死に訴えた。武器を向けながら敵意剥き出しで。
降ろせと言われて素直に降ろさないのは動揺しているからだろうか。
そんな彼らに宮元さんは言った。
「……今は非常時ですし既にこの辺の警察は機能してません。理由はどうであれ、この子達に危害を加えるなら容赦しません」
「まさか、てっきり逮捕されるのかと」
「危害を加えないなら何もしませんし協力もします」
男たちはみなお互いの顔を見合い何かを確認した様に。
「じゃあ!?」
「はい。捕まえたりなんてしません」
宮元さんの言葉を聞いて武器を持った男たちは安心したのか全員武器をおろして肩の力を抜いた。
ついでに俺も肩の力が抜けてホッとしてしまった。
その後宮元さんは話を聞きに男たちと何処かへ行ってしまった。
俺たちは先程のベッドの周りに集まりグッタリしていた。あまりにいろいろあり過ぎて頭の回転が追いつかなかった。
子供という事で特に警戒もされず自由は許された様だ。
ゾンビなら襲われたら絶対死ぬ、という知識は何と無くみんなあるし俺も百も承知だ。だから家に立て籠もったりしてた。だが人に襲われる事があんなにも唐突でやられるまで動けないくらいショックだったとは……。
想像はしていたが実際体験するとやはり辛い。宮元さんが居なかったら殺されていたかもしれないし、死体を見て見ぬ振りという罪悪感で俺自身壊れてしまうかもしれなかった。
「なんかさー、一気に疲れたね」
坂口がベッドに仰向けに寝ながら言った。その言葉にみんな深く考えさせられた。
確かに今までちょっとしたサバイバル気分を味わっていた所為で気を完全に許す時が無かった。寝る時もビクビクしていた。
でもこうして生存者、大人達に会うと自然と安心する。そんな事を感じるのがまだまだ子供だからなのか、群れていた方が逃げる時楽という考えからなのかはよく分からなかった。
「そーいえば食い物ってあるのかな、ここ」
何と無く俺が口にした言葉で思い出した。俺って食い物ばっかり気にしてる。逃げるより隠れるを優先していた。
「んー、こんだけ広いならあるでしょ」
姉貴が答えた。疲れたねーなんて笹木たちと一言一言静かに会話していた。
「あ。……寝てるし」
「やっぱり疲れたんだね光梨ちゃん」
見ると日向野の肩で日向野妹は寝ていた。結構ガチな方で口を開けて爆睡している。
「そーいえば、いつの間にか4時だね」
椿が腕時計を見て言った。
「出た、その一日終わっちまう的な微妙な時間帯!」
坂口が明るく話す。無言で以降のやり取りも聞いていたが、どうやらこの空気を変えようとしている様だ。
「これからどーなんだろーな。助けなんて来そうにも無いし」
「あんた暗い事言うなよ。私の弟はいつからこんなマイナス思考に……」
「姉貴がプラス過ぎるんだよ」
午後6時。
俺たちを含めセンター内の全員がセンター内の中央に位置する小さい休憩スペースに集められた。
ここにはあまり来た事が無かったのでまだ頭に地図が完成していない。今分かっているのは、この建物の4分3をしめるホームセンターの横に小さなフードコート、俺たちがいる休憩スペース、おもちゃ売り場があるという事だ。
「みんなに集まってもらったのは飯の時間ってのもあるが、今日ここに新しく入って来た彼らにいろいろ聞く為でもある」
休憩スペースの中央、椅子の上でこのセンターのリーダーらしき男が俺たちを紹介しているところだ。
宮元さんと俺たちは流れで何故か中央の男の横に立たされた。周りを見渡すと座りながら全員がこっちをガン見している。
「ここに避難する条件というか、俺たちは外の情報が欲しい。どんな情報でも良いから教えてもらいたい。質問攻めはしないから安心してな」
適当に相槌をうち質問タイムが始まった。
「はーい!」
「よし、中学生!」
え、その子の名前は中学生っていうの? 名前で呼んであげようよ。可哀想だよ?
「警察の人に質問なんですが、他に生存者っていないんですか?」
警察とは宮元さんの事なのだろう。
「僕がゾンビ、外の連中に出くわした週は結構居たけど彼等と合流してからはもう見ていないな」
リーダーの男が司会の様に宮元さんに確認する感じで質問した。
「じゃあもう外には居ないんですか?」
「いや、ラジオでまだ政府は生きているという事は分かったから希望はある」
そのラジオというのは先日椿が話してくれた政府の放送である。東京以外のどこかにはまだ政府が存在しているのは確かだ。
「はーい、次の人〜」
「はい」
「ん、澄田」
「ここの周り以外にもこんなにたくさんゾンビっているんですかね?」
またしても宮元さんへの質問である。俺達立ってる意味あるの?
「全部が全部じゃないでしょうが、奴等は群れて行動しています。ですのでいるところもあれば居ないところもあります」
このことに関しては家に1人で引きこもっているときに既に確認済みであったし、坂口や宮元さんとさんざん話した結果の結論でもある。だがまだ分かっていない事の方が多すぎるのでひたすら観察するしかない。
その後も質問は続き、約20分が経過した。
この季節は夜が来るのが早いのでとっくに外は真っ暗だがゾンビは俺達を狙いガラスに体や顔、口をパクパクと動かしているのは中にあるランプや懐中電灯、ろうそくの明かりでよく見えていた。誰の目にも外は地獄にしか移っていない。それは俺も同じだ。
さすがに質問はもう無くなり誰も手を上げなくなったので司会役を勤めてる男はしめに入るようだ。
「最後に一番重要なことなんだが、俺達は近いうちに何とかしてどこかに助けを求めようと思うんだ。そしてここから脱出する。他の生き残りが近くに居るかは分からねぇけど、食料がなくなる前じゃねぇと飢え死にしちまう。ここに来ちまった以上何らかの形で協力してくれないか?」
は? 助けを求めるって、もう東京に政府は無いし自衛隊だって東京の基地はからっぽだろ。どうやって脱出するんだよ。
「こういっちゃ変だがあんた達は実戦経験が豊富だろうし、エアガンじゃさすがになぁ~」
そういってコスプレ特殊部隊をチラチラわざとらしくみて笑う司会役の男。モール内にみんなの笑い声が響く。笑ってる暇は無いと思うのだが、笑ってでもいなければこんな生き地獄になってしまった世界ではまともになれないということなのだろうか。どうも俺にはそこが分からない。
「ってことでお願いします!」
「分かりました」
宮元さんは即答。
「「はい」」
他のみんなも続いて返事をしたわけだが……
やばい!
返事し忘れた!!




