隠し事
黒ずくめの特殊部隊に包囲された俺達は言われるままに武器を全て捨て、両手を頭の後ろにしてしゃがんだ。そうするしか無かった。
「うわぁぁぁん! やだぁぁ!! ごわいよぉ……ッ!?」
日向野光梨が泣き叫ぶのを必死になって止める日向野怘。
銃口を向けられるなんて始めてだ。
「ひぇぇっ!?」
と笹木は小さく悲鳴をあげる。
リアルに死ぬ恐怖を俺はまだ味わった事が無い。
「わ、分かりましたから!!」
と姉貴は大人しく座る。
撃たれれば絶対死ぬ。
彼らが持っているライフル銃に何と無く見覚えがあった。ゲームでよく目にするタイプの銃。恐らくM4A1だと思うが何故こんな所にいるんだ?
「全員武器はこれで全部か! そのままじっとしてろ!!」
「「ひっ!?」」
そんな事を思っていると隊長と思われる奴が宮元さんに話しかけてきた。
「おいお前! 名前と職業を言え!!」
宮元さんは俺達を見回し素直に答え始めた。俺達の命を優先してくれたのだろう。だが逆らったら宮元さんも只では済まないであろう。ならこれが最善。
「宮元誠也、警察だ」
「えっ、警、さ……ッ!嘘をつくな!正直に言え!!」
隊長っぽいのが警察と聞いて一瞬怖気付いた様に見えた。まさか警察だとは思わなかったのだろうか?
「本当だ。ポケットに手帳があるから確認してみろ」
そう言われ動揺し始める隊員達にはさっきの様な恐怖はもう感じ無かった。
「た、隊長……どうしやますか?」
「本当だったらヤバいですって」
「そうっすよ。俺ら犯罪者になっちまいやーー」
「うるさい! とにかく確認だ!」
そう言ってドスドスと隊長っぽいのが宮元さんに近づきポケットをガサゴソし始める。中から警察手帳を出して顔を確認し始めた。
「……ッ!?」
警察手帳を落とし、とんでもない事をやらかした小学生の様な顔になった隊長っぽいのは後ろに後ずさりし始める。
場におかしな空気が漂い始める。
先程までの恐怖が疑問に変わり俺達は隊長っぽいのとその他の武装した連中を凝視し始めた。
するとそれに耐えきれなくなったのか、はたまた俺達が怪しい奴らじゃないと分かった為か、銃口を下げ態度を一変させる。
「疑ってすみませんでしたーッ!!ささ、こちらへ」
「おーい! なんだなんだ、その人たち大丈夫なんかい?」
奥から老婆の声が聞こえてきた。よく目を凝らせば奥にある商品棚に何人か人が隠れてるのが見える。どうやら俺たちが危険かどうかテストしていたらしい。
その後は不満の爆発して暴れだしそうになった姉貴を抑えたりしながら仲の人たちと顔合わせした。
中にはざっと30人以上もの生存者が避難していた。何でも特殊部隊のコスプレ野郎共が先にここに立て籠もっていた人達と協力して危険な奴かどうかを判別していたらしい。
にしてもコスプレかぁ、今度やる時混ぜてもらいたいな。
「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」」
「もう良いですから! そんな土下座なんて」
何度も誤るコスプレ特殊部隊を見て思った。こいつらはきっと悪い奴ではない。ただ良い人かどうかはわからない。見た目と行動で判断しないとだな。
「あの、宮元志織という女性を見かけませんでしたか? 肩より少し長い髪で茶色い目の人で。僕の妻なんです」
「すまないねぇ、私も逃げるのに必死で……」
「そ、そうですか……。ありがとうございました」
宮元さんは自分の奥さんの情報を求めていろんな人に話しかけていた。その必死さは見ていた俺たちを自然と動かした。
「俺たちも手伝いますよ」
「ありがとう……。頼む」
「誠也さん! 困ったときはお互い様です!」
「坂口、お前ほんとに手伝う気あるのか?」
「あるにきまってるでしょ? ほら行くよ!」
