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精神面

「こんなもんかな」


 埋葬を終えた俺達は墓の前で手を合わせた。自殺らしいのでまさか墓から出てくる事は無いであろうが、俺はちょっとだけみんなの後ろで手を合わせていた。


「ありがとうございました……すみませんでした、迷惑ばっかりかけて」

「そんなっ、迷惑なんてかけて無いよ! 私が全部言い出したんだから美乃梨ちゃんは悪く無いよ!」


 何処か寂しげな笑顔でポロポロ泣く笹木を何とか元気付けようとする坂口。だがそう簡単では無い。多分笹木は一生引きずり続ける。


 ここは笹木の家の庭だ。そこに2人の墓を作った。


 そう、笹木の両親の墓だ。

 死後硬直で穴を掘るのにかなり苦労してしまった。


 笹木の両親は笹木が家に帰る前に既に自殺していたらしく、俺達が彼女を見つけた時には精神的にかなり不安定だった。笹木にリビングに上がらせてもらうと、顔に布を被せた両親の遺体があった。

 笹木は強気の口調になったりいきなり泣き出したりと、何処にもぶつけられない感情を主に坂口に対してはらしていた。

 今のところ唯一の同性だからな。ある意味いちばん頼れる存在なのだろう。



 しばらくして家に上がらせてもらった。特にやる事が無くなってしまい無言の時間が長く続いた。

 今までは学校から脱出したり、自宅に避難したり、知り合いと合流したりと何かしらの目的があった。

 目的が無いままズルズルサバイバルするのは精神的にかなりきつい。どうしたものか。


 やはり日向野達と合流するべきか?それとも安全そうな場所に避難して暮らすか……


「腹……減ったな」


 時刻は午後5時。俺の一言に唯一反応したのは坂口だ。笹木は部屋に閉じこもり、宮元さんは疲れて寝てしまっていた。


「私もお腹すいたぁ〜。それになんだか疲れた」

「だな、冷蔵庫の中見ても平気だよな?」

「大丈夫じゃない?」


 一応坂口の確認はとったので何を言われようが俺の知ったこっちゃないよな。

 そんな事を心の奥底で思いながら冷蔵庫を開けた。

 中には卵、ベーコン、ヨーグルト、バターなどの朝食っぽいものしか入っていなかった。ゾンビ共が現れた日のままの様だ。


「うわ、賞味期限切れてんじゃん」


 冷蔵庫を閉めた。

 まぁ普通だよな。俺みたいに冷静なのがおかしいんだ。そう思えば思う程暗い気分になっていく。

 一日くらい夕飯抜いても大丈夫だよな?


「私、やっぱり良いや。美乃梨ちゃんの部屋に行って来る」

「あ、あぁ。分かった」

 

 そして一階には俺と宮元さんだけになった。

 ちょうど起きてくれたので暇つぶしに会話を始めた。


「宮元さん、ゾンビ共何処に行ったんでしょうね」

「んー、知ってる限りだと、あいつらは人の集まる場所に絶対来るから今頃は避難所か自衛隊とかを襲ってるんじゃないかな」


 そう言った宮元さんは自分の発言で何かに気づいた。もちろん俺もだ。


「志織……、あいつなら。……昔っから運だけは良いからなぁ」


 志織、始めて聞く名だがおそらく宮元さんの奥さんだろう。宮元さんが帰った時には既に出かけた後だったらしいので、生きていれば避難所か自衛隊に保護されているんじゃないだろうか。


 自衛隊や避難所が今もあればだが。


「そーいえば、宮元さんと奥さんってどうやって知り合ったんすか?」


 もちろん興味なんて無いが今の微妙な空気を変えるにはこれしか思いつかなかった。


「え? いきなりなんだい?」

「いや、めっちゃ興味あるんすよ!」


 もちろん大嘘だ。そんな事はいざ知らず宮元さんは照れながら話し始めた。


「んー、まぁ、僕が一目惚れして何とか話しかけようときっかけ作る為にいろいろしてた頃があってね」

「ふむふむ!」

「追っかけてる時、彼女が車に引かれたんだよ」

「え!? それやばくないすか!?」

「僕もそう思ったよ。でも僕が救急車を読んであげて付き添いで病院まで行ってさ、怪我も打撲くらいで次の日お礼を言われたんだよ。それがちゃんとした始めての会話だったかな」


 なんだこの妙なドラマチックなコイバナは……。

 

