移動
さすがに食い過ぎたか。いや、この人数なら当然か。
残りの食料がもう大分少なくなってきので、とりあえずパサパサになっているパンと水、お菓子を持って外に出た。
男は俺の親の服で厚着、女は毛布で暖を取る程に肌寒くなって来た今日のこの頃。
問題は全く解決されず増える一方だが、もしかしたら今日、一つの問題が解決するかもしれない。
昨日の坂口の提案で俺達は他の生存者と合流はしないでそこの物資を盗む事にした。
俺は怖いので反対したが、なんと反対が俺と日向野光梨だけ。「宮元さんがいればなんとかなるっしょ」的な流れで……多数決で決まった。
幸い俺達の行こうとしている場所には善人は居ない様なので何をしてもそこまで良心は痛まない。
こんな案が出るなんてホントに世も末だな。
とりあえず後ろから見てる事にしよう。
もちろん留守番はいない。最悪家を放棄して乗っ取る作戦だからだ。戦闘要員が宮元さんくらいしか居ないのが欠点だが、まぁなんとかなるはずだ。
全員武器になりそうな包丁や傘は持って居るので誰かが襲われても反撃は出来る。
しばらく歩いた所で大通りに差し掛かった。
「何で今日に限ってこんなに居るんだよ……」
目の前の大通りには何十体ものゾンビがノロノロ徘徊していた。気付かれない様に後ろに下がる。
「迂回しないとだね」
俺の横に椿が来て言った。
迂回しようと来た道を戻ってみたが数体のゾンビがいたので中々移動出来なくなってしまった。非常にまずい。
近くにあった公園に入り少し休む事にした。公園は特に死体も無いしいつも通り綺麗な状態だった。トイレの方の悪臭は別として。
よく見ると植物の葉が多かったりするのが新鮮だ。
「ちゃんと周り警戒しろよ。俺ゾンビ来たら逃げるから!」
「うわー、樹頼りなさ過ぎ」
「姉として恥ずかしいわ」
正直な意見を言ってみたが反対されても反応してもらえるだけで妙な安心感が湧く。
……ドMかよ。
滑り台に日向野が登りその周りを俺達が囲むようにして座った。
「なぁ、あいつらノロいから走れば行けるんじゃないか?」
「走る奴いたらどーすんだよ。この人数じゃ無理だろ」
日向野が言ったが、もちろん反対した。あいつらの怖い所はいつどこから現れるか分からないところだ。
「しっ!!一体来たよ」
姉貴の見ていた方向からうちの学校の男子生徒だったゾンビが歩いて来た。もう肌寒いのに夏服を着ているのが、時間の早さというか、時が流れるのが早いという風に感じ取れた。ホントよく今まで生き残れたよな俺。
宮元さんが木刀で頭を割り仕留めると同時にすぐに移動した。公園を後にする。まだゾンビの特徴は分からないが長くいると集まってくるのは、みんなの話を聞いて何となく分かった。
ではショッピングモールやホームセンターはどうなっているのだろうか。囲まれてたりしたら中に入れないよな。
俺達は宮元さんを先頭に固まって一気に進んだ。ゾンビが見えても気にせずにスルーしていく。お化け屋敷を全てスルーするくらい怖いが、道ゆく人がフラフラの酔っ払いと考えれば幾らかマシだった。
「ほら、あそこだ」
日向野が100m程先を指差す。そこには大きな駐車場と2回建ての大きなホームセンターがあった。駐車場には乗り捨てられた車が散乱し、終末の世界観を醸し出す。俺は数回しか行った事が無いし、何より今いる買い物客はどうやら中の生存者を狙っている様だ。
そう、俺達以外に生存者がいたのだ。
「かなり期待出来るね」
坂口がボソっと呟いた。
確認しづらいが中に誰かいるのは間違いない。近づくうちに屋上にいた人と目が合ってしまった。
「あの〜、向こうの人に気付かれたんですけど……」
「ちょっと貸して。コミュニケーションとってみる」
宮元さんに双眼鏡を渡し俺達は駐車場の近くにある庭園の様な場所のベンチに腰掛けた。
目の前の駐車場にはゾンビが百体はいるはずなのだが、果たしてこんな事していて大丈夫だろうか。