全員で手分けして聞きまわったが誰も見ていないという。それでも宮元さんはあきらめていなかった。へこむ事も無く、きっと生きてると口に出して自分に言い聞かせていた。その目はゾンビを殺していたときとは違い、すごく希望に満ちた目だった。
それから俺たちはなんとなく中を探索した。どこに何があるか、もしものときの避難通路やトイレ、食料の配置。そして気になっていたことが1つ。日向野の話といろいろ食い違っているのだ。
日向野の話によれば場所はここであっている。だがホームセンター内を支配していたはずの連中が見当たらない。なので手分けしてまた聞いてみることにした。
まずは30代くらいの灰色のジャンプスーツを着た男に聞いてみた。
「あの~すみませんが、ここに武器か何か持った人たちって居ませんでしたか?」
「いや、見てないな」
「そうですか、ありがとうございます」
次は中学生くらいの男女4人組に聞いてみた。
「なぁ、ここに武器持った奴らが居なかったか?」
「い、いやいなかったと思います。な、なぁ?」
「あ、あぁ。居なかった。居ませんでした」
「そうか、ありがとう」
その後も聞き込みをしたがみんな何かを隠しているようで何も教えてくれなかった。一度集まり俺たちは生活用品売り場のベットの周りに座ってこのことを話し合うことにした。
「あ、トイレ行ってきます」
椿がトイレに行ってしまったが宮元さんが話を始めた。
「この事に関して多分あまり追求しないほうがいいんじゃないか?」
「何でですか?」
俺はすかさず聞き返した。
「考えられるのは、そいつらが出て行った。それかここの人たちが協力してそいつらを殺したか。僕は圧倒的に後者だと思うんだが、これ以上君たちを危険な目に合わせたくないしあんまりいざこざを起こしたくない。……だけど」
「だけど?」
姉貴が聞く。
「仮にも僕は先月まで警察官だった。まだ決まったわけじゃないけど、誰かが殺されたなら見過ごせないし、悪意が無かったとしたらなおさら真相を知りたい。隠したままで居たら殺してしまった人たちの精神面が心配だ。だから僕が単独で動く」
「え、でも」
坂口は立ち上がり宮元さんに言った。言おうとしていることは分かるし俺もこのままのするのは嫌だから一緒にどうにかしたい。だけども危険なマネは避けたい。
「駄目だ。もしここの人たちが秘密を守ろうとして襲ってきたらどうする? 関らないほうが安全だ」
「だけど!」
日向野も立ち上がる。
「しっ! 声がでかい」
「あ、はいすみません」
「とりあえずもうこのことは僕が何とかするから君たちはゆっくり休んで。せっかくこんなに人が居るところに非難できたんだから」
宮元さんがそう言って話をやめようとした時だった。
椿がものすごいスピードで帰ってきた。額に汗を流し、息を切らしている。
「宮元さん……はぁはぁはぁ、もしかしたら見つけたかもしれません」
「な、何を?」
「死体」
それを聞いて宮元さんはサッと立ち上がり椿に案内を要求する。俺と日向野はトイレに行くふりをして笹木と日向野妹、姉貴、坂口をその場に残し駄目だという宮元さんを無視して一緒に椿に付いて行く。
そこはトイレのすぐ近くにある関係者以外立ち入り禁止と書かれた店員用のドアであった。幸い周りには誰も居なかったので静かに中に入る。すると鼻がもげそうになる異臭がした。だが俺はこの臭いを割と最近に嗅いだことがある。
中は長い廊下になっており、いくつかのドアがある。
その臭いの元を確かめるべく宮元さんは奥に走っていった。そして一番奥にあった部屋のドアを開けた。開けた瞬間にもの凄い異臭とともにハエが飛び出した。
恐る恐る宮元さんのもとに近づく。
「……みんな、見ないほうがいい」
「うっ!? かなり経ってますね」
「まじかよ……」
俺は目の前の死体を見てただただぼーっとしていた。人生初、俺はゾンビ以外の死体を見た。言葉なんて出なかった。出るものか。