「でもその後は?」

「話せただけでもうれしかったからまず友達になったよ」

「なるほどなるほど」

「なんだい? 好きな子でもいるとか?」

「いえまったく」

「僕も話したんだから火鷹くんも何かないの?」


 おっと、この展開は予想してなかったな。もちろんだがコイバナなんてないし面白い話も特に持ってない。やべぇ、どーしよ。


「と、とりあえずツイッターでも見ましょう。東京だけ封鎖されてるならまだ使えるでしょう」

「づるいな~。でも本当に使えるのかい?」

「まだ一度も試してないんでわかりませんが、電気がまだ通ってるなら発電所は無事だろうし……」

 

 取り合えず話はそらした。言った通りに携帯でツイッターを確認した。画面をタップすると情報が更新された。試しにゾンビとうって検索してみるとものすごい量のツイートを発見した。


「あれ、繋がってますよ……コレ」

「なっ、なら外と連絡は取れないか!? 現在の状況は!?」


 宮本さんは俺の隣に来て携帯を覗き込む。


「あ、ゾンビの特長とかありますね。なになに」


 俺が見つけたのはこんなものだった。





 ゾンビの弱点は頭。バット等の鈍器や刃物で脳を破壊すれば動きが止まる。


 痛覚がない。体を斬っても追って来る。


 目や鼻が悪いが必ず人の集まる場所に集まってくる。避難所は避けるべし。


 個人差があるが時々話せる奴がいる。


 噛まれて死んだらゾンビになる。ゲームと同じ。


 走れる奴がいる。安易に近づくな。


 全部が全部同じタイプじゃない。





「個人差って……そんなもんどうやって見分けるんだよ!? それに話せるって……」


 つまりこの騒動は単なる流行病なのか? 情報が少な過ぎる。話せるってなんだ!? そんなのチートだろ!? 会話するゾンビとかただの生物兵器じゃねーか!!


「東京以外は? ほかの県は無事なのか?」

「ちょっと待ってください」


 検索するとさらに情報が得られた。


「神奈川、千葉、宮城……東京だけじゃ無いっすね。多分このゾンビ騒動って外国から来たんじゃ……」


 書いてある県は空港などがある場所、大きな港がある場所ばかりだった。


「じゃ、じゃあこのまま広がったら取り返しが付かなくなるのか」

「そ、そうなりますね……」


 今まで東京の外の情報が入って来なかった所為なのか、心の底でワクワクしていたから気づかなかったのか。このままでは映画通りの地獄になってしまう。


 そう考えている内に自分の中で恐ろしい仮説が出来上がってきた。今までゾンビに遭ったのは初日と2日目くらいだ。それ以降ほとんど見ていない。

 ツイッターにゾンビは人の集まる場所に集まるとあった。

 つまり、襲う人間が居なくなったらこの辺りに戻ってくるんじゃないか?

 だとしたら一刻も早くひと気の少ない田舎に逃げなければならない。


 俺は更に検索して情報収集に専念する事にした。




 翌日、どうやら俺はソファーで寝てしまったらしく、体制もうつ伏せのままだったのでめちゃくちゃ足腰、首が痛いという最悪の状態で目が覚めた。

 テーブルを挟んだ反対側の床に宮元さんが寝ていた。どうやらまだ早朝らしい。携帯を開き時間を確認すると、5時15分。

 身体中が痛いのでしばらくソファーに横になり天上を眺めていた。


 すると2階から勢いよくドアの開く音がした。


「樹!! 早く上来て!! 早く!!」


 借り物の黒のジャージのズボンとピンク色のパーカー。そして茶色い髪とうるさい声。坂口だ。朝から騒々しいな全く。


「なんだよ、普通おはようだろ……ってちょっ!? 痛い痛い痛い!! タンマタンマ! 首がぁ!!」

「早くしてよ!! あんたの大好物が帰って来たんだよ!!」


 ソファーから引きづり降ろされそのまま坂口と笹木の寝ていた部屋に連行された。

 思えば女の子の部屋着なんて初めて見たな。この女といると初体験全部奪われそうで怖いな。


 つか大好物って言われても俺の好物は焼き肉だぞ? 帰って来ようにも来れない代物だぜ?


「お、おはようです……」

「お、おはよう」


 部屋には窓越しに双眼鏡を握りしめた笹木がいた。こっちはクリーム色のTシャツと灰色のハーフパンツ。

 男も女も着るものって大体同じなんだな……。


「ほら! 早く窓の外見て!!」

「え? 何があるんだ?」

「双眼鏡使って下さい」


 手渡された双眼鏡で指示された通りに薄暗いコンビニの方角を見た。



「下に行って宮元さん起してくる。あれは早く行かないとやばいぞ」

登場人物が多くなって来たのでそろそろキャラ紹介を挟もうと思います。

これからもよろしくお願いします!

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