屋上の人が段ボールに何かを書いてこちらに向けて来た。それを宮本さんが双眼鏡で確認する。
「中には今12人いるらしい、合流しようって言ってるんだけどどうする?」
「日向野の言ってた武装した連中って居ないんですか?」
「分からない、こっちから何か伝えようにも書く物が無いからね」
これは困った。存在を知られてしまい、向こうはこちらとコンタクトを取りたがっている。今まで他人に襲われる何て事は無かったが、それは単に運が良かっただけだ。
「なんか最初の作戦と大分変わって来たね」
「てかあんな野蛮な作戦元から無理あっただろ」
「樹はともかく、飛鳥とか誠也さんなら行けるでしょ」
「あのなぁ……。これからどうする?」
他のみんなにも話題を降ってみた。すると最初に姉貴が答えた。
「私は行った方が良いと思うな。盗みより楽だし」
「ぼ、僕も賛成です」
椿も便乗してきた。おいおい、物盗むの賛成したの誰だよ。
「だけど合流するにしてもあのゾンビどうする?」
「「……」」
「……いやいや黙らないでよ」
俺が言ったら全員黙り込んだ。先の事考えて無いのかよ。
「駐車場の車使えないですかね?」
椿が宮本さんに言った。ちなみにこいつは美形な方なので上目遣いがカッコ良くてイラつく。素直にかっこいいと言えば良いんだろうがそれはプライドが許さん。
「鍵が着いてれば……多分……でも何に使うんだい?」
ゾンビ映画が好きな俺は知っている。車+ゾンビと言ったらアレしかないだろ。
「ゾンビを轢きまくってそのうちに中へ……とか」
ほらやっぱり。だと思ったぜ!
「引くって……」
そう、宮元さんは元警察。人を轢くなど出来るはずないだろ。人じゃないけども。
なのでここは助言しておこう。
「車を使うならトラックとか重い車じゃないとマズイですよ。最悪横転しますし窓ガラスが割れたら大変ですし、死にますよ?」
「重い車ならあるよ? ほら!」
坂口が指差す方向にはコンテナ付きの大型トラックがあった。あったのかよ……。
ドアは開きっぱなしで鍵も刺さっていそうだ。確かにあれなら何体轢いても大丈夫だろう。
だがその後は?
轢いたら轢いたで残りに襲われるに決まってる。武器も近接のみ。無理だ。
反対するしかない。
宮元さんに一歩近づき言った。
「あ、あの、だったら」
「あ、なんか上の人達が投げましたよ?」
坂口に遮られた。それを無視して別の策を言おうとした瞬間……。
ヒュュュュュュ……ッパァァァァァッン!
ホームセンターの屋上から投げられたそれは赤や青、緑の煙と光を発して爆発した。ロケット花火だ。
駐車場から離れた距離に投げられた為、ゾンビが音につられて移動を始めた。目はやはり悪いのだろう、誰もいない道路に大群は進み続ける。
「も、もしかして、助けてくれたのかな?」
椿が移動するゾンビを目に驚いた様な表情で言った。それに答えたのは宮元さんだ。
「でも気を付けないと」
全くだ。中に招き入れる理由なんて幾らでもある。まずは持ち物。所持している武器や食糧を奪うため。女目当てという事もある。法律が機能してないのだからやりたい放題というわけだ。単に合流したいだけってのももちろんあるだろうが。
数分後、ゾンビのほとんどが散り多少安全になったところで中から正面のガラスの自動ドアを開けて男の人が出てきた。
こっちに来いとジェスチャーを送って来るのでそれに従い正面の入り口まで走った。
中に居れてもらうと入り口に居た他の人達が急いでドアを閉めタンスや棚などでバリケードの様な物を素早く組み直していった。
それが終わると同時に奥から走って現れた特殊部隊の様な黒い服と黒いヘルメット、黒いゴーグル、黒いマスクで武装した者5人が俺達を囲んで銃を向けた。
「手を上げろ! 武器を捨てて両手を頭の後ろへ! 早くしろ!! さもないと撃つ!!」




